きみとずっと

すずかけあおい

文字の大きさ
5 / 10

きみとずっと⑤

しおりを挟む
 土曜日、待ち合わせ場所で待っていると時間どおりに水沢が来た。仲村を見てわずかに目もとを和らげる。
「悪い。待ったか?」
「ううん。大丈夫」
 自分もついたばかりだ。
 待ち合わせた駅はあまり大きくないところで、改札あたり、という待ち合わせでも問題なく会えた。駅は小さいけれど、調べたところ大きい公園が近くにある。
「寒いね」
 暖冬とは言うけれど、風はしっかり冷たい。晴れていてもやはり冬の寒さだ。
 仲村がモッズコートのフードで首筋を隠すように少し肩を竦めると、水沢が申し訳なさそうな視線を向けてきた。
「どうしたの?」
「公園なんて寒いよな。やめておくか」
 水沢が足を止めるので、仲村も立ち止まって振り返る。
「でも、俺は水沢が行きたいって言ってくれた場所に行きたい」
「……!」
「だめかな?」
 もしそれでも首を横に振るようだったら、違う場所に変更してもいい。だけどできたら水沢が楽しいところに行きたい。
「……ほんと、仲村って謎」
「どういう意味?」
「そのまま」
 水沢がまた公園のほうに向かって歩き出すので、仲村もついていく。謎とはどういう意味だろう、と考えるがわからない。歩きながら水沢に聞いてみたけれど、答えてくれなかった。
「わ、大きいね」
 公園につき、葉の落ちた木々の下をふたりで歩く。陽射しが降り注ぐ中、水沢が目を細めて空を見あげた。
「自然の中にいると、落ちつくんだ」
「うん」
 なんとなくわかる気がする。自然の中にいると気持ちがリラックスするというか、気を張らなくていいような、そんな心地よさがある。
「やっぱりちょっと寒いな。仲村に風邪ひかせるわけにはいかないから、他のところに行こう」
 水沢が踵を返すので、慌ててその腕を掴む。
「でも、水沢はここがいいんでしょ?」
「あ、ああ」
「じゃあ、俺もここがいい」
 少し先にベンチを見つけて、そこに座って手招きすると、水沢は困ったような顔をしながら隣に座ってくれた。先ほどから仲村のことを気にしてくれているので、水沢は気遣いの人なのかな、と感じた。
 隣を見ると、水沢はまだ難しい顔をしている。
「寒くてもいいじゃん」
 仲村が笑いかけると、水沢がわずかに頬を赤くした。自分は寒くてもいいけれど、もしかしたら水沢が寒さがつらいのかもしれない。
「水沢、寒い? ごめん、もしかして水沢が寒いの嫌だった?」
「違う」
 そっけない答えが返ってきて、少し落ち込む。また気を遣ってくれているのかもしれない。しゅんと肩を落とすと、水沢がまた「違う」と慌てたように否定した。
「本当に、違う」
「そうなの?」
「ああ。寒いくらいがちょうどいい」
 寒いのが好きなのだろうか。どういう意味かわからず首をかしげていると、水沢は少しふてくされたような表情して手の甲で自身の頬をこすった。
「……わからなければいい」
 本当になんだろう。水沢の顔を覗き込むと、さらに頬を赤らめた。
「やっぱ寒いんじゃない?」
「違うって」
「そう」
 違うと言うならば違うのだろう。これ以上いろいろ言うと鬱陶しがられるかもしれない。
 水沢から視線を空に向け、深呼吸をする。仲村の目には、青い空と葉のない木々は少し寂しげに移った。冷えた空気がそう感じさせるのかもしれない。
「仲村」
「なに?」
「ありがとう」
「……? どういたしまして?」
 なにに対してのお礼かわからないけれど、隣を見れば穏やかに空を見あげる横顔があり、仲村の心を優しくくすぐった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

αとβじゃ番えない

庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。 愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。

処理中です...