Epic

すずかけあおい

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Epic②

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「お前なんかヤれるから相手されてるだけだろ。調子のんな」
「調子になんてのってない」
「ヤれなきゃ用ナシだから」
「そ」

 わかってる。セックスできなければ自分には価値がない。でもどうしても今日はそういう気分になれなかったから断ったらこうだ。寂しさを埋めたくても、心も身体もついてこない時はどうやったってできない。
あ、殴られる。振り上げられる手を妙に冷静に眺めた。

「やめたら?」

 手が楓に振り下ろされる前に後ろから掴んで止める第三者の手。

「あれ、女の子じゃないんだ。じゃあ殴っていいよ」

 ぱっと手を離し、そのまま去って行こうとする男子生徒。赤茶色に染めた髪がふわふわしている。楓を殴ろうとしていた相手は舌打ちして去って行く。お礼を言おうと思ったのに、助けてくれた生徒は背を向けてしまった。

「…俺に価値ないことなんて俺が一番わかってるよ」

 楓の中の事実を呟いたら涙が零れた。まずいと思って俯く。わかっているのに、言われると堪える。

「人間、生きてるだけで価値あるよ」

 見ると去って行こうとしていた生徒がじっとこちらを見つめている。涙を見られる悔しさよりも、もらえた言葉の温かさのほうが大きかった。また涙が溢れてくる。

「あんま泣くと目、腫れるよ」
「っ……」
「心配されるよ?」
「…誰も心配なんて絶対しないから別に平気」
「じゃあ気が済むまで泣けば」

 そう言って生徒は去って行ってしまった。優しいのか冷たいのかよくわからない人だけれど、楓に価値があると言ってくれた人は、親の愛が冷めてから初めてだった。名前も知らない相手に価値を認めてもらったって仕方ないのかもしれないけれど、それでも楓には救いの言葉で、縋りつきたくなってしまった。

「あれ、誰か知ってる?」

 廊下の隅でのやり取りを最初から見ていた野次馬のひとりに聞くが、首を横に振られる。去って行った姿はもう見つけられなかった。
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