12 / 34
第三章:才能の開花
第十二話 魔法具が呼ぶ波紋
しおりを挟む
リリアが作った〈冷気の指輪〉は、街の人々の間で瞬く間に評判となった。
夏の暑さを和らげるその便利さから、商人や職人たちの間で「ぜひ手に入れたい」との声が広がり、注文が相次ぐようになったのだ。
「アレクセイさん、追加注文がまた入りました!」
「おう、相変わらずすげえ勢いだな。……にしても、こんなに売れるとはな」
アレクセイは苦笑しつつ、注文書の束を指で弾いた。
「でも、大丈夫なんですか? こんなに注文を受けても……」
「まあ、量産のための仕組みを考えないとな。幸い、お前は魔法具作りがめちゃくちゃ上手いし、俺も協力する。職人仲間にも手伝ってもらえば、なんとかなるだろ」
そう言いながら、アレクセイは小さな木箱を取り出した。
「ところで、これ見てみろ」
「これは……?」
「この前、お前が作った指輪の改良版だ。魔石の加工を少し変えて、より魔力効率を上げた。これなら効果が長持ちするし、材料の消費も抑えられる」
「すごい……!」
「お前の発明は確かに優秀だが、改良の余地はまだまだある。だからこそ、こうして試行錯誤するのが面白いんだよ」
アレクセイは楽しそうに笑う。
リリアもその笑顔につられて微笑んだ。
――けれど、その成功は、思わぬ波紋を呼ぶことになった。
***
ある日、工房に一人の男が訪れた。
派手な刺繍の入ったローブをまとい、傲慢な態度で工房を見回す。
「ふむ、ここが例の工房か……」
その男の後ろには、数人の衛兵らしき男たちが控えていた。
リリアとアレクセイが対応すると、男は鼻を鳴らしながら言った。
「私は王都魔法具商会の理事、ガルヴァンだ」
「王都魔法具商会……?」
リリアが首を傾げると、アレクセイが小声で説明してくれた。
「要するに、貴族向けの魔法具を独占販売してる連中だよ。庶民向けの安価な魔法具なんて作りたがらねえんだが……さて、何の用だ?」
ガルヴァンは不快そうに眉を寄せた。
「君たちの工房が、最近市場に出している〈冷気の指輪〉について話がある」
「話?」
「単刀直入に言おう。我々の許可なく、魔法具を流通させるのは問題だ。魔法具の正式な販売は、我々商会を通さねばならない」
「は? そんな規則はねえだろ」
「確かに法的な制約はない。しかし、王都の市場は我々が管理している。無断で販売を続けるなら、相応の措置を取らせてもらうぞ」
「脅しのつもりか?」
アレクセイが腕を組んでにらみつける。
ガルヴァンはニヤリと笑った。
「ただの忠告だ。我々と契約し、適正な価格で販売するなら、君たちにも利益が出るはずだ。……もちろん、相応の“手数料”はいただくがね」
要するに、商会を通せという名目で、儲けの大部分を搾取しようという魂胆だ。
「断る」
アレクセイが即答する。
「てめえらのやり方には乗らねえよ。俺たちは、貴族向けの高級品を作るつもりはねえんだ」
「……そうか。ならば、覚えておくことだ」
ガルヴァンは冷たい視線をリリアに向けた。
「君の発明は、商会にとって目障りなのだよ」
そう言い残し、男は去っていった。
工房の扉が閉まると、リリアは不安げにアレクセイを見上げた。
「……大丈夫でしょうか?」
「さあな。だが、あの手の連中は金と権力で市場を牛耳るのが常套手段だ。何か仕掛けてくるかもしれねえな」
リリアは唇を引き結ぶ。
自分の発明が、多くの人に必要とされることは嬉しい。
でも、それが誰かの利権を脅かしてしまうのだとしたら……?
(私のせいで、アレクセイさんや工房に迷惑がかかるかもしれない)
胸の中に、不安が広がる。
けれど、そんなリリアの肩をぽんっと叩く手があった。
「気にすんな。お前の発明は間違っちゃいねえよ」
アレクセイが、まっすぐに彼女を見つめる。
「それに、誰かが困るからって、必要なものを作るのをやめるなんて、そんなのは違うだろ?」
「……はい」
リリアは小さく微笑んだ。
たとえどんな圧力があろうとも、自分がやるべきことを続ける――
そう、決意した瞬間だった。
***
そして、それから数日後――
工房に、一通の手紙が届いた。
それは、王宮からの召喚状だった。
夏の暑さを和らげるその便利さから、商人や職人たちの間で「ぜひ手に入れたい」との声が広がり、注文が相次ぐようになったのだ。
「アレクセイさん、追加注文がまた入りました!」
「おう、相変わらずすげえ勢いだな。……にしても、こんなに売れるとはな」
アレクセイは苦笑しつつ、注文書の束を指で弾いた。
「でも、大丈夫なんですか? こんなに注文を受けても……」
「まあ、量産のための仕組みを考えないとな。幸い、お前は魔法具作りがめちゃくちゃ上手いし、俺も協力する。職人仲間にも手伝ってもらえば、なんとかなるだろ」
そう言いながら、アレクセイは小さな木箱を取り出した。
「ところで、これ見てみろ」
「これは……?」
「この前、お前が作った指輪の改良版だ。魔石の加工を少し変えて、より魔力効率を上げた。これなら効果が長持ちするし、材料の消費も抑えられる」
「すごい……!」
「お前の発明は確かに優秀だが、改良の余地はまだまだある。だからこそ、こうして試行錯誤するのが面白いんだよ」
アレクセイは楽しそうに笑う。
リリアもその笑顔につられて微笑んだ。
――けれど、その成功は、思わぬ波紋を呼ぶことになった。
***
ある日、工房に一人の男が訪れた。
派手な刺繍の入ったローブをまとい、傲慢な態度で工房を見回す。
「ふむ、ここが例の工房か……」
その男の後ろには、数人の衛兵らしき男たちが控えていた。
リリアとアレクセイが対応すると、男は鼻を鳴らしながら言った。
「私は王都魔法具商会の理事、ガルヴァンだ」
「王都魔法具商会……?」
リリアが首を傾げると、アレクセイが小声で説明してくれた。
「要するに、貴族向けの魔法具を独占販売してる連中だよ。庶民向けの安価な魔法具なんて作りたがらねえんだが……さて、何の用だ?」
ガルヴァンは不快そうに眉を寄せた。
「君たちの工房が、最近市場に出している〈冷気の指輪〉について話がある」
「話?」
「単刀直入に言おう。我々の許可なく、魔法具を流通させるのは問題だ。魔法具の正式な販売は、我々商会を通さねばならない」
「は? そんな規則はねえだろ」
「確かに法的な制約はない。しかし、王都の市場は我々が管理している。無断で販売を続けるなら、相応の措置を取らせてもらうぞ」
「脅しのつもりか?」
アレクセイが腕を組んでにらみつける。
ガルヴァンはニヤリと笑った。
「ただの忠告だ。我々と契約し、適正な価格で販売するなら、君たちにも利益が出るはずだ。……もちろん、相応の“手数料”はいただくがね」
要するに、商会を通せという名目で、儲けの大部分を搾取しようという魂胆だ。
「断る」
アレクセイが即答する。
「てめえらのやり方には乗らねえよ。俺たちは、貴族向けの高級品を作るつもりはねえんだ」
「……そうか。ならば、覚えておくことだ」
ガルヴァンは冷たい視線をリリアに向けた。
「君の発明は、商会にとって目障りなのだよ」
そう言い残し、男は去っていった。
工房の扉が閉まると、リリアは不安げにアレクセイを見上げた。
「……大丈夫でしょうか?」
「さあな。だが、あの手の連中は金と権力で市場を牛耳るのが常套手段だ。何か仕掛けてくるかもしれねえな」
リリアは唇を引き結ぶ。
自分の発明が、多くの人に必要とされることは嬉しい。
でも、それが誰かの利権を脅かしてしまうのだとしたら……?
(私のせいで、アレクセイさんや工房に迷惑がかかるかもしれない)
胸の中に、不安が広がる。
けれど、そんなリリアの肩をぽんっと叩く手があった。
「気にすんな。お前の発明は間違っちゃいねえよ」
アレクセイが、まっすぐに彼女を見つめる。
「それに、誰かが困るからって、必要なものを作るのをやめるなんて、そんなのは違うだろ?」
「……はい」
リリアは小さく微笑んだ。
たとえどんな圧力があろうとも、自分がやるべきことを続ける――
そう、決意した瞬間だった。
***
そして、それから数日後――
工房に、一通の手紙が届いた。
それは、王宮からの召喚状だった。
30
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています
唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」
家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。
実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。
噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて――
「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」
靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!?
磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる