Epic

すずかけあおい

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Epic③

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 コンビニに寄って晩御飯を買う。また家に帰らなければいけない。ぼんやりしながらレジに行くと、あの優しいのか冷たいのかわからない生徒がコンビニの制服を着てレジの向こう側にいた。楓は変な緊張を覚えながらレジに行くが、会計を終えてもなんの声もかけられなかった。何を期待していたのかわからないけれど、少しがっかりしながらコンビニを出る。
名札には“間宮まみや”と書かれていた。

「……間宮」

 なんでかはよくわからないけれど、楓はコンビニの端にある裏口前であの生徒を待ってしまった。誰かに期待すると絶対に裏切られるとわかっているのに、それでもあの言葉の嬉しさを胸に抱き締めたかった。



「あれ?」

 どのくらい待ったかわからないけれど、あの男子生徒が裏口から出てきて楓に気づく。

「あの…さっきはありがとうございました」
「さっき?」
「学校の廊下で…」
「?」

 ほら、人に期待すると裏切られる。楓が抱き締めた言葉が崩れ始める。

「…殴られそうなの、たすけて、くれて」

 あの言葉も消えてしまったようで、やっぱり楓には価値なんてどこにもないんだと言われたようで視界が滲んできた。

「ああ、あの子か! 女の子っぽい男の子」
「……はい、多分それです」

 制服を見たら男だってわかると思うけど。背だって低くない。というかもしかして女子に見えなかったら助けてくれなかったんだろうか。あの言葉も、なかったんだろうか。

「気にしないで。女の子殴ろうとしてると思ったから止めただけ」
「そ、ですか…」
「それでこんな遅くまで俺の事待ってたの? 親御さん心配するから早く帰ったほうがいいよ」

 胸が痛む。心配してくれるような親は、もういない。

「……親は俺が帰らなくても心配なんかしないし、逆にせいせいしてると思います」

 本音が零れてしまう。なぜだろう。苗字以外何も知らない相手なのに、話しているだけで心がほぐされていくような感覚。喋り方と声が心地好いからかもしれない。

「じゃあウチにおいで」

 よくわからないけれど、拾われた。
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