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天使の居場所⑭
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火曜日は二限からなので、伊央の朝はゆっくりだ。桐都は先にベッドから出て、壊れものに触るような手つきで伊央の髪を撫でた。
「俺も起きます」
「ゆっくり寝られるときは寝たほうがいい」
温もりが離れていき、寂しい気持ちになった。桐都の気持ちがなんとなくわかり、せめて朝食だけでも作ろうと思うのに、桐都は遠慮する。
「やっぱり起きます」
それでも「朝食はいい」と遠慮を重ねるので、これくらいは、とご飯にかつお節をのせ、卵を落とした卵かけご飯を作る。料理とも言えないものも桐都はこのうえなく喜んでくれて、伊央を幸せな気持ちにした。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
出勤する桐都を見送り、もう少しだけ、とベッドに入った。でも桐都の体温がなくて妙に寒く感じ、すぐにベッドから出た。桐都の体温に慣れている自分に驚くが、それだけそばにいるのだ。
「あれ」
そういえば桐都が性的に触ってこなくなった。あんなに言ってもやめなかったのに、なにか心変わりがあったのだろうか――たしかに自分は困っていたはずだが、どこか寂しいことに戸惑う。たった数日でも、ふたりですごしている部屋にひとりでいることも相まって、心に隙間風が吹くような、違和感に近い居心地の悪さを覚えた。
講義が終わった夕方に買いものをしてから帰宅すると、桐都はまだ帰っていなかった。からんとした静かな部屋をぼんやりと見まわす。もともとひとり暮らしだったのに、桐都がいることにすっかり慣れている。
「絆されやすいなあ」
苦笑しながらキッチンに立つ。桐都が拾ってはいけない男だったら、どうするつもりだったのか。他人事のように考えながら夕食の準備をする。今夜はシチューにした。ルウを使うから簡単だし、桐都の昨夜の言葉も多分に影響している。桐都が言ったことはそういう温かさではないのはわかっているが、それでも少しでも彼が温かいと感じるものを食べてほしい。
食事の支度が楽しい。桐都はなにを作っても喜んでくれるから、気合いが入る。とはいっても相変わらずたいしたものは作れないのだけれど。
コンロの火を止め、まだ時間が少しあるので、簡単な料理のレシピをスマートフォンで検索する。レシピを見ながらなら、もっといろいろと作れるかもしれない。スマートフォンをいじっていたらアルバイトに行く時間になり、部屋を出てアルバイト先に向かった。桐都もそろそろ帰ってくるかもしれない。
「あ。おかえりなさい」
アパートからまっすぐ歩いたところにある曲がり角で、桐都に会った。
「ただいま。今からバイト?」
「はい。夕食は作ってあります。今夜はシチューです」
「ありがとう。――本当にごめん。迷惑かけて」
伊央が首を左右に振ると、桐都は情けなく眉をさげた。
「それじゃ、行きますね」
桐都と別れて歩き出す。急に心もとなくなり、思わず振り返った。桐都はまだそこに立っていて、伊央のほうを見ていた。小さく手を振ると同じように返してくれて、また足を進める。
桐都といると心が温かいのに、離れると今までに感じたことがないほどの寂しさですうすうする。
「俺も起きます」
「ゆっくり寝られるときは寝たほうがいい」
温もりが離れていき、寂しい気持ちになった。桐都の気持ちがなんとなくわかり、せめて朝食だけでも作ろうと思うのに、桐都は遠慮する。
「やっぱり起きます」
それでも「朝食はいい」と遠慮を重ねるので、これくらいは、とご飯にかつお節をのせ、卵を落とした卵かけご飯を作る。料理とも言えないものも桐都はこのうえなく喜んでくれて、伊央を幸せな気持ちにした。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
出勤する桐都を見送り、もう少しだけ、とベッドに入った。でも桐都の体温がなくて妙に寒く感じ、すぐにベッドから出た。桐都の体温に慣れている自分に驚くが、それだけそばにいるのだ。
「あれ」
そういえば桐都が性的に触ってこなくなった。あんなに言ってもやめなかったのに、なにか心変わりがあったのだろうか――たしかに自分は困っていたはずだが、どこか寂しいことに戸惑う。たった数日でも、ふたりですごしている部屋にひとりでいることも相まって、心に隙間風が吹くような、違和感に近い居心地の悪さを覚えた。
講義が終わった夕方に買いものをしてから帰宅すると、桐都はまだ帰っていなかった。からんとした静かな部屋をぼんやりと見まわす。もともとひとり暮らしだったのに、桐都がいることにすっかり慣れている。
「絆されやすいなあ」
苦笑しながらキッチンに立つ。桐都が拾ってはいけない男だったら、どうするつもりだったのか。他人事のように考えながら夕食の準備をする。今夜はシチューにした。ルウを使うから簡単だし、桐都の昨夜の言葉も多分に影響している。桐都が言ったことはそういう温かさではないのはわかっているが、それでも少しでも彼が温かいと感じるものを食べてほしい。
食事の支度が楽しい。桐都はなにを作っても喜んでくれるから、気合いが入る。とはいっても相変わらずたいしたものは作れないのだけれど。
コンロの火を止め、まだ時間が少しあるので、簡単な料理のレシピをスマートフォンで検索する。レシピを見ながらなら、もっといろいろと作れるかもしれない。スマートフォンをいじっていたらアルバイトに行く時間になり、部屋を出てアルバイト先に向かった。桐都もそろそろ帰ってくるかもしれない。
「あ。おかえりなさい」
アパートからまっすぐ歩いたところにある曲がり角で、桐都に会った。
「ただいま。今からバイト?」
「はい。夕食は作ってあります。今夜はシチューです」
「ありがとう。――本当にごめん。迷惑かけて」
伊央が首を左右に振ると、桐都は情けなく眉をさげた。
「それじゃ、行きますね」
桐都と別れて歩き出す。急に心もとなくなり、思わず振り返った。桐都はまだそこに立っていて、伊央のほうを見ていた。小さく手を振ると同じように返してくれて、また足を進める。
桐都といると心が温かいのに、離れると今までに感じたことがないほどの寂しさですうすうする。
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