たった一つの居場所が失われても、細い糸を手繰り寄せて

青森りんご

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第三章:才能の開花

第十七話 革命の始まり

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 リリアとアレクセイは、夜の街を全速力で駆け抜けていた。

 王宮直属の騎士団が自分たちを本気で追ってきた以上、悠長にしている暇はない。

 しかし、逃げるだけでは終わらせない。

「アレクセイさん、行くあては……?」

「決まってる。俺たちには“頼れる場所”がある」

 アレクセイはそう言うと、街の路地裏へと入っていった。

 リリアはすぐに気づく。

(……この道は、スラム街に続いてる?)

 王宮の華やかな街並みとは正反対の、貧しい人々が暮らす場所――そこには、王宮に見捨てられた者たちが数多くいた。

 リリアは、ふとアレクセイの言葉を思い出す。

「こっちも、それなりの味方をつける」

 彼は本気で、王宮と対抗しようとしているのだ。

「ここだ」

 アレクセイは、ボロボロの倉庫の前で足を止めた。

 扉をノックすると、内側から小さな窓が開き、中から鋭い目つきの男が覗く。

「……合言葉は?」

「“夜明け前の星”」

 その言葉を聞くと、男は無言で扉を開いた。

 中に入ると、そこには十数名の人々がいた。

 鍛冶職人、商人、盗賊団のような者まで――皆、一様に鋭い目をしている。

 その中に、一際目立つ男がいた。

 年の頃は三十代半ば、無精ひげを生やした精悍な男――

「やれやれ、こんな夜更けに珍しい客人だな、アレクセイ」

「ロイ、世話になるぜ」

 アレクセイは気安くその男――ロイと呼ばれた人物に声をかける。

「そちらは?」

「リリアだ。魔法具職人で、こいつの技術は本物だぜ」

「……ほう?」

 ロイはリリアを値踏みするように見つめた。

 しかし、リリアは怯まない。

「初めまして。私の作る魔法具は、誰にでも使えるものです。貴族ではなく、民衆のための道具……そういうものを作り続けています」

「……なるほどな」

 ロイはしばらく考え込み、やがてにやりと笑った。

「アレクセイ、お前の言う通り、なかなか面白そうな嬢ちゃんだ」

「だろ?」

 アレクセイも笑う。

 その瞬間、リリアは確信した。

(この人たちは、私の“仲間”になりうる……!)

 王宮に見捨てられた人々。

 しかし、彼らこそが、リリアの作る魔法具を最も必要としている。

「リリア、あんたが作れるものを見せてみろ」

 ロイが言う。

 リリアは頷き、懐から小さな魔法具を取り出した。

「これは……?」

「“魔力供給装置”の試作品です。微弱な魔力でも、大きな魔法を発動できるようにするもの……魔力を持たない人でも、簡単な魔法が使えるようになります」

 ロイは目を見開いた。

「……それが本当なら、とんでもない代物だぞ?」

「本当です。試してみますか?」

「ぜひ、頼む」

 リリアは微笑み、魔法具を起動させた。

 小さな灯が灯り、ロイの手元に魔力が伝わる。

「おお……!」

 彼は感嘆の声を上げた。

「これがあれば、俺たちの仲間も戦える……!」

「……王宮に対抗するために、ですか?」

 リリアの問いに、ロイは静かに頷いた。

「嬢ちゃん、あんたの技術があれば、俺たちは“革命”を起こせる」

 その言葉に、リリアは息をのむ。

 革命――

 それは、王宮にとって最大の脅威となるもの。

 しかし、それこそがリリアが目指していた道なのかもしれない。

(私の作るものが、誰かの希望になるなら……)

 リリアは、ゆっくりと頷いた。

「……私は、私の技術を必要としてくれる人のために使います」

「決まりだな」

 アレクセイが笑う。

 こうして――

 リリアの“反撃”は、本格的に始まったのだった。
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