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水曜日、莉久にとっての怜司
水曜日、莉久にとっての怜司
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「……?」
瞼をあげると、見慣れた部屋――と思って、どこか違うことに気がつく。顔を横に動かすと、ベッドの下に人影があった。
「え……」
怜司がベッドの下に座った体勢で眠っていて、どうして、と考える。昨夜も自分の部屋で寝たはず――そこで生々しい記憶が蘇った。
怜司の手ではしたなく乱れて昂ぶった熱を処理してもらっただけでも申し訳ないのに、莉久はそのまま眠ってしまったようで、怜司のベッドを図々しく占領したのだ。
「れ、怜司さん……!」
慌てて声をかけると、彼の瞼があがった。どこを見ているのかわからないような視線がゆっくりと莉久に向けられ、目を見開いた。
「おまえ……」
「ごめんなさい。俺、ベッド取っちゃって」
「あ、ああ」
驚いていた様子の怜司だったが、莉久が詫びる言葉で冷静になったのか、しっかり目が覚めたようで、片手で頭を押さえて「そうだった」と呟いた。
怜司の手を見て、また昨夜のことを思い出す。あの手で自分は――考えただけでも顔から火が出そうだった。
「あの、ごめんなさい」
もう一度謝罪する莉久に首をかしげた怜司は、思い至ったように口角をあげた。その微笑みがあまりに意地悪で、それでいて甘さを含んでいて、心臓が高鳴った。
「すげえ可愛かったな」
「っ……!」
からかわれているのか本心か、どちらにしても自らの痴態を思い出してしまい、莉久はベッドから飛び起きた。
「本当にごめんなさい! 俺、部屋に戻る……っ」
慌ててドアノブに手をかける莉久の背後では、怜司がくつくつと喉の奥で忍び笑いをこらえている。やがてこらえ切れなくなったのか、ふっと噴き出した。
「まだ早いから、もう少し寝ろ」
「う、うん。おやすみ」
「ああ」
怜司の部屋を出て自分の部屋に戻ろうとしたら、ドアの開く音がした。
「莉久?」
「あ、梓眞さん……!」
梓眞に怜司の部屋から出てきたところを見られてしまった。起きるには早い時間なのでただ目が覚めたのか、寝間着姿の梓眞の顔は驚きのまま固まっている。
「あ、あの……」
「なにかあった?」
「……あの……」
驚きからいつもの穏やかな微笑みに表情を変えた梓眞に、なにも言えなくて首を横に振る。
こんな朝早くに怜司の部屋から出てきて本当になにもなかったと思ってもらえているかはわからないが、昨夜のことを説明する勇気はなかった。
「莉久?」
「……っ」
梓眞の姿に突然怜司が重なり、頬が燃えそうに熱くなった。慌てて自分の部屋に飛び込み、ベッドに伏せた。
なにかあったのかと問いただされるかと思ったけれど、ドアはノックされなかった。
今日は莉久のバイトは休みで、怜司は夕方からバイトだ。最近は莉久の迎えのために早あがりをしてくれているが、莉久が休みの日はもっと遅くまで働いている。
夕食は梓眞とふたりきりだった。
莉久は帰宅後部屋にこもり、頭の中を整理していた。あんな姿を見せて、しかも恥ずかしい声をあげた自分が信じられないけれど、何度考えてもいきつくのは「気持ちよかった」だった。巧みな手の動きにあっという間に酔い、夢中になってしまった。
ふたりきりの夕食はどこか気まずく思ったのに、梓眞はいつもどおりだ。莉久も変わりなく接したいのに、うまくつくろえない。
片づけを手伝って、部屋に戻ろうとした莉久を梓眞が呼び止めた。
「莉久にとって、怜司はどんな存在?」
どんな存在――答えがわからなくて俯くと、梓眞はもう一度「莉久」と呼んだ。その表情は真剣で、怖いほどだった。
「わからないままにしてもいいけど、俺はしっかり考えてほしい」
その視線の強さに莉久は怯む。梓眞の問いかけを頭の中で繰り返し、莉久がひとつ頷くと、綺麗な顔が安堵するように緩んだ。
「お風呂、先に入って」
「うん……。ありがとう」
着替えを出しながら手を止める。自分にとって怜司はどんな存在か――考えたことがないけれど、考えたほうがいい、と莉久自身も思う。
瞼をあげると、見慣れた部屋――と思って、どこか違うことに気がつく。顔を横に動かすと、ベッドの下に人影があった。
「え……」
怜司がベッドの下に座った体勢で眠っていて、どうして、と考える。昨夜も自分の部屋で寝たはず――そこで生々しい記憶が蘇った。
怜司の手ではしたなく乱れて昂ぶった熱を処理してもらっただけでも申し訳ないのに、莉久はそのまま眠ってしまったようで、怜司のベッドを図々しく占領したのだ。
「れ、怜司さん……!」
慌てて声をかけると、彼の瞼があがった。どこを見ているのかわからないような視線がゆっくりと莉久に向けられ、目を見開いた。
「おまえ……」
「ごめんなさい。俺、ベッド取っちゃって」
「あ、ああ」
驚いていた様子の怜司だったが、莉久が詫びる言葉で冷静になったのか、しっかり目が覚めたようで、片手で頭を押さえて「そうだった」と呟いた。
怜司の手を見て、また昨夜のことを思い出す。あの手で自分は――考えただけでも顔から火が出そうだった。
「あの、ごめんなさい」
もう一度謝罪する莉久に首をかしげた怜司は、思い至ったように口角をあげた。その微笑みがあまりに意地悪で、それでいて甘さを含んでいて、心臓が高鳴った。
「すげえ可愛かったな」
「っ……!」
からかわれているのか本心か、どちらにしても自らの痴態を思い出してしまい、莉久はベッドから飛び起きた。
「本当にごめんなさい! 俺、部屋に戻る……っ」
慌ててドアノブに手をかける莉久の背後では、怜司がくつくつと喉の奥で忍び笑いをこらえている。やがてこらえ切れなくなったのか、ふっと噴き出した。
「まだ早いから、もう少し寝ろ」
「う、うん。おやすみ」
「ああ」
怜司の部屋を出て自分の部屋に戻ろうとしたら、ドアの開く音がした。
「莉久?」
「あ、梓眞さん……!」
梓眞に怜司の部屋から出てきたところを見られてしまった。起きるには早い時間なのでただ目が覚めたのか、寝間着姿の梓眞の顔は驚きのまま固まっている。
「あ、あの……」
「なにかあった?」
「……あの……」
驚きからいつもの穏やかな微笑みに表情を変えた梓眞に、なにも言えなくて首を横に振る。
こんな朝早くに怜司の部屋から出てきて本当になにもなかったと思ってもらえているかはわからないが、昨夜のことを説明する勇気はなかった。
「莉久?」
「……っ」
梓眞の姿に突然怜司が重なり、頬が燃えそうに熱くなった。慌てて自分の部屋に飛び込み、ベッドに伏せた。
なにかあったのかと問いただされるかと思ったけれど、ドアはノックされなかった。
今日は莉久のバイトは休みで、怜司は夕方からバイトだ。最近は莉久の迎えのために早あがりをしてくれているが、莉久が休みの日はもっと遅くまで働いている。
夕食は梓眞とふたりきりだった。
莉久は帰宅後部屋にこもり、頭の中を整理していた。あんな姿を見せて、しかも恥ずかしい声をあげた自分が信じられないけれど、何度考えてもいきつくのは「気持ちよかった」だった。巧みな手の動きにあっという間に酔い、夢中になってしまった。
ふたりきりの夕食はどこか気まずく思ったのに、梓眞はいつもどおりだ。莉久も変わりなく接したいのに、うまくつくろえない。
片づけを手伝って、部屋に戻ろうとした莉久を梓眞が呼び止めた。
「莉久にとって、怜司はどんな存在?」
どんな存在――答えがわからなくて俯くと、梓眞はもう一度「莉久」と呼んだ。その表情は真剣で、怖いほどだった。
「わからないままにしてもいいけど、俺はしっかり考えてほしい」
その視線の強さに莉久は怯む。梓眞の問いかけを頭の中で繰り返し、莉久がひとつ頷くと、綺麗な顔が安堵するように緩んだ。
「お風呂、先に入って」
「うん……。ありがとう」
着替えを出しながら手を止める。自分にとって怜司はどんな存在か――考えたことがないけれど、考えたほうがいい、と莉久自身も思う。
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