きみが隣に

すずかけあおい

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きみが隣に⑤

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「あいつ、あれで頭いいだろ」
「……うん」
「だから瀬尾が負けてみんな面白がっちゃって……俺も面白がったひとりなんだけど」
「……」
「女子に告ったら絶対オーケーだから矢崎に告れって言われて、瀬尾はそういうのは嫌だって言った」

 もう聞きたくない……でも聞かないといけないような気もする。だけど、真実は瀬尾の口から聞きたい。こういうことは、きちんと瀬尾の口から……。
 優しくて眩しい笑顔が脳裏に浮かぶ。

「瀬尾は最初から、負けたら告るっていうのを嫌がってたんだ。俺たちが面白がってやらせた。矢崎はいつもひとりでいたし、からかってみようって」
「最低だね。面白がった半田たちも、嫌がりながらでもやった瀬尾も」
「そのとおりだよ。でも本当に最低なのは俺たちだけで、瀬尾は違う。何回謝っても許してもらえないと思ってるけど、それはわかってほしい」

 最低なのは半田たちだけ……それを簡単に納得できたらどんなに楽だろう。

「……わかったよ。もう帰っていい? 手、離して」

 ここはこれで切り抜けようとわかったふりをして掴まれたままの手に視線を落とすと、その手に力がこもったので半田を見る。これ以上ないくらい真剣な表情を向けられて怯んでしまう。

「瀬尾は本気で矢崎が好きだよ」
「……」
「罰ゲームのとき、瀬尾に状況を報告させてたけど、すぐに『もうなにも話さない』って言われた。あいつ、矢崎といるとすごく楽しそうだった」
「……知らないよ、そんなの」

 半田の手を振り払おうとしても力が強くて敵わなかった。

「俺たちのことはめちゃくちゃ嫌って無視していいから、瀬尾のことは嫌わないでやってほしい」
「だったら最初からそんな馬鹿な罰ゲームやらなければよかったんじゃない?」

 結局そこに戻るから、この話は進まない。もう帰りたい。聞けば聞くほど心の中の瀬尾がどんどん大きくなっていって苦しくなる。

「……ごめん」
「だからもういいって。離して」
「矢崎が瀬尾を嫌いじゃないって言うまで離さない」
「なっ……」

 なにを言い出すのかと半田の顔を見ると、怖いくらい真剣な瞳で俺をとらえる。面白がっておかしな罰ゲームをさせたりしたけれど、半田も瀬尾が大切なんだ。

「お願い、矢崎。本当は瀬尾を好きになってほしいけど、そこまでは俺にどうにかできる問題じゃない。でも嫌わないでやってほしい」
「……」
「あいつ本当にいい奴なんだ! ふざけるときもあるけど、根は真面目だし優しいし……!」
「……知ってる」

 話しかけないでと言えば、本当に一切話しかけないくらい真剣に俺の気持ちを考えてくれるし、それだけ俺を――。
 でも、もうどうにもできない。近づくのが怖い。俺が口を噤むと沈黙が流れた。

「半田? ……矢崎、も……」
「!」

 その沈黙が突然破られた。弾かれたように顔を上げると、教室の入り口に瀬尾が立っている。瀬尾は半田が俺の手首を掴んでいるのを見て眉を顰める。

「なにしてんだ」

 険しい表情をした瀬尾に俺は焦り、離してという意味をこめて掴まれた手を引くと、半田は少し考えるように視線を動かした後、口角を上げて俺の手を引き返した。その勢いのまま、半田に肩を抱かれる。

「告ってたりして?」
「ち……」

 違う、と言おうとするけれど肩を抱く手に力がこもり、半田を見ると視線で言葉を止められる。

「は? そんなの絶対認めない」
「瀬尾に認めてもらうことじゃないし、矢崎のことは前から可愛いかもって思ってたし?」

 半田がいつもの軽い口調で言うと、瀬尾の表情がますます険しくなる。

「瀬尾がどうしても矢崎のこと好きでしょうがないって言うなら諦めるけど」
「……っ」

 瀬尾がはっとした様子で俺を見て、すぐに視線を逸らした。

「言えよ、瀬尾」
「……」

 瀬尾も半田も睨み合うように互いを見つめ、緊迫した空気に俺のほうが身体に力が入る。でも、瀬尾の瞳を見たら言葉なんて必要なかった。

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