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七話 決別の銃声と甦る絆
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銃声は雨音を切り裂き、硝煙の匂いが血の鉄臭に混じった。グレイヴスの右肩から血しぶきが上がり、彼の剣が水溜りに沈む。私の手を震わせた紋章指輪型の拳銃から、白煙が細く立ち上る。
「お嬢様……本気で……」
グレイヴスが膝をつき、私兵たちが動揺して後ずさる。私はライアンの体を抱えたまま銃口を揺るがさない。「次は頭を撃つ」
雷光が私の金髪を青白く浮かび上がらせる。私兵たちがグレイヴスを引きずりながら撤退していくのが、歪んだ視界に映った。
「エレノア……」
ライアンの声で我に返る。彼の胸元から滲む血が、私の袖を黒く染めている。「馬が……川沿いの小屋……」
「黙って!」 私の泣き声が雨に消える。「今すぐ治療するから」
襤褸の布で傷口を圧迫し、馬の手綱を歯で噛みながらライアンを乗せる。スノーホワイトが不安そうに嘶く。「お願い、走って」
夜明け前の森を疾走する馬の背で、ライアンの体温が徐々に失われていくのを感じた。彼の首筋に触れる指先が、かつて絵具の匂いを覚えていた柔らかな肌を探す。
「あの時……スケッチブックに隠してた……」
ライアンの唇がかすかに動く。私は耳を近づけ、雨と血の匂いの中に彼の声を追う。
「侯爵家の紋章……アルバート王子の……婚約破棄……全部知ってた……」
「何を……?」
「ごめん……隠してた……」 彼の手が私の髪を掴む。「俺……王室直属の密偵……お前を守る任務で……」
世界がぐらりと傾く。スノーホワイトが川辺の小屋に飛び込んだ衝撃で、私はようやく現実に引き戻された。
* * *
小屋の暖炉に火を灯し、私のドレスの裾を裂いて包帯を作る。ライアンの上半身に刻まれた傷──それは単なる私兵の剣傷ではない。王室直属の証である鷲の刺青が、左胸に褪せて残っていた。
「嘘でしょ?」 私の声が震える。「あなたが……?」
「アルバート殿下の……頼み……」 ライアンが苦しげに咳き込む。「平民の恋人なんて……存在しない……全て……殿下の芝居……」
暖炉の火が彼の瞳を揺らめかせる。私は彼の手を握りしめ、冷たさに戦慄する。
「婚約破棄の手紙……殿下の策略……」 ライアンの指が私の掌を撫でる。「貴族の陰謀から……守るため……俺が……」
窓外で馬の嘶きがした。私は銃を手に立ち上がるが、そこで聞いた声に凍りつく。
「よくやった、ライアン」
アルバート王子が毛皮の外套を翻して入ってくる。彼の後ろに控えるのは、噂の「平民の恋人」とされた女性──実は近衛騎士団の副官だ。
「全ては殿下のご計画通り」 女性騎士が平然と報告する。「レイモンド侯爵の謀反の証拠を掴むため、令嬢を囮にした作戦が完了しました」
私の脳裏に、父がクロフォード公爵と密談する姿が閃く。あの時から、いやもっと前から──
「エレノア」 アルバートが慈愛に満ちた笑みを浮かべる。「貴女の勇気が王国を救った。レイモンド侯爵の裏切りを暴く証拠は、既に議会に提出済みだ」
ライアンの手が私の袖を引く。「殿下……約束……エレノアを……」
「ああ」 アルバートが懐から羊皮紙を取り出す。「貴女の自由を保証しよう。今後はライアンと共に、王室直属の画家として──」
「要りません」
私の声が石室を震わせた。アルバートの笑みがひび割れる。
「何だと?」
「私は父を裁くために」 ライアンの血で汚れたドレスを掲げる。「この身体を武器にした。でも」 涙が暖炉の火にきらめく。「あなた達も同じ。ライアンの心を……私の恋を……」
ライアンの指が突然力を込めた。彼の瞳がかつての輝きを取り戻している。「……逃げろ」
その瞬間、窓ガラスが粉々に砕け散った。黒装束の集団が鈴蘭の紋章を掲げて乱入する──レイモンド侯爵家の私設軍だ。
「不孝娘を連行せい!」
父の怒声が梁を震わせる。アルバートが剣を抜き、近衛騎士たちが盾を構える。私はライアンを抱えて暖炉裏の隠し戸へ駆け込む。
「待て!」
父の銃弾が頭上の梁を貫く。隠し通路を転がり落ちながら、ライアンの囁きが耳に触れる。
「川……下流の隠れ港……」
冷たい地下水が膝まで浸かる。暗闇の中を必死に進むと、わずかな光の先に小舟が浮かんでいた。
「もう大丈夫」 ライアンの手が私の涙を拭う。「俺が……守る……」
その手が突然力を失った。小舟に乗せた彼の胸元で、鷲の刺青が血に濡れていた。遠くで戦闘の音が響く中、私は漕ぎ出した小舟の舳先で誓う。
「私はもう……誰の道具でもない」
夜明けの霧が川面を覆う時、対岸の森で狼の遠吠えが共鳴した。新しい人生の始まりを告げるように──
「お嬢様……本気で……」
グレイヴスが膝をつき、私兵たちが動揺して後ずさる。私はライアンの体を抱えたまま銃口を揺るがさない。「次は頭を撃つ」
雷光が私の金髪を青白く浮かび上がらせる。私兵たちがグレイヴスを引きずりながら撤退していくのが、歪んだ視界に映った。
「エレノア……」
ライアンの声で我に返る。彼の胸元から滲む血が、私の袖を黒く染めている。「馬が……川沿いの小屋……」
「黙って!」 私の泣き声が雨に消える。「今すぐ治療するから」
襤褸の布で傷口を圧迫し、馬の手綱を歯で噛みながらライアンを乗せる。スノーホワイトが不安そうに嘶く。「お願い、走って」
夜明け前の森を疾走する馬の背で、ライアンの体温が徐々に失われていくのを感じた。彼の首筋に触れる指先が、かつて絵具の匂いを覚えていた柔らかな肌を探す。
「あの時……スケッチブックに隠してた……」
ライアンの唇がかすかに動く。私は耳を近づけ、雨と血の匂いの中に彼の声を追う。
「侯爵家の紋章……アルバート王子の……婚約破棄……全部知ってた……」
「何を……?」
「ごめん……隠してた……」 彼の手が私の髪を掴む。「俺……王室直属の密偵……お前を守る任務で……」
世界がぐらりと傾く。スノーホワイトが川辺の小屋に飛び込んだ衝撃で、私はようやく現実に引き戻された。
* * *
小屋の暖炉に火を灯し、私のドレスの裾を裂いて包帯を作る。ライアンの上半身に刻まれた傷──それは単なる私兵の剣傷ではない。王室直属の証である鷲の刺青が、左胸に褪せて残っていた。
「嘘でしょ?」 私の声が震える。「あなたが……?」
「アルバート殿下の……頼み……」 ライアンが苦しげに咳き込む。「平民の恋人なんて……存在しない……全て……殿下の芝居……」
暖炉の火が彼の瞳を揺らめかせる。私は彼の手を握りしめ、冷たさに戦慄する。
「婚約破棄の手紙……殿下の策略……」 ライアンの指が私の掌を撫でる。「貴族の陰謀から……守るため……俺が……」
窓外で馬の嘶きがした。私は銃を手に立ち上がるが、そこで聞いた声に凍りつく。
「よくやった、ライアン」
アルバート王子が毛皮の外套を翻して入ってくる。彼の後ろに控えるのは、噂の「平民の恋人」とされた女性──実は近衛騎士団の副官だ。
「全ては殿下のご計画通り」 女性騎士が平然と報告する。「レイモンド侯爵の謀反の証拠を掴むため、令嬢を囮にした作戦が完了しました」
私の脳裏に、父がクロフォード公爵と密談する姿が閃く。あの時から、いやもっと前から──
「エレノア」 アルバートが慈愛に満ちた笑みを浮かべる。「貴女の勇気が王国を救った。レイモンド侯爵の裏切りを暴く証拠は、既に議会に提出済みだ」
ライアンの手が私の袖を引く。「殿下……約束……エレノアを……」
「ああ」 アルバートが懐から羊皮紙を取り出す。「貴女の自由を保証しよう。今後はライアンと共に、王室直属の画家として──」
「要りません」
私の声が石室を震わせた。アルバートの笑みがひび割れる。
「何だと?」
「私は父を裁くために」 ライアンの血で汚れたドレスを掲げる。「この身体を武器にした。でも」 涙が暖炉の火にきらめく。「あなた達も同じ。ライアンの心を……私の恋を……」
ライアンの指が突然力を込めた。彼の瞳がかつての輝きを取り戻している。「……逃げろ」
その瞬間、窓ガラスが粉々に砕け散った。黒装束の集団が鈴蘭の紋章を掲げて乱入する──レイモンド侯爵家の私設軍だ。
「不孝娘を連行せい!」
父の怒声が梁を震わせる。アルバートが剣を抜き、近衛騎士たちが盾を構える。私はライアンを抱えて暖炉裏の隠し戸へ駆け込む。
「待て!」
父の銃弾が頭上の梁を貫く。隠し通路を転がり落ちながら、ライアンの囁きが耳に触れる。
「川……下流の隠れ港……」
冷たい地下水が膝まで浸かる。暗闇の中を必死に進むと、わずかな光の先に小舟が浮かんでいた。
「もう大丈夫」 ライアンの手が私の涙を拭う。「俺が……守る……」
その手が突然力を失った。小舟に乗せた彼の胸元で、鷲の刺青が血に濡れていた。遠くで戦闘の音が響く中、私は漕ぎ出した小舟の舳先で誓う。
「私はもう……誰の道具でもない」
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