きみが隣に

すずかけあおい

文字の大きさ
2 / 6

きみが隣に②

しおりを挟む
「矢崎、昼一緒に食おう」
「いつも俺といていいの?」
「俺が矢崎といたいから、いいの」

 誘われるままに連れ出されて、屋上に向かう。暖かい陽射しの中でふたりでパンを食べる。

「矢崎、そのパンうまそう。一口ちょうだい?」
「いいけど」

 ちぎって渡そうとすると、その前に俺の持つパンに瀬尾がかぶりついた。

「うまい。俺のも食う?」
「……いい」

 これって間接キスってやつじゃないの? と思いながら手に持つパンを食べる。なぜかどきどきしてしまう心臓に、静まれ、と言い聞かせて平静を装うけれどうまくできているかはわからない。

「今日の数学も眠かったー。あの先生、話すのゆっくりだから眠気誘うんだよね」

 瀬尾がひとつあくびをする。

「じゃあ速ければいいの?」
「それもリズム感があって眠くなる」
「結局眠いんじゃん」

 二個目のパンの袋を開ける瀬尾の手つきが綺麗で、なんとなく見てしまった。指もすっと長くて爪の形まで整っている。

「矢崎は授業でわからないところ、どうしてる?」

 綺麗な手から目を上げれば、端正な顔。向かい合う俺は極めて平凡顔。不公平だな、と少しだけ思う。

「とことん復習する。そうしないと平均点以下に落ちるかもしれないから」
「復習かー……苦手だ」

 うげ、と言うのでおかしくて笑うと、瀬尾が驚いた顔をする。

「なに?」
「いや……なんか」
「なんか?」
「笑顔が……」
「……?」

 その頬が少し赤くなって、なんだろうと首を傾げると、瀬尾はぶんぶんと首を横に振った。

「なんでもない!」

 口を大きく開けて豪快にパンにかぶりついた瀬尾は、すぐにむせて涙目になる。本当によくわからない。

 休み時間や学校帰りなど、瀬尾とふたりで過ごす時間が増えていった。瀬尾は知れば知るほどいい奴だと思う。ちょっと咳をするとのど飴をくれたり、風邪ひくなよ、と声をかけてくれたり、脚が長い瀬尾は歩くスピードも速いはずなのに必ず俺に合わせてくれたりもする。歩くの速くない? と、ときどき声をかけてくれる気配りもすごいなと思う。もともと気遣いのできる人なんだろう。一緒にいると居心地がよくて笑顔になれる、不思議な魅力に溢れた男。
 もらったのど飴を、なんとなく大切に取って置いてしまった。





「すごい……」

 テストの成績上位者が貼り出されて、四位に瀬尾が入っている。

「なに見てんの?」
「瀬尾」

 隣に瀬尾が並んで、俺の視線の先を辿る。

「テストの成績上位者? こんなのあるんだ」
「知らないの?」
「知らなかった」

 興味がないということかもしれないけれど、それもすごい。

「復習は苦手とか言ってたくせに、四位じゃん」

 今まで意識して瀬尾の名前を上位者の中に探したことがなかったけれど、もしかしたら毎回上位に入っているのかもしれない。俺は上位に入ったことなんて一回もない。

「苦手だし、たまたまだよ」
「『うげ』とか言ってたもんね」
「そう、うげ」

 ははは、と笑った瀬尾は、自分の頭を指さして今度は真面目な顔をする。

「テスト前日にがーっと勉強して頭に詰め込んで、当日は覚えた内容が落ちてこないように頭を揺らさず登校するの。それで解答用紙に書きながら忘れていくっていう……」
「どこまで本当?」
「全部ほんと。やってみな」

 俺の頭を軽く小突く瀬尾がいたずらっぽく笑うから、つられて笑ってしまう。

「やってみる」

 うん、とひとつ頷いて瀬尾を見ると目が合った。

「矢崎のそういう素直なとこ、いいよな」
「え?」

 瀬尾が柔らかく微笑んで俺をまっすぐ見つめてくる。

「笑顔が可愛いんだから、いつも笑ってろよ」

 そんなことを言われたのは初めてで、どきどきする。俺が笑うとき、瀬尾が隣にいるんだろうか。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

インフルエンサー

うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。 ※pixivにも投稿しています

その言葉を聞かせて

ユーリ
BL
「好きだよ、都。たとえお前がどんな姿になっても愛してる」 夢の中へ入り化け物退治をする双子の長谷部兄弟は、あるものを探していた。それは弟の都が奪われたものでーー 「どんな状況でもどんな状態でも都だけを愛してる」奪われた弟のとあるものを探す兄×壊れ続ける中で微笑む弟「僕は体の機能を失うことが兄さんへの愛情表現だよ」ーーキミへ向けるたった二文字の言葉。

何度も、何度でも

渡辺 佐倉
BL
卒業式に部活の後輩から告白をされた。 何度断っても後輩はまた、告白をしてくる。 年下攻め短編です。 受け視点、攻め視点でそれぞれ1ページずつの短いお話です。

弊社のバレンタイン廃止にかこつけてチョコを渡そう計画

根古川ゆい
BL
リーマン×リーマンのハッピーバレンタインな短編。 一話完結。 伴野連(ばんの れん)×平良慎也(たいら しんや)

好きとは言ってないけど、伝わってると思ってた

BL
幼なじみの三毛谷凪緒に片想いしている高校二年生の柴崎陽太。凪緒の隣にいるために常に完璧であろうと思う陽太。しかしある日、幼馴染みの凪緒が女子たちに囲まれて「好きな人がいる」と話しているのを聞き、自分じゃないかもしれないという不安に飲まれていく。ずっと一緒にいたつもりだったのに、思い込みだったのかもしれない──そんな気持ちを抱えたまま、ふたりきりの帰り道が始まる。わんこ攻め✕ツンデレ受け

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

処理中です...