8 / 36
水曜日、怜司の優しさ
水曜日、怜司の優しさ①
しおりを挟む
梓眞は莉久を責めず、優しく迎え入れてくれた。感情的になって責められたほうが楽なときもあるが、梓眞はそうしなかった。結局、莉久は落ちつかない。
梓眞と灯里がつき合っていたということなら、灯里もゲイなのか。もしそうなら別れた母との関係はなんなのか。なぜ梓眞と灯里は別れたのか――。
考えはじめるときりがなくて、梓眞や灯里に聞きたいことが頭の中で渦巻いてぐるぐるまわる。聞きたいけれど聞いていいことではないような気もする。
三人で朝食をとりながら梓眞の顔をじっと見る。本人はその視線に気がついていないのか、怜司と話していて莉久を見ない。目が合っても困るのだけれど、とヨーグルトをスプーンですくった。
「一昨日、莉久が出ていったあとに莉久が怖がりなことを話したら、怜司が『一応迎えにいってみる』って、自分から言い出したんだよ」
「え……」
想像もしなかったことに驚くと、怜司は小さくため息をついた。
「別に。深い意味はない」
可笑しそうに目もとを和らげた梓眞が、ようやく莉久の視線を受け取った。莉久は慌てて目を逸らし、怜司を見る。
「莉久が心配だったんだね」
「全然。こんなの」
「こんなのってなに!」
怜司と莉久のやり取りを、梓眞はいつもの微笑みで見守っている。灯里を見るときと似たような表情だが、わずかに違う。どこがどう違うかと聞かれたら困るが、目の雰囲気というか、まとう空気というか、とにかくなにかが違う。
灯里は過去だと言っていたけれど、梓眞はまだ灯里が好きなのだろうか――そんな思いが頭によぎった。
梓眞になにを言われても怜司は表情を変えず、莉久を見もしない。だが、迎えにきてくれたのは事実だし、莉久だって家の前にいる怜司に、信じられない気持ちになった。怖がりの莉久を心配してくれたのか、本当に深い意味はなかったのか。どちらにしてもあのときは救われたように感じた。自分で思う以上にひとりの家はこたえていたようだ。
「怜司は莉久が気に入ったのかな」
「えっ、ゲイの怜司さんに気に入られるってどういう意味?」
莉久の言葉に、梓眞が目を丸くした。その反応に莉久も驚く。
「自分がゲイだって話したの? 怜司が?」
「うん」
「へえ……」
意味ありげな視線を怜司に向ける梓眞に、莉久は疑問符を浮かべる。分が悪いと感じたのか、怜司は逃げるようにさっさと食事を終えて大学に向かった。
「口が滑っただけで、本当になんでもねえよ」
残していった言葉に、梓眞はまた少し笑っていた。
このふたりの関係もよくわからない。伯父と甥という関係以上にしっかりとつながっているように見える。信頼し合っているというか、互いに深く気を許しているのがわかる。
「怜司さん、ゲイってこと隠してるの?」
「そうだね」
梓眞は、はじめに莉久が灯里とのことを聞いたときのような笑みを見せた。そこも触れてはいけない部分なのかもしれない、となんとなく感じる。すっきりしないけれど、そういうものかと無理やり納得した。
莉久も少ししてから学校にいくために部屋を出た。
梓眞と灯里がつき合っていたということなら、灯里もゲイなのか。もしそうなら別れた母との関係はなんなのか。なぜ梓眞と灯里は別れたのか――。
考えはじめるときりがなくて、梓眞や灯里に聞きたいことが頭の中で渦巻いてぐるぐるまわる。聞きたいけれど聞いていいことではないような気もする。
三人で朝食をとりながら梓眞の顔をじっと見る。本人はその視線に気がついていないのか、怜司と話していて莉久を見ない。目が合っても困るのだけれど、とヨーグルトをスプーンですくった。
「一昨日、莉久が出ていったあとに莉久が怖がりなことを話したら、怜司が『一応迎えにいってみる』って、自分から言い出したんだよ」
「え……」
想像もしなかったことに驚くと、怜司は小さくため息をついた。
「別に。深い意味はない」
可笑しそうに目もとを和らげた梓眞が、ようやく莉久の視線を受け取った。莉久は慌てて目を逸らし、怜司を見る。
「莉久が心配だったんだね」
「全然。こんなの」
「こんなのってなに!」
怜司と莉久のやり取りを、梓眞はいつもの微笑みで見守っている。灯里を見るときと似たような表情だが、わずかに違う。どこがどう違うかと聞かれたら困るが、目の雰囲気というか、まとう空気というか、とにかくなにかが違う。
灯里は過去だと言っていたけれど、梓眞はまだ灯里が好きなのだろうか――そんな思いが頭によぎった。
梓眞になにを言われても怜司は表情を変えず、莉久を見もしない。だが、迎えにきてくれたのは事実だし、莉久だって家の前にいる怜司に、信じられない気持ちになった。怖がりの莉久を心配してくれたのか、本当に深い意味はなかったのか。どちらにしてもあのときは救われたように感じた。自分で思う以上にひとりの家はこたえていたようだ。
「怜司は莉久が気に入ったのかな」
「えっ、ゲイの怜司さんに気に入られるってどういう意味?」
莉久の言葉に、梓眞が目を丸くした。その反応に莉久も驚く。
「自分がゲイだって話したの? 怜司が?」
「うん」
「へえ……」
意味ありげな視線を怜司に向ける梓眞に、莉久は疑問符を浮かべる。分が悪いと感じたのか、怜司は逃げるようにさっさと食事を終えて大学に向かった。
「口が滑っただけで、本当になんでもねえよ」
残していった言葉に、梓眞はまた少し笑っていた。
このふたりの関係もよくわからない。伯父と甥という関係以上にしっかりとつながっているように見える。信頼し合っているというか、互いに深く気を許しているのがわかる。
「怜司さん、ゲイってこと隠してるの?」
「そうだね」
梓眞は、はじめに莉久が灯里とのことを聞いたときのような笑みを見せた。そこも触れてはいけない部分なのかもしれない、となんとなく感じる。すっきりしないけれど、そういうものかと無理やり納得した。
莉久も少ししてから学校にいくために部屋を出た。
10
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる