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第四章:改革と駆け引き
第二十七話 揺らぐ均衡
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王宮からの支援が始まると、リリアの研究所には以前とは比べものにならないほどの資金と物資が流れ込んだ。
最新の魔道具、希少な薬草、熟練した職人たち——王宮の影響力を感じずにはいられないほど、環境は整えられていく。
「流石に……これは」
研究室で報告書を確認しながら、リリアは静かに呟いた。
「王宮がここまで本気を出すとはな」
ロイが苦笑しながら隣で腕を組む。
「本気、というよりは“こちらを囲い込むため”でしょうね」
アレクセイが冷静に指摘した。
「王宮にとって、リリアを野放しにするのは都合が悪い。かといって、正面から対立するのも得策ではない。だからこそ、支援という形で徐々に影響を強め、やがて完全に掌握しようとしている」
「ええ、私もそう思うわ」
リリアは微笑むが、その目は決して油断していなかった。
「でも、王宮の思い通りにはさせない。与えられたものを利用しながら、私たちの計画を進めるのよ」
だが、その矢先——王宮が動き出した。
ある日、リリアのもとに一通の書簡が届けられた。
「王宮から?」
リリアは封を切り、内容を確認する。
『王宮直属の監査官を派遣する』
その一文に、彼女の目が細まった。
「監査官……?」
「おそらく、ここから先は“自由な研究”は難しくなる」
アレクセイが冷静に分析する。
「王宮が直接介入することで、リリアの動きを制限し、研究の方針を徐々に王宮に都合のいいものに変えさせようとしているんだろう」
「なるほど……面白いわね」
リリアは書簡を机に置き、ゆっくりと笑った。
「ならば、こちらもそれに応じる準備をしましょう」
「応じるって……どうするつもりだ?」
ロイが驚いた顔で尋ねると、リリアは静かに答えた。
「“王宮にとって都合の悪いもの”を、うまく隠しながら研究を続けるのよ」
彼女の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
***
監査官がリリアの研究所に到着したのは、書簡が届いてから三日後のことだった。
馬車から降り立ったのは、黒の礼服を纏った端正な男。鋭い目つきに、冷たい笑みを浮かべるその姿は、まるで獲物を狩る猛禽のようだった。
「初めまして、リリア・フォン・アルセイン様」
男は礼儀正しく頭を下げた。
「王宮より派遣されました、監査官グレゴール・フォン・アイゼンベルクと申します」
リリアは彼の名を聞いて、静かに微笑んだ。
「存じておりますわ。王宮の財政監査を担当し、これまで数々の改革に関わってこられたお方ですね」
「光栄です。ですが、今回は財政ではなく、貴女の研究を監査するのが私の任務です」
グレゴールは微笑を崩さぬまま、静かに告げた。
「王宮が支援する以上、どのように資金が使われ、どのような研究が進められているのかを確認させていただきます」
「ええ、もちろんですわ。どうぞ、ご自由に」
リリアは優雅に微笑みながら、手を差し伸べた。
表向きは、王宮の監査に協力する姿勢を見せながらも、その裏で密かに対抗策を講じる——それが、リリアの選んだ道だった。
「……どう思う?」
監査が始まって数日後、ロイがアレクセイに尋ねた。
グレゴールは表向きは穏やかに振る舞っていたが、その目は決して油断の色を見せていない。彼の監査は厳格で、すべての記録を細かく調べ、時折、予想外の質問を投げかけてくる。
「……手強いな」
アレクセイが低く呟いた。
「奴はただの役人じゃない。ただの監査ではなく、“こちらの弱点”を探ろうとしている。何か決定的な失態を見つけたら、一気に動くつもりだ」
「厄介だな……」
「ええ、本当に」
その時、扉の向こうからリリアの静かな声が聞こえた。
「でも、大丈夫よ」
二人が振り返ると、そこには余裕の笑みを浮かべたリリアがいた。
「私は、この程度の圧力で動揺するほど甘くはないわ」
「……策はあるのか?」
「ええ。監査官がこちらを探るなら、こちらも監査官を探るまでよ」
リリアの瞳には、確かな自信が宿っていた。
最新の魔道具、希少な薬草、熟練した職人たち——王宮の影響力を感じずにはいられないほど、環境は整えられていく。
「流石に……これは」
研究室で報告書を確認しながら、リリアは静かに呟いた。
「王宮がここまで本気を出すとはな」
ロイが苦笑しながら隣で腕を組む。
「本気、というよりは“こちらを囲い込むため”でしょうね」
アレクセイが冷静に指摘した。
「王宮にとって、リリアを野放しにするのは都合が悪い。かといって、正面から対立するのも得策ではない。だからこそ、支援という形で徐々に影響を強め、やがて完全に掌握しようとしている」
「ええ、私もそう思うわ」
リリアは微笑むが、その目は決して油断していなかった。
「でも、王宮の思い通りにはさせない。与えられたものを利用しながら、私たちの計画を進めるのよ」
だが、その矢先——王宮が動き出した。
ある日、リリアのもとに一通の書簡が届けられた。
「王宮から?」
リリアは封を切り、内容を確認する。
『王宮直属の監査官を派遣する』
その一文に、彼女の目が細まった。
「監査官……?」
「おそらく、ここから先は“自由な研究”は難しくなる」
アレクセイが冷静に分析する。
「王宮が直接介入することで、リリアの動きを制限し、研究の方針を徐々に王宮に都合のいいものに変えさせようとしているんだろう」
「なるほど……面白いわね」
リリアは書簡を机に置き、ゆっくりと笑った。
「ならば、こちらもそれに応じる準備をしましょう」
「応じるって……どうするつもりだ?」
ロイが驚いた顔で尋ねると、リリアは静かに答えた。
「“王宮にとって都合の悪いもの”を、うまく隠しながら研究を続けるのよ」
彼女の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
***
監査官がリリアの研究所に到着したのは、書簡が届いてから三日後のことだった。
馬車から降り立ったのは、黒の礼服を纏った端正な男。鋭い目つきに、冷たい笑みを浮かべるその姿は、まるで獲物を狩る猛禽のようだった。
「初めまして、リリア・フォン・アルセイン様」
男は礼儀正しく頭を下げた。
「王宮より派遣されました、監査官グレゴール・フォン・アイゼンベルクと申します」
リリアは彼の名を聞いて、静かに微笑んだ。
「存じておりますわ。王宮の財政監査を担当し、これまで数々の改革に関わってこられたお方ですね」
「光栄です。ですが、今回は財政ではなく、貴女の研究を監査するのが私の任務です」
グレゴールは微笑を崩さぬまま、静かに告げた。
「王宮が支援する以上、どのように資金が使われ、どのような研究が進められているのかを確認させていただきます」
「ええ、もちろんですわ。どうぞ、ご自由に」
リリアは優雅に微笑みながら、手を差し伸べた。
表向きは、王宮の監査に協力する姿勢を見せながらも、その裏で密かに対抗策を講じる——それが、リリアの選んだ道だった。
「……どう思う?」
監査が始まって数日後、ロイがアレクセイに尋ねた。
グレゴールは表向きは穏やかに振る舞っていたが、その目は決して油断の色を見せていない。彼の監査は厳格で、すべての記録を細かく調べ、時折、予想外の質問を投げかけてくる。
「……手強いな」
アレクセイが低く呟いた。
「奴はただの役人じゃない。ただの監査ではなく、“こちらの弱点”を探ろうとしている。何か決定的な失態を見つけたら、一気に動くつもりだ」
「厄介だな……」
「ええ、本当に」
その時、扉の向こうからリリアの静かな声が聞こえた。
「でも、大丈夫よ」
二人が振り返ると、そこには余裕の笑みを浮かべたリリアがいた。
「私は、この程度の圧力で動揺するほど甘くはないわ」
「……策はあるのか?」
「ええ。監査官がこちらを探るなら、こちらも監査官を探るまでよ」
リリアの瞳には、確かな自信が宿っていた。
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