たった一つの居場所が失われても、細い糸を手繰り寄せて

青森りんご

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第三章:才能の開花

第十六話 反撃の狼煙

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 王宮を抜け出したリリアとアレクセイは、夜の街を駆け抜けていた。

 周囲は静かだったが、王宮の衛兵がすぐに追ってくるのは間違いない。

 リリアは息を整えながら、アレクセイに問いかけた。

「……これから、どうするつもりですか?」

「決まってる。とっとと隠れ家に戻って、今後の作戦を立てるんだ」

「作戦……?」

 リリアは戸惑いながらも、内心、覚悟を決めていた。

 王宮が本気で自分を排除しようとしている以上、今まで通り魔法具職人として活動するのは難しい。

 何かしらの対策を講じなければならない――そう思っていた矢先だった。

 アレクセイはニヤリと笑い、言った。

「このまま逃げ回るつもりはねぇよ。むしろ、こっちから仕掛ける」

「……どういう意味ですか?」

「簡単な話だ。お前の魔法具を“必要としてる人たち”を、王宮より先に味方につけちまうんだよ」

「……!」

 リリアは驚き、そしてすぐに理解した。

(そうか……!)

 王宮は貴族たちの都合で動いている。

 しかし、リリアの作った魔法具を必要としているのは、庶民や騎士団、そして一部の下級貴族たちだった。

 ならば――

「つまり……王宮より先に、民衆の支持を得るということですね」

「そういうことだ」

 アレクセイは満足げに頷いた。

「貴族どもは自分たちの権力を守るために動いてるが、民衆はそんなことに興味はねえ。大事なのは“便利かどうか”だけだ。だったら、王宮に潰される前に、民衆にリリアの魔法具を広めちまえばいい」

「……でも、それって王宮にとっては“反逆”とみなされるのでは?」

 リリアは少し不安そうに言った。

 しかし、アレクセイは肩をすくめる。

「もうとっくに敵扱いされてんだ。今さら“反逆”なんて言葉を気にしても仕方ねえよ」

「……それも、そうですね」

 リリアは苦笑しつつも、次第に決意を固めていくのを感じた。

(私は、ただ自分の作ったものを“必要な人に届けたい”だけ……それが王宮の都合に合わないからって、引き下がるつもりはない)

「……やりましょう、アレクセイさん」

 リリアの瞳に力が宿る。

 アレクセイは満足げに頷いた。

「よし、決まりだ。ならまずは――」

 アレクセイが次の行動について話そうとしたその時だった。

「――待て!」

 突然、鋭い声が響き渡る。

 二人が振り向くと、そこには十数名の衛兵たちが立ちはだかっていた。

 彼らの中心には、一人の長身の男がいる。

 漆黒の騎士服を身にまとった男は、冷たい目でこちらを見据えていた。

「……ギルフォード隊長」

 リリアはその名を知っていた。

 王宮直属の騎士団の隊長、ギルフォード・クラウゼル。

 無駄な感情を一切排した冷徹な剣士であり、王宮内でも最も実力がある騎士の一人とされている。

 彼がわざわざ自分たちを追ってきたということは――

(本気で、私たちを捕らえるつもり……!)

 リリアは息をのむ。

 だが、アレクセイはまったく動じず、ふっと笑った。

「へぇ……王宮の犬が直接お出ましか」

「無駄な抵抗はするな。おとなしく捕まれば、命までは取らない」

 ギルフォードの声は冷たく、鋭かった。

 しかし――

「そいつはありがたい申し出だが……遠慮しとくぜ!」

 アレクセイは瞬時に魔法具を取り出し、地面に叩きつけた。

 次の瞬間――

 ドォン!!

 轟音とともに煙幕が発生し、一帯を白い霧が包み込む。

「くっ、煙幕か!」

 衛兵たちが慌てる間に、アレクセイはリリアの手を取り、脇道へと駆け出した。

「こっちだ!」

「はい!」

 二人は夜の闇に紛れながら、路地を駆け抜ける。

 ギルフォードの部隊はすぐに追跡を開始するだろう。

 しかし、リリアは確信していた。

(もう、私は逃げるだけじゃない……!)

 この先、リリアとアレクセイの反撃が始まる――!
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