きみが隣に

すずかけあおい

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きみが隣に④

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「矢崎、友だちから恋人になってください」

 それから三日後、瀬尾が更に心がぐちゃぐちゃになることを言ってきた。虚しさに思わずため息をついてしまう。下校途中の、駅までもう少しというところでのこと。

「今度はなにに負けたの?」
「え?」
「俺に告白したの、罰ゲームだって知ってるよ」
「!」

 目を見開いた瀬尾の表情が、驚きから焦りへと変わっていく。

「なんで知って……」
「瀬尾が半田と話してるの聞いちゃったから。それで? また負けたの?」

 瀬尾から視線を逸らして足元を見る。二回もなんて、こんな奴だと思わなかった。最低だ……瀬尾も、瀬尾に惹かれていた俺も。脳裏に浮かぶのは、俺に向けられた優しい笑顔。でもそれは作り物だった。

「そうじゃない! 俺は本当に矢崎が好きで……!」
「信じると思う?」

 俺の言葉に固まった瀬尾が口を噤む。ひどく傷ついたような表情をするから胸が痛くなるけれど、傷ついているのはこっちのほうだ。

「……本当に俺が好きなの?」
「……」

 なにも言わずただ頷く姿を空っぽの心で見つめる。その瞳が微かに揺れているけれど、これも演技だろう。
 ……でも、やっぱり瀬尾を信じたい自分がいる。

「本当に俺が好きなら、二度と話しかけないで」

 それでも瀬尾を忘れたいのも本当。だってすごく苦しいんだ。瀬尾の笑顔が頭に浮かぶと、心臓を抉られたような痛みに襲われる。

「……ごめん」

 静かに謝り俯く瀬尾に、唇を噛む。
 馬鹿みたいだ……。
 涙が溢れそうになるのを堪えながら、瀬尾を残してその場を去った。





 それから瀬尾は一切俺に話しかけず、近寄らなくなった。ただ寂しそうな視線をときどき送ってくる。そんな目をされても、また傷つくのは嫌だ、と無視する。これ以上苦しい思いをしないためにはそれしかない。
 徐々に瀬尾はいつも一緒にいた陽キャグループの輪から外れ、ひとりでいるようになっていった。最初は声をかけていた仲間たちも、瀬尾が無反応なので相手にしなくなったようだ。
 ……結局俺は、瀬尾が気になって仕方がない。

「あ……」

 ペンケースを落としてしまい、中身が床に散らばる。視線を感じてそちらを見ると、瀬尾が心配そうな瞳で俺を見ている。

「……」

 絡まった視線をすぐに逸らして交差を断ち切り、ペンを拾いながら自分で言った言葉を思い出す。

 ――本当に俺が好きなら、二度と話しかけないで。

 瀬尾は本当に俺が好きなのかもしれない。でもまた裏切られたらと思うと、話しかける勇気はない。
 瀬尾があの日から一度も話しかけてこないことが、俺にとっては最後の砦でもあった。





 苦しいばかりの日々を過ごしていたら、ある日半田から声をかけられた。あのとき教室で瀬尾に罰ゲームの話をしていた相手だ。放課後の教室、今日は半田と俺のふたりきり。

「ごめん、矢崎!」
「……謝られても」
「本っ当にごめん!!」
「……」

 土下座をしそうな勢いで頭を下げて謝る半田に少し引きながら、頭を上げて、ととりあえず言うと半田は上目遣いで俺を見た。

「……怒ってるよな?」
「別に」
「怒ってる!」
「別にって言ってるじゃん。もう帰っていい?」

 瀬尾と罰ゲームのことを思い出してしまうから、本当は半田とも関わりたくない。俺が帰ろうとすると半田がもう一度、ごめん、と言う。

「いいよ、もう……」

 全部終わったから。……いや、終わっていないのかもしれない。結局苦しいままで、なにも変わらない。瀬尾に近づけば、きっとすぐにまた惹かれていく。

「……瀬尾、嫌がってた」
「え……?」
「あの罰ゲーム、小テストの点数で瀬尾が負けたからだったんだけど、負けた奴が告るって内容で」
「……聞きたくない」

 本当に帰ろうとする俺の手首を半田が掴むので眉を顰めると、半田はいつもと全然違う静かな声で言葉を続ける。


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