今夜は酔わせて

すずかけあおい

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今夜は酔わせて⑥

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 ◇◆◇◆◇


 月末の日曜日、颯真の部屋に行った。
 颯真はいなかった。連絡もない。
 このまま半年も会えなくなるのか、と思ったら視界がじわじわしてきた。俯きたくないのに俯いてしまう。颯真は、その半年を…俺を忘れるために使うって言ってた。
 でも、次に会ったらまた笑いかけてくれるんだろう。『ばーか』って俺を小突いて、からかってくれるんだ。

「瑛士?」
「!!」
「なにやってんの」
「……颯真」

 顔を上げるとエコバッグを持った颯真が立っている。

「なんで…大阪」
「火曜に行く。だから今日はコンビニ飯買ってきたんだよ」
「………」

 また会えた。素直になりたい。
 これは絶対、神様がくれたチャンスだ。

「…颯真、前にしゃぶしゃぶ連れてってくれたときに言おうとした、『だから』の続き、教えて」
「『だから』?」
「俺が『やっぱり本気じゃないの』って聞いたら、『本気だよ、だから…』って」
「ああ…」

 颯真が頭をガシガシと掻く。
 俺は颯真をじっと見つめる。なにひとつ見逃したくないから。

「言っただろ。ちゃんとした理由で俺を選んで欲しいって。そう言おうとしたんだよ」
「……じゃあなんで逃げたの」

 あの日、俺は覚悟ができてたのに。

「逃げたかったんだよ。あんな誘い方されて正気でいられない」
「正気じゃなくなってよ」
「ほんとに抱いちまうだろ」
「抱いていいよ」

 颯真が溜め息を吐く。溜め息吐きたいのは俺だ。

「だめだろ、おまえなに言ってんだ。俺だけじゃなくて瑛士も本気じゃなきゃ意味ねえんだよ」
「本気だよ」
「違う」
「違わない」

 どっちも引かずに言葉を投げ合う。颯真がもう一度溜め息を吐く。

「とりあえず上がれ。散らかってるけど」
「……うん」

 室内はきちんと整理されていた。たぶん大阪に行くときの荷物だろう段ボールがいくつかある。スーツケースも出てる。

「颯真、俺…」
「待て」

 手で口を塞がれる。俺が眉を顰めると、ちょっと笑われた。ずっと見てきた笑顔。

「おまえがどういうつもりか知らねえけど、ヘタなこと言うなよ」
「ヘタな事ってなに」
「馬鹿なこと」
「…だから馬鹿なことってなに」

 ぐっと抱き寄せられて、心臓が跳ねる。すぐ目の前に颯真の整った顔。

「俺を煽るようなことだ」
「………」

 なんとなく颯真の頬に触れて、そのまま唇を重ねた。顔を離すと、今度は颯真が眉を顰める。

「おまえ……」
「俺が颯真を好きになったら、いいんでしょ」
「は?」
「好き。ううん、ずっと好きだった」
「いつから」
「わかんない」

 これは本当にわからない。でも颯真が好きなのは本当だ。幼馴染で兄のような存在だけど、もっと違う関係を作りたい。颯真だって俺が颯真を好きなことは知ってるって言ってたじゃん。そういうことだ。

「馬鹿か…ああ、もう」
「馬鹿だよ。だから俺を忘れるとか言わないで」
「忘れねえよ、なにがあっても絶対離さない」

 ぎゅっと抱き締められる。優しいにおいがして、俺も颯真の背に手を回す。

「…キス、いいか」
「聞かなくていいよ…んっ」

 少し強引に唇が重なって離れる。

「俺を本気で好きならもっと早く言えよ」
「だから前にベッドで待っててって言ったのに逃げたじゃん」
「あれはおまえが勘違いしてると思ったから……」

 もう一度颯真にキスをして口を塞ぐ。顔を離そうとしたら後頭部に颯真の手が添えられて、唇の隙間から舌が入ってきた。熱いキスに呑まれていく。

「悪い…止まらねえ」
「止まらなくていいよ…」
「……おまえ、ほんとに可愛過ぎ」

 横抱きにされて寝室に連れて行かれる。ベッドに下ろされたら今更どきどきしてきた。

「颯真…」
「なに」
「大阪に行ってる半年間で、俺をもっと好きになって」
「は?」
「俺も、颯真をもっと好きになるから…」

 俺の頬をなぞる手を取って、手のひらにキスをする。

「……これ以上好きにさせてどうするつもりだ」
「ずっと捕まえる」

 颯真がきょとんとして、それから笑い出した。なんで笑うんだ。

「瑛士が俺を捕まえんのか」
「そう。離さない」
「そりゃ願ってもないことだ」

 キスが降ってきて、シャツを脱がされた。颯真の手が肌の上を這う。身体の隅々まで、余すところなく颯真に知られる。

「今夜は俺を酔わせろ」
「んぅ…あっ」

 そんなこと言われたら、俺が先に颯真に酔ってしまう。
 胸の突起を爪で引っ掻かれて身体が跳ねる。きゅっとつままれたら恥ずかしくなるくらい甘い声が漏れた。

「可愛いな、瑛士」
「…そうま…あっ」

 大きい手が俺の昂りに触れる。すっと形をなぞられて腰が震えてしまう。

「可愛い、瑛士…」

 幼馴染じゃない、男の顔をする颯真にぞくぞくする。全てを知られて暴かれる。奥の秘蕾を指でなぞられ、それだけなのに快感に涙が零れた。その涙を全て唇で拭い取られることにどきどきする。俺も颯真を知りたい。

「颯真…」
「なに」
「…俺が……」
「ん?」

 俺が泣いたら、飛んできて。

 そう言おうとしてやめた。飛んできてくれるのは嬉しいけど、そのまま離せなくなるから。颯真には颯真の仕事があって、行かなくちゃいけないから大阪に行く。だから俺は…。

「俺……」

 涙が溢れてくる。

「泣くなよ」
「泣いてない…」
「泣いてんだろ」

 困った顔をする颯真が愛しい。俺からキスをして、ぎゅっと抱きつく。

「……待ってる」

 颯真とひとつになって、心もひとつになりたい。離れていても颯真を感じられるように。
 指が奥まった部分に挿入ってきて、そこをほぐす。違和感がすごいけど、無理ではない。ただ颯真を感じたい。
 丁寧にほぐされて、俺の準備ができていくと心臓がバクバク言い始める。俺の足の間に颯真が身体を入れて覆いかぶさる。触れるだけのキスが何度も落ちてきて、それから甘く溶けるキス。

「そうま…」
「ちゃんと瑛士のとこに帰ってくるから、いい子で待ってろ」
「ん…っ」

 キスで力が抜けた俺の中に颯真が滑り込んでくる。ゆっくり奥へと進んで、颯真でいっぱいになった。

「大丈夫か」
「ん、へーき」
「夢みたいだ。瑛士を抱いてる」
「ゆめ、じゃない」

 颯真の頬をつねってやると、その手を取って指先にキスをされた。

「そうだな、夢じゃない」
「…うごいて…」

 優しい動きに身も心も酔わされる。濡れた音もベッドの軋む音も恥ずかしい。
 でも一番恥ずかしいのは…。

「あっ! あ、そうま…あっ!」

 押し出される俺の声。
 浅いところで動かれたら気持ちよくて目の前がチカチカした。奥を突かれたら頭の中が真っ白になった。“好きだ”と甘く囁かれたら、颯真に酔う。

「そうま…」
「なに」
「もっと…そうまを、かんじたい」

 舌打ちされて唇が重なる。颯真の動きが速くなって、俺も昇り詰めていく。肌にキスが落ちてきて、唇の痕を咲かせる。すべてが快感で、限界に颯真の背にしがみ付いた。


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