たった一つの居場所が失われても、細い糸を手繰り寄せて

青森りんご

文字の大きさ
28 / 34
第四章:改革と駆け引き

第二十八話 真意

しおりを挟む
 監査官グレゴールの調査が始まってから一週間が経過した。

 彼は極めて慎重で、研究所のあらゆる記録を精査し、資金の流れ、魔法具の開発状況、従業員の動きまで細かく調べていた。

「まるで犯罪捜査みたいね」

 リリアは報告書を手にしながら、微笑を浮かべる。

「王宮の支援が適切に使われているかを調べるのが彼の仕事とはいえ、少しやりすぎだと思わない?」

「確実に何かを探っているな」

 アレクセイが低く呟く。

「リリアの研究に不正があると断じれば、王宮はさらに強く介入できる。もしくは、リリアを完全に排除する口実を作れる」

「でも、何も出てこないはずだぜ?」

 ロイが肩をすくめる。

「ちゃんと管理してるし、後ろ暗いことは何もないんだから」

「……いいえ、問題はそこじゃないの」

 リリアは静かに首を振る。

「彼は本当に“私たちの不正”を探しているのかしら?」

「……?」

「もし目的が違うとしたら?」

 二人は驚いたように顔を見合わせる。

「どういうことだ?」

「彼は監査官として動いている。でも、それだけじゃない気がするの。彼が本当に探しているのは……」

 リリアは報告書を閉じ、微笑んだ。

「私たちではなく、王宮の“内部”にあるのかもしれないわ」

 翌日、リリアは意図的にグレゴールと二人きりになる機会を作った。

「監査官様、少しお話しできますか?」

「……もちろんです」

 グレゴールは表情を崩さずに応じた。

「あなたは、私の研究に関心があるようですね」

「当然です。王宮が支援している以上、適切に監査を行うのが私の役目です」

「ええ、もちろん。でも……それだけではないでしょう?」

 リリアは微笑みながら、彼の目をじっと見つめた。

「あなたが本当に探しているのは、王宮の“別の問題”ではないのですか?」

 一瞬、グレゴールの瞳が揺れた。

「……何のことです?」

「あなたの視線、あなたの調査の方向性、そして質問の仕方。あなたが本当に知りたいのは、私の研究そのものではなく、王宮の“誰か”の思惑なのでは?」

「…………」

 グレゴールは数秒間沈黙したあと、小さく笑った。

「……なるほど。あなたの評判通り、ただの貴族令嬢ではないようですね」

「光栄ですわ」

 リリアは優雅に微笑んだ。

「では、そろそろ“本音”を話してくださるかしら?」

 こうして、リリアは王宮内部の秘密に一歩近づくこととなる——。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています

唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」 家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。 実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。 噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて―― 「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」 靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!? 磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

処理中です...