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上級糖度
上級糖度③
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腰をさすっている岸井に首をかしげ、瞬時に理解する。そういうことだ。
「梅田聞いて」
「嫌だ」
即答して、あ、と思う。もしかしたら第三者ならば獅堂とのことをどうしたらいいか、いい意見をくれるかもしれない。
「岸井、聞け」
「お、おう? 拒否権なしか」
「なしだ。実は……」
獅堂との出会いから今に至るまでを話すと、ふんふんと頷いていた岸井は首をかしげてひねって、また傾けた。さらには天井を見あげてなにか考えている様子を見せる。
「ちゃんと聞けよ」
「聞いてるよ。ただ、それってなに?」
「は?」
「その有松さんと梅田は恋人みたいに一緒にいるけど、キスもしないし抱いてくれないし、そもそも好きとも言われてない。でも梅田は相手が好き」
岸井は自身が彼氏持ちなこともあり、同性が相手ということに偏見がないのは助かる。だが端的に言われると、たしかになんだかわからない。獅堂と央季の形ははっきりせず、今にも切れそうな糸でつながっているだけに感じる。
「なんで俺は梅田なんだろう」
「急に話飛ぶな。梅田じゃなきゃなにがよかったんだよ」
「せめて竹田とか」
「竹田?」
首をかしげた岸井の背後に現れたのは、当然長沼だ。岸井の肩を抱いて、にこやかに笑んでいる。
「恵吾、梅田は松竹梅のことを言ってるんだよ」
「松竹梅?」
「……」
話が通じすぎるやつも嫌だな、と思いながら否定はしない。
「梅田の相手は有松で松、対して梅田は梅ってこと」
「あー、そういうことね」
「……」
本当に嫌だ。そういうことは央季に聞こえないところで説明してほしい。自分から言ったことでも、他人に言われるとダメージがある。
「てかなんで長沼が獅堂さんの苗字知ってんだよ」
「俺の耳は恵吾の発言が全部聞こえるようになってるの」
自信満々に言われても困る。岸井はうんざりした顔をしながら、口もとが少し緩んでいる。結局惚気だ。
「梅田の相手は特上なんだ?」
岸井が面白がるように視線を向けてくるので、央季はふいと目を逸らした。
「うなぎや寿司みたいに言うな」
たしかに獅堂さんは特上だけど。
特上の獅堂と、大目に見ても並の央季。まったくつり合っていない。
「幼馴染っていいよな」
「うん」
間髪容れずに答えた長沼を放っておいて、央季はため息をつく。なにかひとつでも獅堂と対等だと思えるものがあったなら、こんなに悩まずにすんだかもしれないのに。
悩みながら、今日もまた獅堂の部屋に来てしまった。うじうじするなんてらしくないとわかっているのに、はっきりさせるのも怖い。獅堂が離れていったら立ち直れない。
「央季?」
「え?」
はっとすると目の前に獅堂の顔があった。思わず頭を引き、苦笑される。
「ぼんやりしてるから、どうしたのかと思ったんだ」
「……なんもない」
日に日に自分が嫌になっていく。獅堂の優しさにつけ込んで甘えて。気持ちがわからないのが嫌なくせに、正面から向かい合いことも怖い。
「明日から、しばらく来れない」
もう来ない、と言おうとして言えなかった。
「なにかあるのか?」
「……なんもない」
また同じ答え方をした自分に呆れる。でも獅堂は詳細を問い詰めたりせず、穏やかに微笑んだ。
「そうか。ひとりでかかえ込んだり、無理したりするなよ」
髪をひと撫でされ、とくんと胸が甘く鳴る。こうやって優しくされることがつらい。だからもうやめよう。
獅堂の部屋に行くのは約束があるからではない。ただ央季が会いたかっただけだ。でも素直にそう言えたことは一度もない。
「さよならくらい言ったほうがよかったのかな」
遠くなっていく車を見送り、唇をきゅっと引き結ぶ。もう獅堂の優しさに甘えるのはやめよう。
「おー、辛気臭い顔してんな」
「うっせ」
「有松さんとかって人となんかあったか?」
あれから二週間が経つが、一度も獅堂の部屋に行っていない。獅堂から連絡もない。けっこう簡単に終わるもんだな、とぼんやりしていたら、時間があっという間にすぎていく。
「なんもねえよ。もう終わったし」
「ふうん」
央季の前の席から椅子を借りて座った岸井が、じいっと顔を覗き込んでくる。なんの気力も湧かなくて、ただその視線を受けた。
「梅田聞いて」
「嫌だ」
即答して、あ、と思う。もしかしたら第三者ならば獅堂とのことをどうしたらいいか、いい意見をくれるかもしれない。
「岸井、聞け」
「お、おう? 拒否権なしか」
「なしだ。実は……」
獅堂との出会いから今に至るまでを話すと、ふんふんと頷いていた岸井は首をかしげてひねって、また傾けた。さらには天井を見あげてなにか考えている様子を見せる。
「ちゃんと聞けよ」
「聞いてるよ。ただ、それってなに?」
「は?」
「その有松さんと梅田は恋人みたいに一緒にいるけど、キスもしないし抱いてくれないし、そもそも好きとも言われてない。でも梅田は相手が好き」
岸井は自身が彼氏持ちなこともあり、同性が相手ということに偏見がないのは助かる。だが端的に言われると、たしかになんだかわからない。獅堂と央季の形ははっきりせず、今にも切れそうな糸でつながっているだけに感じる。
「なんで俺は梅田なんだろう」
「急に話飛ぶな。梅田じゃなきゃなにがよかったんだよ」
「せめて竹田とか」
「竹田?」
首をかしげた岸井の背後に現れたのは、当然長沼だ。岸井の肩を抱いて、にこやかに笑んでいる。
「恵吾、梅田は松竹梅のことを言ってるんだよ」
「松竹梅?」
「……」
話が通じすぎるやつも嫌だな、と思いながら否定はしない。
「梅田の相手は有松で松、対して梅田は梅ってこと」
「あー、そういうことね」
「……」
本当に嫌だ。そういうことは央季に聞こえないところで説明してほしい。自分から言ったことでも、他人に言われるとダメージがある。
「てかなんで長沼が獅堂さんの苗字知ってんだよ」
「俺の耳は恵吾の発言が全部聞こえるようになってるの」
自信満々に言われても困る。岸井はうんざりした顔をしながら、口もとが少し緩んでいる。結局惚気だ。
「梅田の相手は特上なんだ?」
岸井が面白がるように視線を向けてくるので、央季はふいと目を逸らした。
「うなぎや寿司みたいに言うな」
たしかに獅堂さんは特上だけど。
特上の獅堂と、大目に見ても並の央季。まったくつり合っていない。
「幼馴染っていいよな」
「うん」
間髪容れずに答えた長沼を放っておいて、央季はため息をつく。なにかひとつでも獅堂と対等だと思えるものがあったなら、こんなに悩まずにすんだかもしれないのに。
悩みながら、今日もまた獅堂の部屋に来てしまった。うじうじするなんてらしくないとわかっているのに、はっきりさせるのも怖い。獅堂が離れていったら立ち直れない。
「央季?」
「え?」
はっとすると目の前に獅堂の顔があった。思わず頭を引き、苦笑される。
「ぼんやりしてるから、どうしたのかと思ったんだ」
「……なんもない」
日に日に自分が嫌になっていく。獅堂の優しさにつけ込んで甘えて。気持ちがわからないのが嫌なくせに、正面から向かい合いことも怖い。
「明日から、しばらく来れない」
もう来ない、と言おうとして言えなかった。
「なにかあるのか?」
「……なんもない」
また同じ答え方をした自分に呆れる。でも獅堂は詳細を問い詰めたりせず、穏やかに微笑んだ。
「そうか。ひとりでかかえ込んだり、無理したりするなよ」
髪をひと撫でされ、とくんと胸が甘く鳴る。こうやって優しくされることがつらい。だからもうやめよう。
獅堂の部屋に行くのは約束があるからではない。ただ央季が会いたかっただけだ。でも素直にそう言えたことは一度もない。
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遠くなっていく車を見送り、唇をきゅっと引き結ぶ。もう獅堂の優しさに甘えるのはやめよう。
「おー、辛気臭い顔してんな」
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あれから二週間が経つが、一度も獅堂の部屋に行っていない。獅堂から連絡もない。けっこう簡単に終わるもんだな、とぼんやりしていたら、時間があっという間にすぎていく。
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