19 / 36
火曜日、胸の違和感
火曜日、胸の違和感①
しおりを挟む
「なにぼけっとしてんだ」
「ぼけっとなんてしてないよ。わ、髪ぐちゃぐちゃにしないで」
怜司が大きな手で莉久の髪をかきまわす。これから学校なのに、こんなにぐちゃぐちゃにされたら直すのが大変だ。
「もう。怜司さんが責任取って直してよ」
「わかった」
「その顔は、もっとひどくする気だ!」
相変わらず意地悪ばかりの怜司だけれど、やはり本当は優しい人なのだと思う。髪を直す穏やかな手つきに唇を尖らせていると、頬をつままれた。
「むくれるな」
「つねらないでよ」
意地悪で優しい。それでいて寂しさも秘めている怜司のそばにいると、胸の違和感を覚える。
「あ。梓眞さん、助けて!」
「なに? また怜司にいじめられた?」
出勤の支度をしている梓眞の背中に隠れると、怜司はそれ以上手を出さなかった。ふたりになりたいかもしれない、と気を使って莉久が逃げるように部屋に飛び込むことも増えた。
ふたりきりでなにを話すのだろう。怜司は恋人にどんな瞳を向けるのだろう。考えはじめるともやもやして、気持ちがすっきりしなかった。
「おまえ、なにか勘違いしてるだろ」
「え?」
「梓眞さんと俺をふたりきりにさせてるの、ばればれだ」
帰宅後、夕食を終えて順番にお風呂に入った怜司とふたりでリビングでテレビを見ていたら、突然そんなことを言われた。
「だって、怜司さんと梓眞さんってつき合ってるんでしょ?」
「なんでだよ」
「ふたりでいると雰囲気いいし」
ため息をついた怜司は、莉久に伸ばした手をぎゅっと握り込んでおろした。どこか戸惑うような表情に、莉久は首をかしげる。
「俺と梓眞さんって。バリタチ同士じゃどうにもならねえよ」
「ばりたち?」
もう一度首をかしげると、怜司は簡潔に男役と女役の説明をしてくれた。本当にゲイなんだな、とあらためて確認したというか、不思議な気持ちだった。今までも疑ったわけではないが、そういう話題が出たことがほとんどないので、事実が頭の片すみに追いやられていた。
「じゃあ、俺はどっち?」
「は?」
男役のタチと女役のネコ――莉久はどちらだろう。男だからタチのわけではないというか、どちらも男ならば、どういうふうに振り分けられるのか。
「おまえはノンケだろ」
「ノンケはどっち? タチのほう?」
ノンケは異性が好きな人だから男役になるのか、とひとつ利口になった頭を小突かれた。
「なにするの?」
「おまえ、馬鹿だな」
そこで、ノンケはゲイとは違う、と思い至り、ひとつ利口になった頭を振った。つまり、莉久は怜司に近づけない。
なぜかショックを受けていると、伸びてきた指が莉久の唇をなぞった。綺麗な指先はするりと唇の形をなぞり、軽くつまんで押す。そのなまめかしい動きに、背筋がぞわりと甘く騒いだ。
「唇柔らかいな」
「怜司さん……?」
「――どっちか試してみるか?」
梓眞はまだ仕事から帰っていなくて不在で、ここには怜司と莉久のふたりきりだ。
手を引かれ、怜司の部屋に連れていかれる。気がついたときには背がベッドについていた。
「ぼけっとなんてしてないよ。わ、髪ぐちゃぐちゃにしないで」
怜司が大きな手で莉久の髪をかきまわす。これから学校なのに、こんなにぐちゃぐちゃにされたら直すのが大変だ。
「もう。怜司さんが責任取って直してよ」
「わかった」
「その顔は、もっとひどくする気だ!」
相変わらず意地悪ばかりの怜司だけれど、やはり本当は優しい人なのだと思う。髪を直す穏やかな手つきに唇を尖らせていると、頬をつままれた。
「むくれるな」
「つねらないでよ」
意地悪で優しい。それでいて寂しさも秘めている怜司のそばにいると、胸の違和感を覚える。
「あ。梓眞さん、助けて!」
「なに? また怜司にいじめられた?」
出勤の支度をしている梓眞の背中に隠れると、怜司はそれ以上手を出さなかった。ふたりになりたいかもしれない、と気を使って莉久が逃げるように部屋に飛び込むことも増えた。
ふたりきりでなにを話すのだろう。怜司は恋人にどんな瞳を向けるのだろう。考えはじめるともやもやして、気持ちがすっきりしなかった。
「おまえ、なにか勘違いしてるだろ」
「え?」
「梓眞さんと俺をふたりきりにさせてるの、ばればれだ」
帰宅後、夕食を終えて順番にお風呂に入った怜司とふたりでリビングでテレビを見ていたら、突然そんなことを言われた。
「だって、怜司さんと梓眞さんってつき合ってるんでしょ?」
「なんでだよ」
「ふたりでいると雰囲気いいし」
ため息をついた怜司は、莉久に伸ばした手をぎゅっと握り込んでおろした。どこか戸惑うような表情に、莉久は首をかしげる。
「俺と梓眞さんって。バリタチ同士じゃどうにもならねえよ」
「ばりたち?」
もう一度首をかしげると、怜司は簡潔に男役と女役の説明をしてくれた。本当にゲイなんだな、とあらためて確認したというか、不思議な気持ちだった。今までも疑ったわけではないが、そういう話題が出たことがほとんどないので、事実が頭の片すみに追いやられていた。
「じゃあ、俺はどっち?」
「は?」
男役のタチと女役のネコ――莉久はどちらだろう。男だからタチのわけではないというか、どちらも男ならば、どういうふうに振り分けられるのか。
「おまえはノンケだろ」
「ノンケはどっち? タチのほう?」
ノンケは異性が好きな人だから男役になるのか、とひとつ利口になった頭を小突かれた。
「なにするの?」
「おまえ、馬鹿だな」
そこで、ノンケはゲイとは違う、と思い至り、ひとつ利口になった頭を振った。つまり、莉久は怜司に近づけない。
なぜかショックを受けていると、伸びてきた指が莉久の唇をなぞった。綺麗な指先はするりと唇の形をなぞり、軽くつまんで押す。そのなまめかしい動きに、背筋がぞわりと甘く騒いだ。
「唇柔らかいな」
「怜司さん……?」
「――どっちか試してみるか?」
梓眞はまだ仕事から帰っていなくて不在で、ここには怜司と莉久のふたりきりだ。
手を引かれ、怜司の部屋に連れていかれる。気がついたときには背がベッドについていた。
10
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる