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第9話

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「…とうとう、一線を越えてしまったわね、王国は…」

 ジャックが持ち出してきた書類を見て、失望の声が漏れる。

「…みたいだな。王国の不自然な黒字財政の正体はこれか…」

 私たちの手元には、表紙を全く同じとする書類が二冊。いずれもタイトルは王宮帳簿。

「王宮帳簿が二冊。しかも中に記載されている数字がほぼ正反対。…なら、答えは?」

 私はそう言って、ジャックの顔を見る。

「…これはまぎれもない、裏帳簿…だな…」

 あきれ顔で、私に答えるジャック。

「…もしも隠されていた方の王宮帳簿の数字が正しいのなら、もう王国は…」

 そこから先は、言うまでもないだろう。彼も、心底理解している様子だった。
 そしてそんな会話をしている最中、第三の人物が姿を現す。

「…ミ、ミリアさん、ど、どうしてここに…!?」

「俺が呼んだんだ。久しぶりにあこがれの先輩と話がしたいだろう?」

 ジャックが呼んだ、シャルク君だ。

「…シャルク君、元気だった?」

「…」

 私の質問に、俯いてしまうシャルク君。…彼は本当に素直でまっすぐな人間だから、彼を問いただすのは正直心が痛い…しかし、やらなければいけない…

「…ねえシャルク君、この帳簿はもちろん知ってるわよね?」

 そう言い、私は表と思われる方の帳簿を提示する。

「は、はい…もちろんです…」

「そう…なら…」

 私は帳簿を開き、問題のページを彼の前に提示する。

「この臨時歳出金、処理担当はあなたよね?」

 その言葉を聞いた途端、あからさまに症状が曇るシャルク君。

「…ぼ、僕には、なんのことだか…」

 視線をそらし明らかにとぼける彼に、ジャックが横から問いただす。

「嘘はよくないな。この臨時歳出金の処理担当者として、わっかりにくい箇所に君のサインがある」

 例のサインの部分を、ジャックが指さす。

「っ!!!!!」

 目を見開き、一歩後ろに下がるシャルク君。…呼吸が早くなり、全身が震えてしまっている様子だった。

「…ねぇシャルク君、私は今でもあなたを信頼してる。だからこそ、知ってることを全部話してほしいの。私はあなたの事を、嫌いにはなりたくないから…」

「っ!!」

 それは、私の正直な思いだった。王宮にいた時から、彼は本当にまじめに働いていた。何度も突き付けられる国王の無理難題の前に、くじけそうになった私を励ましてくれたことだって、何度もあった。…そんな性格の彼だからこそ、この裏帳簿を提示する前に、自分自身の口から話してほしかった。
 彼はこぶしを握り、唇をかみしめ、自分と戦っている様子だった。…そして少しの時間をおいて、彼は口を開いた。

「…すべて、僕の責任です…」
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