きみの唇

すずかけあおい

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きみの唇②

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 そばにいられたらそれでいい――と思った、のに、ドラマや映画でキスシーンを見ると羨ましくなる。やはりキスがしたい。けれども、それを素直に言っていいのかわからない。
「郁実、どうした?」
「ううん……。どうもしないよ?」
「……」
 剛志から心配されるほどに悩んだ。剛志も郁実の悩みのもとにうっすらと気がついていたようだったので、悩みに悩んだ結果、勇気を出して「一緒に乗り越えよう」と提案した。ぽかんとした剛志は、少し笑って首を縦に振ってくれた。
「郁実となら乗り越えられる気がする」
 そこからキスへの挑戦がはじまった。シンプルに顔を近づけたり、目を閉じた状態で顔を寄せてみたり、不意打ちでしてみたり。いろいろ試しても全部よけられた。よけたいと思っているわけではないとは言われたが、しっかりよけられてしまう。
 ふたりでどうしたらいいものかと考えたが、やはり地道に努力するしかないという答えに行きついた。
「唇は粘膜じゃない」
 剛志は今日も呪文を唱えて目を閉じる。郁実がゆっくり顔を近づけ、唇のすれすれまで行けた。今日こそできるかも、と思ったら剛志が手で唇を押さえた。
「……ごめん」
「いいよ。今日はもうやめておこう?」
 できそうだったけどな、と残念に思うと、剛志が抱き寄せてくれた。こういう接触は大丈夫らしい。
「本当にごめんな、郁実」
「大丈夫だよ」
「むしろ俺を縛りつけて、強引に唇を奪ってもらったほうがいいのかな」
 なんだか怖いことを言っているので、首を横にぶんぶんと振った。強引にでは、剛志の意志はどこにあるのか。剛志が嫌だと思うことをしたくない。
「こうしていられるだけで充分」
 剛志の肩に額をのせると、髪を撫でてくれた。優しい手つきが落ちつく。
「きっと、いつかできるようになるよ」
 慰めるわけではないけれど、いつかはできる気がする。
「頬ならキスしていい?」
「大丈夫、だと思う」
 そっと唇を寄せると、柔らかな頬にきちんとキスができた。やはり唇同士に抵抗があるようだ。そのままの流れで唇にもキスをできないかと挑戦するが、必死な顔でよけられた。必死な表情は、せつなげに歪む。
「郁実、俺なんか捨てていいよ」
「なに言ってるの?」
「キスができないやつなんて嫌だろ」
 思い詰めた様子に、嫌な予感がした。
「剛志、僕と別れたいって思ってる?」
 自分は絶対に別れたくないが、剛志がそう思っていたら引き留められない。そんな考えに気がついたのか、震える指を両手で包まれた。
「こんなに郁実が好きなのに、そんなこと思うわけない」
「よかった」
 ひとまずその言葉で安心する。別れたいと思われているのに無理につき合ってもらうのは嫌だ。
「でも……」
「キスのことなら気にしないで。もういいから」
 少し残念な気持ちはあるけれど、これ以上剛志を苦しめたくない。笑って見せたのに逆に心配そうな顔をされた。
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