5 / 6
きみが隣に⑤
しおりを挟む
「あいつ、あれで頭いいだろ」
「……うん」
「だから瀬尾が負けてみんな面白がっちゃって……俺も面白がったひとりなんだけど」
「……」
「女子に告ったら絶対オーケーだから矢崎に告れって言われて、瀬尾はそういうのは嫌だって言った」
もう聞きたくない……でも聞かないといけないような気もする。だけど、真実は瀬尾の口から聞きたい。こういうことは、きちんと瀬尾の口から……。
優しくて眩しい笑顔が脳裏に浮かぶ。
「瀬尾は最初から、負けたら告るっていうのを嫌がってたんだ。俺たちが面白がってやらせた。矢崎はいつもひとりでいたし、からかってみようって」
「最低だね。面白がった半田たちも、嫌がりながらでもやった瀬尾も」
「そのとおりだよ。でも本当に最低なのは俺たちだけで、瀬尾は違う。何回謝っても許してもらえないと思ってるけど、それはわかってほしい」
最低なのは半田たちだけ……それを簡単に納得できたらどんなに楽だろう。
「……わかったよ。もう帰っていい? 手、離して」
ここはこれで切り抜けようとわかったふりをして掴まれたままの手に視線を落とすと、その手に力がこもったので半田を見る。これ以上ないくらい真剣な表情を向けられて怯んでしまう。
「瀬尾は本気で矢崎が好きだよ」
「……」
「罰ゲームのとき、瀬尾に状況を報告させてたけど、すぐに『もうなにも話さない』って言われた。あいつ、矢崎といるとすごく楽しそうだった」
「……知らないよ、そんなの」
半田の手を振り払おうとしても力が強くて敵わなかった。
「俺たちのことはめちゃくちゃ嫌って無視していいから、瀬尾のことは嫌わないでやってほしい」
「だったら最初からそんな馬鹿な罰ゲームやらなければよかったんじゃない?」
結局そこに戻るから、この話は進まない。もう帰りたい。聞けば聞くほど心の中の瀬尾がどんどん大きくなっていって苦しくなる。
「……ごめん」
「だからもういいって。離して」
「矢崎が瀬尾を嫌いじゃないって言うまで離さない」
「なっ……」
なにを言い出すのかと半田の顔を見ると、怖いくらい真剣な瞳で俺をとらえる。面白がっておかしな罰ゲームをさせたりしたけれど、半田も瀬尾が大切なんだ。
「お願い、矢崎。本当は瀬尾を好きになってほしいけど、そこまでは俺にどうにかできる問題じゃない。でも嫌わないでやってほしい」
「……」
「あいつ本当にいい奴なんだ! ふざけるときもあるけど、根は真面目だし優しいし……!」
「……知ってる」
話しかけないでと言えば、本当に一切話しかけないくらい真剣に俺の気持ちを考えてくれるし、それだけ俺を――。
でも、もうどうにもできない。近づくのが怖い。俺が口を噤むと沈黙が流れた。
「半田? ……矢崎、も……」
「!」
その沈黙が突然破られた。弾かれたように顔を上げると、教室の入り口に瀬尾が立っている。瀬尾は半田が俺の手首を掴んでいるのを見て眉を顰める。
「なにしてんだ」
険しい表情をした瀬尾に俺は焦り、離してという意味をこめて掴まれた手を引くと、半田は少し考えるように視線を動かした後、口角を上げて俺の手を引き返した。その勢いのまま、半田に肩を抱かれる。
「告ってたりして?」
「ち……」
違う、と言おうとするけれど肩を抱く手に力がこもり、半田を見ると視線で言葉を止められる。
「は? そんなの絶対認めない」
「瀬尾に認めてもらうことじゃないし、矢崎のことは前から可愛いかもって思ってたし?」
半田がいつもの軽い口調で言うと、瀬尾の表情がますます険しくなる。
「瀬尾がどうしても矢崎のこと好きでしょうがないって言うなら諦めるけど」
「……っ」
瀬尾がはっとした様子で俺を見て、すぐに視線を逸らした。
「言えよ、瀬尾」
「……」
瀬尾も半田も睨み合うように互いを見つめ、緊迫した空気に俺のほうが身体に力が入る。でも、瀬尾の瞳を見たら言葉なんて必要なかった。
「……うん」
「だから瀬尾が負けてみんな面白がっちゃって……俺も面白がったひとりなんだけど」
「……」
「女子に告ったら絶対オーケーだから矢崎に告れって言われて、瀬尾はそういうのは嫌だって言った」
もう聞きたくない……でも聞かないといけないような気もする。だけど、真実は瀬尾の口から聞きたい。こういうことは、きちんと瀬尾の口から……。
優しくて眩しい笑顔が脳裏に浮かぶ。
「瀬尾は最初から、負けたら告るっていうのを嫌がってたんだ。俺たちが面白がってやらせた。矢崎はいつもひとりでいたし、からかってみようって」
「最低だね。面白がった半田たちも、嫌がりながらでもやった瀬尾も」
「そのとおりだよ。でも本当に最低なのは俺たちだけで、瀬尾は違う。何回謝っても許してもらえないと思ってるけど、それはわかってほしい」
最低なのは半田たちだけ……それを簡単に納得できたらどんなに楽だろう。
「……わかったよ。もう帰っていい? 手、離して」
ここはこれで切り抜けようとわかったふりをして掴まれたままの手に視線を落とすと、その手に力がこもったので半田を見る。これ以上ないくらい真剣な表情を向けられて怯んでしまう。
「瀬尾は本気で矢崎が好きだよ」
「……」
「罰ゲームのとき、瀬尾に状況を報告させてたけど、すぐに『もうなにも話さない』って言われた。あいつ、矢崎といるとすごく楽しそうだった」
「……知らないよ、そんなの」
半田の手を振り払おうとしても力が強くて敵わなかった。
「俺たちのことはめちゃくちゃ嫌って無視していいから、瀬尾のことは嫌わないでやってほしい」
「だったら最初からそんな馬鹿な罰ゲームやらなければよかったんじゃない?」
結局そこに戻るから、この話は進まない。もう帰りたい。聞けば聞くほど心の中の瀬尾がどんどん大きくなっていって苦しくなる。
「……ごめん」
「だからもういいって。離して」
「矢崎が瀬尾を嫌いじゃないって言うまで離さない」
「なっ……」
なにを言い出すのかと半田の顔を見ると、怖いくらい真剣な瞳で俺をとらえる。面白がっておかしな罰ゲームをさせたりしたけれど、半田も瀬尾が大切なんだ。
「お願い、矢崎。本当は瀬尾を好きになってほしいけど、そこまでは俺にどうにかできる問題じゃない。でも嫌わないでやってほしい」
「……」
「あいつ本当にいい奴なんだ! ふざけるときもあるけど、根は真面目だし優しいし……!」
「……知ってる」
話しかけないでと言えば、本当に一切話しかけないくらい真剣に俺の気持ちを考えてくれるし、それだけ俺を――。
でも、もうどうにもできない。近づくのが怖い。俺が口を噤むと沈黙が流れた。
「半田? ……矢崎、も……」
「!」
その沈黙が突然破られた。弾かれたように顔を上げると、教室の入り口に瀬尾が立っている。瀬尾は半田が俺の手首を掴んでいるのを見て眉を顰める。
「なにしてんだ」
険しい表情をした瀬尾に俺は焦り、離してという意味をこめて掴まれた手を引くと、半田は少し考えるように視線を動かした後、口角を上げて俺の手を引き返した。その勢いのまま、半田に肩を抱かれる。
「告ってたりして?」
「ち……」
違う、と言おうとするけれど肩を抱く手に力がこもり、半田を見ると視線で言葉を止められる。
「は? そんなの絶対認めない」
「瀬尾に認めてもらうことじゃないし、矢崎のことは前から可愛いかもって思ってたし?」
半田がいつもの軽い口調で言うと、瀬尾の表情がますます険しくなる。
「瀬尾がどうしても矢崎のこと好きでしょうがないって言うなら諦めるけど」
「……っ」
瀬尾がはっとした様子で俺を見て、すぐに視線を逸らした。
「言えよ、瀬尾」
「……」
瀬尾も半田も睨み合うように互いを見つめ、緊迫した空気に俺のほうが身体に力が入る。でも、瀬尾の瞳を見たら言葉なんて必要なかった。
149
あなたにおすすめの小説
インフルエンサー
うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。
※pixivにも投稿しています
好きとは言ってないけど、伝わってると思ってた
ぱ
BL
幼なじみの三毛谷凪緒に片想いしている高校二年生の柴崎陽太。凪緒の隣にいるために常に完璧であろうと思う陽太。しかしある日、幼馴染みの凪緒が女子たちに囲まれて「好きな人がいる」と話しているのを聞き、自分じゃないかもしれないという不安に飲まれていく。ずっと一緒にいたつもりだったのに、思い込みだったのかもしれない──そんな気持ちを抱えたまま、ふたりきりの帰り道が始まる。わんこ攻め✕ツンデレ受け
陽キャと陰キャの恋の始め方
金色葵
BL
「俺と付き合って欲しい」
クラスの人気者からの告白――――だけどそれは陽キャグループの罰ゲームだった!?
地味で目立たない白石結月は、自分とは正反対の派手でイケメンの朝日陽太から告白される。
からかわれてるって分かっていても、ときめく胸を押さえられない。
この恋の行方どうなる!?
短編になります。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる