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オトナとコドモ㉒
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「めちゃくちゃにしてやれなくて悪いな」
「え……?」
なんのことだろう。顔をあげると、聡樹はまた意地悪な顔をした。
「前に『めちゃくちゃにしてよ』って言ってただろ、ひとりでぶつぶつ」
「……!」
なんでそんな前のこと持ち出すの!?
それを言ったのは聡樹とつき合いはじめたばかりのことだから、もうずっと前だ。そんなことを今になってどうして。というより。
「聞こえてたの!?」
すごく小さな声で言っただけなのに。絶対聞こえていないと思ったのに。
「都亜の声は全部聞こえるんだよ」
「ひどい! 聡樹さんの馬鹿!」
掛け布団をかぶって隠れ、熱い頬を両手で覆う。誘うようなことを言った自分が信じられないけれど、嘘ではない。でも一年以上経ってから掘り起こすのはひどい。からかうにしても、その場でからかってくれればダメージは少ないのに。ひどいひどいとぶつぶつ繰り返しながら、布団の中で羞恥に悶える。恥ずかしすぎて、ありえないくらいに顔が熱い。
「恋人に『馬鹿』なんてひどいな」
布団の向こうで笑っている聡樹の声が聞こえる。
余裕がないなんて嘘だ。聡樹はいつでも余裕で、都亜のほうが振りまわされてばかり。大人の余裕かもしれないけれど悔しい。
「機嫌直せ、卒業祝いのごちそう用意してやるから」
「……!」
掛け布団から少しだけ顔を出し、聡樹を見る。
「なにか作ってくれるの?」
「都亜の好きなもの全部作ってやるよ」
「やった!」
掛け布団からぴょんと飛び出ると、聡樹はまた笑って都亜の頭を撫でる。これは間違いなく――。
「子どもっぽいって言いたいんでしょ」
「言いたいけど言ってないだろ」
「ひどい!」
でもこういう聡樹がすごく好きだ。からかったり意地悪だったりするけれど、都亜を大好きでいてくれる、優しい大人の聡樹。
少しずつ大人になるから、隣で全部見ていて。
のんびりしてていい、と言われたけれど、手伝うと理由をつけて一緒にベッドを出る。だってそばで見ていたい。
「大好き」
今度こそ失敗しないように、本当に本当に小さな声で呟く。今回は絶対に聞こえていない。都亜の声は全部聞こえるなんて、そんなのはおおげさに言っただけに決まっている。
「どうした?」
思ったとおり聞こえていなくて、やっぱり、と少し笑う。聡樹が服を貸してくれたのでそれを身につけながら、たまにはこういういたずらもいいなと思う。
髪を撫でられ、整った顔を見あげる。唇が重なり、すぐに離れていった。額を合わせてくれてくすぐったい。聡樹の顔がすぐそばにあって、どきどきしながら幸せを噛み締める。
「俺はその倍は好きだよ」
「……!」
「聞こえないと思ったか?」
だめだ、この人には敵わない。
終
「え……?」
なんのことだろう。顔をあげると、聡樹はまた意地悪な顔をした。
「前に『めちゃくちゃにしてよ』って言ってただろ、ひとりでぶつぶつ」
「……!」
なんでそんな前のこと持ち出すの!?
それを言ったのは聡樹とつき合いはじめたばかりのことだから、もうずっと前だ。そんなことを今になってどうして。というより。
「聞こえてたの!?」
すごく小さな声で言っただけなのに。絶対聞こえていないと思ったのに。
「都亜の声は全部聞こえるんだよ」
「ひどい! 聡樹さんの馬鹿!」
掛け布団をかぶって隠れ、熱い頬を両手で覆う。誘うようなことを言った自分が信じられないけれど、嘘ではない。でも一年以上経ってから掘り起こすのはひどい。からかうにしても、その場でからかってくれればダメージは少ないのに。ひどいひどいとぶつぶつ繰り返しながら、布団の中で羞恥に悶える。恥ずかしすぎて、ありえないくらいに顔が熱い。
「恋人に『馬鹿』なんてひどいな」
布団の向こうで笑っている聡樹の声が聞こえる。
余裕がないなんて嘘だ。聡樹はいつでも余裕で、都亜のほうが振りまわされてばかり。大人の余裕かもしれないけれど悔しい。
「機嫌直せ、卒業祝いのごちそう用意してやるから」
「……!」
掛け布団から少しだけ顔を出し、聡樹を見る。
「なにか作ってくれるの?」
「都亜の好きなもの全部作ってやるよ」
「やった!」
掛け布団からぴょんと飛び出ると、聡樹はまた笑って都亜の頭を撫でる。これは間違いなく――。
「子どもっぽいって言いたいんでしょ」
「言いたいけど言ってないだろ」
「ひどい!」
でもこういう聡樹がすごく好きだ。からかったり意地悪だったりするけれど、都亜を大好きでいてくれる、優しい大人の聡樹。
少しずつ大人になるから、隣で全部見ていて。
のんびりしてていい、と言われたけれど、手伝うと理由をつけて一緒にベッドを出る。だってそばで見ていたい。
「大好き」
今度こそ失敗しないように、本当に本当に小さな声で呟く。今回は絶対に聞こえていない。都亜の声は全部聞こえるなんて、そんなのはおおげさに言っただけに決まっている。
「どうした?」
思ったとおり聞こえていなくて、やっぱり、と少し笑う。聡樹が服を貸してくれたのでそれを身につけながら、たまにはこういういたずらもいいなと思う。
髪を撫でられ、整った顔を見あげる。唇が重なり、すぐに離れていった。額を合わせてくれてくすぐったい。聡樹の顔がすぐそばにあって、どきどきしながら幸せを噛み締める。
「俺はその倍は好きだよ」
「……!」
「聞こえないと思ったか?」
だめだ、この人には敵わない。
終
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