キスして

すずかけあおい

文字の大きさ
2 / 6

キスして②

しおりを挟む
 翌日学校に着くとすぐに楓磨に捕まり、校舎裏に連れていかれた。話なんてないと言っているのに腕を掴んで離してくれず、引きずるように連れていかれる。楓磨の頬は薄く痣になっていて少し申し訳ない気持ちになる。でも悪いのは楓磨だ。
 校舎裏に着くと同時に土下座をされた。無視して教室に戻りたいのに、そこまでする楓磨に同情心が湧く。

「本当にごめんなさい。反省してます」
「……」

 ふざけてキスをして、「反省している」で済むわけがない。同情は禁物だ。
 楓磨に背を向ける。

「二度と声かけないで」
「……もう友達じゃない?」
「うん」

 そのまま楓磨を置いて教室へ足を向ける。
 可哀想かな、と胸が少しちくちく痛むけれど、でもここで俺が許したらだめな気がする。振り向かずにまっすぐ教室に向かった。
 楓磨はもう話しかけてこなかった。俺はひとりで本を読む。視線を感じるけれど無視する。本を読んでいればひとりでも楽しいから、それでいい。
 友達なんてもういらない。





 楓磨と口をきかなくなって二週間が経った。楓磨はまだ俺を見ているけれど、そろそろ休憩も終わって新しい彼女を作るだろうし、そうしたら俺ばかり見ているわけにはいかなくなる。これで完全に終われる。そう考えてちくんと胸が痛む。

 楓磨が女子に声をかけられてふたりで教室を出ていくのが視界の隅に映った。次の彼女か、とため息をつく。本当にどうしようもない男だ、そう思いながらも心の奥には楓磨が嫌いになり切れない自分がいる。

 高一の初めに出会い、いつも声をかけて仲良くしてくれた。女子を紹介しよう、と余計なことを言うかと思えば、敦弥は真面目でいいなあ、などと言って羨望の眼差しを向ける。
 楓磨は不真面目なのではなく、人がよすぎるだけ。告白してきた女子が傷つくのが可哀想だからとつき合って、結局女子から振られる。毎回、「楓磨くん、なんか違う」と言われるらしい。
 勝手な理想を押しつけられて夢を見られるのもたまったものではないだろう。それでも楓磨は相手を責めずに「ごめんね」と言う。どこまでも馬鹿だ。

 軽いわけではないのに軽く見られ、遊んでいるわけでもないのに遊び人扱いされて。
 交友関係が広いようでいて、近づく女子は楓磨の見た目のよさにみんな彼女の座を狙い、男子はみんな楓磨に近づく女子を狙っている。心を許せる存在はいないようで、俺の前でだけほっとした顔をする。楓磨は可哀想なやつだ。

「……」

 きつく言いすぎただろうか。俺ももう少し柔軟な考え方をしたほうがいいのかもしれない。だからと言って楓磨のしたことを許す気にもなれない。
 楓磨が教室に戻ってきた。一緒に出ていった女子はいない。楓磨ひとりだ。
 自分の席に座った楓磨が頬杖をつく。視線の先は前方の窓。なんとなくその窓のほうを見ると、窓に映る楓磨と目が合った。
 まさか楓磨は俺を見ている?
 楓磨は寂しそうな目をしている。それでも話しかけてこないのは本当に反省しているから、だろう。

 なんだか良心がちくちく痛む。俺が良心を痛める必要はないのだけれど、それでも胸が痛むのは俺が楓磨を大切に思っているからではないか。
 声をかけてみようか。それできちんと反省しているならば許してあげたい。キスひとつで大切な友達を失うのは俺もつらい。
 俺が椅子から立ちあがるのと同時に先程楓磨と一緒に出ていった女子が泣きながら戻ってきた。その女子と仲良くしている集団が慌てた様子で女子を囲む。女子は「楓磨くんに振られた」と言っていて、俺は耳を疑った。楓磨が告白してきた子を振るなんて初めてだ。なにかあったのかと楓磨を見ると目が合った。

「楓磨くん、なんで振ったの!?」

 女子を囲んでいたうちのひとりが声を荒げる。

「好きな人できたから」

 楓磨は申し訳なさそうな顔をしているけれど、強い視線で俺を見たまま答える。まっすぐな視線にどきりとしてしまう。どうして楓磨に「どきり」なんだ、と自分に疑問を持つ。
 楓磨は質問攻めにあっているけれど、それ以上は答えなかった。ただずっと俺を見ていた。





 声をかけるタイミングを考える。さりげなく話しかけられたらいいのだが、いい考えが浮かばない。なんでもなく話しかけたとしても楓磨は無視をしたりしないだろう。けれど妙に緊張してしまい、二の足を踏んでしまう。
 楓磨と話さなくなって三週間が経っている。なんと話しかけたらいいかわからない。
 そうだ。挨拶なら軽く話しかけられる。明日は「おはよう」と言ってみよう。そうしたらまた以前の関係に戻れるかもしれない。
 その夜は緊張しすぎてなかなか寝つけなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

雪色のラブレター

hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。 そばにいられればいい。 想いは口にすることなく消えるはずだった。 高校卒業まであと三か月。 幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。 そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。 そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。 翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。

この変態、規格外につき。

perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。 理由は山ほどある。 高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。 身長も俺より一回り高くて、しかも―― 俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ! ……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。 ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。 坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

処理中です...