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火曜日、迎え
火曜日、迎え①
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一睡もできずに朝になった。ひとりの家はものすごく怖かった。灯里がいるときはこんなふうになったことは一度もなく、人の存在の安心感のすごさを知った。
窓の外は昨夜の雷雨が嘘のように晴れていて、莉久のどんよりとした気持ちとは正反対すぎて思わずため息が零れる。
「おお、原沢……すごい顔だな」
「朝田……」
学校につくと、朝田が引き攣った表情で声をかけてくれた。莉久は怖くて鏡が見られなかったが、その言い方と表情から相当にひどい顔をしていることがわかった。
「昨日はあんなに楽しそうにしてたのに。なんかあったか?」
「……あった」
あったけれど、それを朝田に話したいとは思わない。人のセクシュアリティというデリケートなことだから、莉久がいくら拒絶しているからといって誰彼かまわずぺらぺらしゃべっていいことではない。
それに、聞いたことがないけれど朝田がゲイだった場合、朝田を傷つける。可愛い彼女がほしいとかあの女子が可愛いとかよく言っているから、朝田は違うだろうけれど。
「話聞いてやろうか?」
「いい。今回は誰かに話せるようなことじゃない」
莉久がそう言えば朝田はさぐろうとしない。この友のそういうところが信頼できると思う。嫌がる相手から無理やり聞き出したり、人の真剣な話を笑ったりしないやつだ。
「それなら放っておくわ」
「ありがと」
こうやって突き放してくれるところも、気持ちが楽だった。
本音を言えば相談したいし、かかえている思いをすべて吐き出したい。だが、それをしてはいけないと感じ、止める自分が頭の中にいる。どうしたらいいかわからないときは、なんとなくそう感じることに従ってみるのがいい、と以前梓眞が言っていた。
こういうときにもふと梓眞の言葉を思い出すくらい大好きだ。大好きな梓眞だからこそ受け入れられない。灯里もそうだ。灯里が大好きだからこそ信じたくない。梓眞はいつまでもどこまでも「優しい梓眞さん」であってほしいし、灯里は「いい父親」でいてほしい。
「……俺って勝手かも」
梓眞と灯里が個々の、感情をもった人間だとはっきりわかったことがショックだ。特に、その感情が恋愛感情であることが莉久を混乱させた。「優しい梓眞さん」と「いい父親」が、昔のこととはいえ、愛し合う恋人同士だった。ふたりは莉久が思っているのとは違う面をもっていた。
予鈴を聞きながらため息をひとつ吐き出す。校舎に響くチャイムの音がひどく無機質に感じるのは、自分の心が疲れているからだろうか。
窓の外は昨夜の雷雨が嘘のように晴れていて、莉久のどんよりとした気持ちとは正反対すぎて思わずため息が零れる。
「おお、原沢……すごい顔だな」
「朝田……」
学校につくと、朝田が引き攣った表情で声をかけてくれた。莉久は怖くて鏡が見られなかったが、その言い方と表情から相当にひどい顔をしていることがわかった。
「昨日はあんなに楽しそうにしてたのに。なんかあったか?」
「……あった」
あったけれど、それを朝田に話したいとは思わない。人のセクシュアリティというデリケートなことだから、莉久がいくら拒絶しているからといって誰彼かまわずぺらぺらしゃべっていいことではない。
それに、聞いたことがないけれど朝田がゲイだった場合、朝田を傷つける。可愛い彼女がほしいとかあの女子が可愛いとかよく言っているから、朝田は違うだろうけれど。
「話聞いてやろうか?」
「いい。今回は誰かに話せるようなことじゃない」
莉久がそう言えば朝田はさぐろうとしない。この友のそういうところが信頼できると思う。嫌がる相手から無理やり聞き出したり、人の真剣な話を笑ったりしないやつだ。
「それなら放っておくわ」
「ありがと」
こうやって突き放してくれるところも、気持ちが楽だった。
本音を言えば相談したいし、かかえている思いをすべて吐き出したい。だが、それをしてはいけないと感じ、止める自分が頭の中にいる。どうしたらいいかわからないときは、なんとなくそう感じることに従ってみるのがいい、と以前梓眞が言っていた。
こういうときにもふと梓眞の言葉を思い出すくらい大好きだ。大好きな梓眞だからこそ受け入れられない。灯里もそうだ。灯里が大好きだからこそ信じたくない。梓眞はいつまでもどこまでも「優しい梓眞さん」であってほしいし、灯里は「いい父親」でいてほしい。
「……俺って勝手かも」
梓眞と灯里が個々の、感情をもった人間だとはっきりわかったことがショックだ。特に、その感情が恋愛感情であることが莉久を混乱させた。「優しい梓眞さん」と「いい父親」が、昔のこととはいえ、愛し合う恋人同士だった。ふたりは莉久が思っているのとは違う面をもっていた。
予鈴を聞きながらため息をひとつ吐き出す。校舎に響くチャイムの音がひどく無機質に感じるのは、自分の心が疲れているからだろうか。
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