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Epic⑧
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「満足?」
急に先程までと声色が変わる。冷めた口調。
「え?」
「俺の事知って」
「それは…」
満足? 違う。…いや、違わない。どう言い繕ったって楓が綾斗さんを知りたかったのは事実だ。
「残念ながら知られたところでなんにもならないけどね」
「…俺に綾斗さんを見せてくれたんじゃないんですか…?」
「だって五分で忘れるから」
「?」
何を言われているのか理解できず、疑問符を浮かべると。
「言ったでしょ。嫌な事は五分で忘れないとやってらんないからね、こんな世の中」
「……」
楓は綾斗さんの“嫌な事”にまた触れてしまった。
「冷めちゃったからさっさと食べよ」
「………」
もう楓は本当に何も言えなかった。でも元カノの事は時間が経っても忘れられないんですよね、なんて、口が裂けても言えない。
綾斗さんは本当に話した事自体を忘れたように楓に接する。でも楓は忘れられない。そして苦しい。綾斗さんの心に住む人の存在が楓の胸を締め付ける。
「電気消すよ」
「…はい」
楓の切なさに気づかないのか、見て見ぬフリをしているのか、綾斗さんはいつもの、楓が知っている、楓を救ってくれた“綾斗さん”で。でもそれはきっと表面だけの姿なんだろうと思うと楓が慕っている人は幻想でしかないんだと気づく。綾斗さんを知れば近づけると思ったのに、知ったら余計に遠くなった。
「おやすみなさい、綾斗さん」
どうしたらいいんだろう。楓の心に住む綾斗さんの影は、綾斗さん自身が遠くなっても薄れない。
綾斗さんの寝息が聞こえる。落ち着くリズム。隣で眠る綾斗さんの寝顔をじっと見つめていると苦しくて涙が滲んでくる。苦しいのに離れたくない。五分で忘れられる存在になりたくない。
眠る綾斗さんの唇に人差し指の腹で触れる。柔らかい。起きるかなと思ったけれど起きた気配がない。綾斗さんの唇に触れた指で楓自身の唇に触れる。苦しい。切ない。でも胸が高鳴る。
「そっか…」
綾斗さんが好きなんだ。
急に先程までと声色が変わる。冷めた口調。
「え?」
「俺の事知って」
「それは…」
満足? 違う。…いや、違わない。どう言い繕ったって楓が綾斗さんを知りたかったのは事実だ。
「残念ながら知られたところでなんにもならないけどね」
「…俺に綾斗さんを見せてくれたんじゃないんですか…?」
「だって五分で忘れるから」
「?」
何を言われているのか理解できず、疑問符を浮かべると。
「言ったでしょ。嫌な事は五分で忘れないとやってらんないからね、こんな世の中」
「……」
楓は綾斗さんの“嫌な事”にまた触れてしまった。
「冷めちゃったからさっさと食べよ」
「………」
もう楓は本当に何も言えなかった。でも元カノの事は時間が経っても忘れられないんですよね、なんて、口が裂けても言えない。
綾斗さんは本当に話した事自体を忘れたように楓に接する。でも楓は忘れられない。そして苦しい。綾斗さんの心に住む人の存在が楓の胸を締め付ける。
「電気消すよ」
「…はい」
楓の切なさに気づかないのか、見て見ぬフリをしているのか、綾斗さんはいつもの、楓が知っている、楓を救ってくれた“綾斗さん”で。でもそれはきっと表面だけの姿なんだろうと思うと楓が慕っている人は幻想でしかないんだと気づく。綾斗さんを知れば近づけると思ったのに、知ったら余計に遠くなった。
「おやすみなさい、綾斗さん」
どうしたらいいんだろう。楓の心に住む綾斗さんの影は、綾斗さん自身が遠くなっても薄れない。
綾斗さんの寝息が聞こえる。落ち着くリズム。隣で眠る綾斗さんの寝顔をじっと見つめていると苦しくて涙が滲んでくる。苦しいのに離れたくない。五分で忘れられる存在になりたくない。
眠る綾斗さんの唇に人差し指の腹で触れる。柔らかい。起きるかなと思ったけれど起きた気配がない。綾斗さんの唇に触れた指で楓自身の唇に触れる。苦しい。切ない。でも胸が高鳴る。
「そっか…」
綾斗さんが好きなんだ。
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