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木曜日、灯里の心
木曜日、灯里の心①
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ここのところ怜司はよく笑い、最初はいつもむすっとしていたのが嘘のようだ。笑顔が綺麗で、ついじっと見ていると鼻をつままれる。意地悪もちゃんと健在だ。
「怜司、あまり莉久をいじめるんじゃないよ」
「いじめてないよ」
「いじめられてる!」
梓眞は昨日のことを蒸し返さないので、莉久は余計に心もとない。つつかれたら困るくせに、触れないでいられるとそれでいいのだろうか、と思ってしまう。
「怜司さん、いつもありがとう」
「ん」
バイト帰りに怜司が迎えにきてくれて、ふたりで並んで歩く。もうあの日の恐怖は残っていなかった。すべて怜司のおかげだ。
莉久は自身の痴態を晒してからどういう顔で一緒にいればいいのかわからない。悩む気持ちをかかえて、横顔を見あげながら歩いていたら躓いた。
「あっぶね。なにやってんだ」
「あ、ありがと」
片手で軽々と支えられ、その腕の力強さに一昨日の夜を思い出す。かあっと頬に熱が集まり、慌てて怜司から離れた。
あの日の変質者も男だったのに、怜司はまったく違う。怜司の腕の中にはいつまでもいたいと思ってしまう。
そういえば怜司は一昨日莉久が寝てしまったあと、どうしたのだろう。腰に当たった感覚を思い出し、熱い頬を隠すように俯いた。
「あの、怜司さん」
「どうした?」
自分で処理したのか、聞いていいだろうか。聞いたところでどうするというわけでもないし、どうもできない。なんと答えられても、平常心でいられないのはたしかだ。
「な、なんでもない……」
誰でも抱いたと言う怜司は、きっとそういうことに慣れている。莉久の処理をしてくれたことなど、なんとも思っていないだろう。それはそれで寂しかった。
「真っ赤な顔して、やらしいことでも考えてたか?」
「っ……!」
莉久の顔を覗き込んだ怜司が、意地悪な笑みを浮かべる。いつから見られていたのだろう。からかうように目を細めている。
「ち、違うよ」
「おまえ、手くせ悪いんだな」
「そんなことないっ」
「ちっさい手で一生懸命触りやがって」
あの夜のことを考えていたのは莉久が先だけれど、そのことを口に出されると困る。火照る頬を手で押さえて怜司を睨んだ。
「意地悪」
ふ、と噴き出した怜司は、やはりなんでもない顔をしている。意識しているのは莉久だけだ。
「めっちゃエロかった」
不意に顔が近づき、どくんと心臓が大きく跳ねた。自分の痴態が怜司の記憶に残っていることが恥ずかしくて、顔を隠すように足もとを見る。莉久の頭に大きな手がのり、なだめるようにぽんぽんと動いた。それだけでほっとして、また怜司を見あげた。
「もう忘れるから、心配すんな」
なぜか胸が痛んだ。思い出されたら恥ずかしいのに、忘れられることが寂しかった。
「怜司、あまり莉久をいじめるんじゃないよ」
「いじめてないよ」
「いじめられてる!」
梓眞は昨日のことを蒸し返さないので、莉久は余計に心もとない。つつかれたら困るくせに、触れないでいられるとそれでいいのだろうか、と思ってしまう。
「怜司さん、いつもありがとう」
「ん」
バイト帰りに怜司が迎えにきてくれて、ふたりで並んで歩く。もうあの日の恐怖は残っていなかった。すべて怜司のおかげだ。
莉久は自身の痴態を晒してからどういう顔で一緒にいればいいのかわからない。悩む気持ちをかかえて、横顔を見あげながら歩いていたら躓いた。
「あっぶね。なにやってんだ」
「あ、ありがと」
片手で軽々と支えられ、その腕の力強さに一昨日の夜を思い出す。かあっと頬に熱が集まり、慌てて怜司から離れた。
あの日の変質者も男だったのに、怜司はまったく違う。怜司の腕の中にはいつまでもいたいと思ってしまう。
そういえば怜司は一昨日莉久が寝てしまったあと、どうしたのだろう。腰に当たった感覚を思い出し、熱い頬を隠すように俯いた。
「あの、怜司さん」
「どうした?」
自分で処理したのか、聞いていいだろうか。聞いたところでどうするというわけでもないし、どうもできない。なんと答えられても、平常心でいられないのはたしかだ。
「な、なんでもない……」
誰でも抱いたと言う怜司は、きっとそういうことに慣れている。莉久の処理をしてくれたことなど、なんとも思っていないだろう。それはそれで寂しかった。
「真っ赤な顔して、やらしいことでも考えてたか?」
「っ……!」
莉久の顔を覗き込んだ怜司が、意地悪な笑みを浮かべる。いつから見られていたのだろう。からかうように目を細めている。
「ち、違うよ」
「おまえ、手くせ悪いんだな」
「そんなことないっ」
「ちっさい手で一生懸命触りやがって」
あの夜のことを考えていたのは莉久が先だけれど、そのことを口に出されると困る。火照る頬を手で押さえて怜司を睨んだ。
「意地悪」
ふ、と噴き出した怜司は、やはりなんでもない顔をしている。意識しているのは莉久だけだ。
「めっちゃエロかった」
不意に顔が近づき、どくんと心臓が大きく跳ねた。自分の痴態が怜司の記憶に残っていることが恥ずかしくて、顔を隠すように足もとを見る。莉久の頭に大きな手がのり、なだめるようにぽんぽんと動いた。それだけでほっとして、また怜司を見あげた。
「もう忘れるから、心配すんな」
なぜか胸が痛んだ。思い出されたら恥ずかしいのに、忘れられることが寂しかった。
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