オトナとコドモ

すずかけあおい

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オトナとコドモ⑦

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 来ない……。
 もう暗くなってきている。風も冷たくて、小さく身が震える。
 あれから一週間、学校帰りに毎日交差点で待っても、聡樹は現れない。聡樹の会社に押しかけるわけにはいかないし、そもそも聡樹が働く会社も、その会社が入っているビルもわからない。それだけ薄いつながりだったのだと、今さらになって知る。
 助けてもらって、お礼をしようとしてまた助けてもらって、楽しい時間をもらった。もらってばかりだ。都亜はひとつも返せていない。
 ビル街から駅に向かう人を見まわす。待っているただひとりがいないことを確認して、何度落胆しただろう。
「聡樹さん……」
 たぶん、聡樹は都亜を避けている。いつもの時間、いつもの場所――聡樹のいない『いつも』。交差点前に立ち、ぼんやりと灰色の空を見あげる。この時間とこの場所は、これほどになにも感じないものだったのか。知らなかった、気がつかなかった。それは聡樹がいてくれたから。
 あの日の女性と一緒でもいい。聡樹の姿が見たい。でもこちらに向かってくる人の中には、やはり聡樹がいない。
「――」
 言いたくない言葉が勝手に口から出そうになり、慌てて呑み込んだ。こんなことを言いたくない、思いたくない。それなのに思ってしまう。
 聡樹さんと出会いたくなかった。
 あの日に戻って、出会いをなかったことにしたい。そうしたらきっと、つらくて苦しくて寂しくてどうしようもない『今』はなくなる。
 この状況を受け止められないくらい、自分は子どもだ。

 教科書を開くが、すぐに閉じた。そんな自分にはっとして慌ててまた開いた。集中力もやる気も出ない。期末テストが近いのに、こんな状態ではだめだ。失恋したうえに赤点だらけなんて、想像しただけで最悪すぎる。
「集中!」
 言葉に出すことで気合いを入れてみる。いくら聡樹のことを考えたって、終わってしまったものは戻せない。
 小さく息を零し、落ち込みより虚しさがやってくる。心にすうっと冷たい風が入るし、胸が苦しい。脳裏に聡樹の姿が浮かび、ぶんぶんと頭を振る。
 もう忘れよう。
 いつまでも考えて想っていたって仕方がない。だって振られたのだから、諦めて忘れるしかないのだ。とてもつらくて苦しいけれど、それが一番いい。聡樹のことはもう考えない。
「……だめだ」
 どんなに集中しても頭の中の聡樹を消せない。聡樹の笑顔やしかめ面が浮かんでは消えて、また浮かんで。まったく忘れられる気がしない。忘れたくないのだ。苦しいくらいに聡樹が好きで、忘れられないほどの人。中学生のときに好きな女子がいたけれど、そのときと比べものにならない。聡樹に毎日でも会いたいし、ずっとあの涼しげな低い声を聞いていたい。
 ――都亜。
 もう呼んでもらえないのだと思ったら、視界がじわりと滲んだ。思いきり泣いてしまおうと思ったのに、涙は出ない。
 どんなに好きでも『忘れる』以外は選べない。聡樹には都亜の想いは迷惑だから。
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