しあわせをあなたと

すずかけあおい

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水曜日、怜司の優しさ

水曜日、怜司の優しさ①

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 梓眞は莉久を責めず、優しく迎え入れてくれた。感情的になって責められたほうが楽なときもあるが、梓眞はそうしなかった。結局、莉久は落ちつかない。
 梓眞と灯里がつき合っていたということなら、灯里もゲイなのか。もしそうなら別れた母との関係はなんなのか。なぜ梓眞と灯里は別れたのか――。
 考えはじめるときりがなくて、梓眞や灯里に聞きたいことが頭の中で渦巻いてぐるぐるまわる。聞きたいけれど聞いていいことではないような気もする。
 三人で朝食をとりながら梓眞の顔をじっと見る。本人はその視線に気がついていないのか、怜司と話していて莉久を見ない。目が合っても困るのだけれど、とヨーグルトをスプーンですくった。

「一昨日、莉久が出ていったあとに莉久が怖がりなことを話したら、怜司が『一応迎えにいってみる』って、自分から言い出したんだよ」
「え……」

 想像もしなかったことに驚くと、怜司は小さくため息をついた。

「別に。深い意味はない」

 可笑しそうに目もとを和らげた梓眞が、ようやく莉久の視線を受け取った。莉久は慌てて目を逸らし、怜司を見る。

「莉久が心配だったんだね」
「全然。こんなの」
「こんなのってなに!」

 怜司と莉久のやり取りを、梓眞はいつもの微笑みで見守っている。灯里を見るときと似たような表情だが、わずかに違う。どこがどう違うかと聞かれたら困るが、目の雰囲気というか、まとう空気というか、とにかくなにかが違う。
 灯里は過去だと言っていたけれど、梓眞はまだ灯里が好きなのだろうか――そんな思いが頭によぎった。
 梓眞になにを言われても怜司は表情を変えず、莉久を見もしない。だが、迎えにきてくれたのは事実だし、莉久だって家の前にいる怜司に、信じられない気持ちになった。怖がりの莉久を心配してくれたのか、本当に深い意味はなかったのか。どちらにしてもあのときは救われたように感じた。自分で思う以上にひとりの家はこたえていたようだ。

「怜司は莉久が気に入ったのかな」
「えっ、ゲイの怜司さんに気に入られるってどういう意味?」

 莉久の言葉に、梓眞が目を丸くした。その反応に莉久も驚く。

「自分がゲイだって話したの? 怜司が?」
「うん」
「へえ……」

 意味ありげな視線を怜司に向ける梓眞に、莉久は疑問符を浮かべる。分が悪いと感じたのか、怜司は逃げるようにさっさと食事を終えて大学に向かった。

「口が滑っただけで、本当になんでもねえよ」

 残していった言葉に、梓眞はまた少し笑っていた。
 このふたりの関係もよくわからない。伯父と甥という関係以上にしっかりとつながっているように見える。信頼し合っているというか、互いに深く気を許しているのがわかる。

「怜司さん、ゲイってこと隠してるの?」
「そうだね」

 梓眞は、はじめに莉久が灯里とのことを聞いたときのような笑みを見せた。そこも触れてはいけない部分なのかもしれない、となんとなく感じる。すっきりしないけれど、そういうものかと無理やり納得した。
 莉久も少ししてから学校にいくために部屋を出た。


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