3 / 3
きみの唇③
しおりを挟む
「なんでキスができないんだろう」
自分を責めるような声だった。頭をかかえる剛志のそっと頬を撫でて、上を向かせてあげる。このままだと剛志は苦しいままだ。なにかいい方法はないだろうか。
「直接唇が触れ合わなければいいのかな」
「え?」
「こうやって」
郁実が人差し指の腹で自分の唇に触れ、同じ部分で剛志の唇に触れる。間接だけれど、これもキスだ。
「これなら嫌じゃない?」
「う、うん。でも、やっぱりちゃんと――」
「これだってちゃんとキスだよ」
もう一度自分の唇に触れて、剛志の唇に指を押しあてる。見た目よりもずっと柔らかい。
「僕たちには僕たちの形があっていいじゃん」
「郁実……」
「だから『捨てていい』なんて言わないで」
縋るような口調になってしまったかもしれない。それでも剛志にわかってほしかった。キスより大切なものがあること。キスができなくてもそばにいたいこと。
「でも……これから先、郁実につらい思いさせるし」
「先のことはそのとき考えようよ。なにがあっても、僕は絶対剛志といることを選ぶけどね」
はっきりと言いきると、ぽかんと間の抜けた顔をした剛志が笑い出した。腹を抱え、目に涙を溜めて笑う姿に郁実もおかしくなってきた。
「郁実、恰好いいな」
「皆に人気の剛志に言われると複雑。剛志はどこからどう見ても恰好いいし」
目尻の涙を指で拭った剛志が首を横に振る。
「見た目じゃないよ。考え方とか心がまえが恰好いい」
「そうかな」
そんなふうに言われたのははじめてだから、くすぐったい。
「それなのに『捨てていい』なんて言う俺はめちゃくちゃ恰好悪いな」
照れくさそうに苦笑する剛志は、なにかがふっきれたような顔をしている。つられて郁実も穏やかな気持ちになった。
「恰好悪くていいよ。剛志は剛志のままでいて。キスなんてできなくたって大好き」
剛志に勢いよく抱きつくと、体重をかけすぎてそのまま剛志にのしかかってしまった。止まろうと思っても勢いをつけすぎて止まれない。
「わっ」
「うわっ」
フローリングに背をつけた剛志を押し潰すように、勢いのまま覆いかぶさる恰好になり、唇に柔らかいものが触れた。
「え?」
慌てて離れるけれど、唇に柔らかな感覚が残っている。思わず口を手で覆うと、同じように剛志も自身の唇を手で覆った。
「嘘……」
「嘘……」
ふたりで同じ言葉を口にして、声が重なった。剛志が真っ赤になったが、きっと郁実も同じだ。頬がとても熱い。
「ご、ごめん!」
急いで剛志の上からどこうとしたが、背中に腕がまわって動けない。
「もう一度できるかな」
剛志が恐る恐るという様子で顔を寄せてくるがだめだった。残念そうに眉をさげているけれど、先ほどまでのせつないような瞳はしていない。
「今後郁実は俺を押し倒す係な」
「えっ」
そんなとんでもない係に任命されても困る。今したことをまたやれと言われたら、顔から火が出そうになるほど恥ずかしい。先ほどは意図せずそうなったが、意識して押し倒してキスをする、というのはかなり難易度が高い。
「郁実」
「なに?」
「好きだよ」
きつく抱きしめられ、その背に腕をまわして首もとに顔をうずめる。心音まで伝え合うような抱擁は心地よい体温を教えてくれた。
「僕はもっと好き」
「負けない」
ふたりで笑い合う。キスができなくたってかまわない。ふたりの形を作っていきたい。
おわり
自分を責めるような声だった。頭をかかえる剛志のそっと頬を撫でて、上を向かせてあげる。このままだと剛志は苦しいままだ。なにかいい方法はないだろうか。
「直接唇が触れ合わなければいいのかな」
「え?」
「こうやって」
郁実が人差し指の腹で自分の唇に触れ、同じ部分で剛志の唇に触れる。間接だけれど、これもキスだ。
「これなら嫌じゃない?」
「う、うん。でも、やっぱりちゃんと――」
「これだってちゃんとキスだよ」
もう一度自分の唇に触れて、剛志の唇に指を押しあてる。見た目よりもずっと柔らかい。
「僕たちには僕たちの形があっていいじゃん」
「郁実……」
「だから『捨てていい』なんて言わないで」
縋るような口調になってしまったかもしれない。それでも剛志にわかってほしかった。キスより大切なものがあること。キスができなくてもそばにいたいこと。
「でも……これから先、郁実につらい思いさせるし」
「先のことはそのとき考えようよ。なにがあっても、僕は絶対剛志といることを選ぶけどね」
はっきりと言いきると、ぽかんと間の抜けた顔をした剛志が笑い出した。腹を抱え、目に涙を溜めて笑う姿に郁実もおかしくなってきた。
「郁実、恰好いいな」
「皆に人気の剛志に言われると複雑。剛志はどこからどう見ても恰好いいし」
目尻の涙を指で拭った剛志が首を横に振る。
「見た目じゃないよ。考え方とか心がまえが恰好いい」
「そうかな」
そんなふうに言われたのははじめてだから、くすぐったい。
「それなのに『捨てていい』なんて言う俺はめちゃくちゃ恰好悪いな」
照れくさそうに苦笑する剛志は、なにかがふっきれたような顔をしている。つられて郁実も穏やかな気持ちになった。
「恰好悪くていいよ。剛志は剛志のままでいて。キスなんてできなくたって大好き」
剛志に勢いよく抱きつくと、体重をかけすぎてそのまま剛志にのしかかってしまった。止まろうと思っても勢いをつけすぎて止まれない。
「わっ」
「うわっ」
フローリングに背をつけた剛志を押し潰すように、勢いのまま覆いかぶさる恰好になり、唇に柔らかいものが触れた。
「え?」
慌てて離れるけれど、唇に柔らかな感覚が残っている。思わず口を手で覆うと、同じように剛志も自身の唇を手で覆った。
「嘘……」
「嘘……」
ふたりで同じ言葉を口にして、声が重なった。剛志が真っ赤になったが、きっと郁実も同じだ。頬がとても熱い。
「ご、ごめん!」
急いで剛志の上からどこうとしたが、背中に腕がまわって動けない。
「もう一度できるかな」
剛志が恐る恐るという様子で顔を寄せてくるがだめだった。残念そうに眉をさげているけれど、先ほどまでのせつないような瞳はしていない。
「今後郁実は俺を押し倒す係な」
「えっ」
そんなとんでもない係に任命されても困る。今したことをまたやれと言われたら、顔から火が出そうになるほど恥ずかしい。先ほどは意図せずそうなったが、意識して押し倒してキスをする、というのはかなり難易度が高い。
「郁実」
「なに?」
「好きだよ」
きつく抱きしめられ、その背に腕をまわして首もとに顔をうずめる。心音まで伝え合うような抱擁は心地よい体温を教えてくれた。
「僕はもっと好き」
「負けない」
ふたりで笑い合う。キスができなくたってかまわない。ふたりの形を作っていきたい。
おわり
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
Fromのないラブレター
すずかけあおい
BL
『好きです。あなたをいつも見てます。ずっと好きでした。つき合ってください。』
唯のもとに届いた差出人のない手紙には、パソコンの文字でそう書かれていた。
いつも、ずっと――昔から仲がよくて近しい人で思い当たるのは、隣家に住む幼馴染の三兄弟。
まさか、三兄弟の誰かからのラブレター!?
*外部サイトでも同作品を投稿しています。
バッドエンドは難しい
すずかけあおい
BL
各務 出帆(かがみ いずほ・攻め)と吹上 密(ふきがみ ひそか・受け)の話です。
①バッドエンドは難しい→各務に告白された吹上はバッドエンドに持っていこうとします。
②ハッピーエンドは終わらない→①のその後です。
陽キャと陰キャの恋の始め方
金色葵
BL
「俺と付き合って欲しい」
クラスの人気者からの告白――――だけどそれは陽キャグループの罰ゲームだった!?
地味で目立たない白石結月は、自分とは正反対の派手でイケメンの朝日陽太から告白される。
からかわれてるって分かっていても、ときめく胸を押さえられない。
この恋の行方どうなる!?
短編になります。
きみが隣に
すずかけあおい
BL
いつもひとりでいる矢崎は、ある日、人気者の瀬尾から告白される。
瀬尾とほとんど話したことがないので断ろうとすると、「友だちからでいいから」と言われ、友だちからなら、と頷く。
矢崎は徐々に瀬尾に惹かれていくけれど――。
〔攻め〕瀬尾(せお)
〔受け〕矢崎(やざき)
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる