キスして

すずかけあおい

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キスして⑤

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 それから楓磨は変わった。軽い口調で俺に「童貞くん」と言うなんて絶対しないし、キスなんてできないと言う。つき合ってからキスをしたのは俺からしただけ。楓磨はそのたびに真っ赤になる。どちらが童貞かわからない。

「そろそろ慣れたら?」

 学校帰りに楓磨の家に寄って宿題を一緒にやっていたときにふと悪戯心が湧いてキスをしたら、やはり真っ赤になる。

「……」
「キスなんて今まで散々してきたでしょ」

 口に出した言葉に自分で言っておいて自分でダメージを受けた。でも、以前の楓磨はそういうやつだった。それが今は俺がキスを仕掛けるばかり。
 ときおり仕返しのように楓磨からキスをしようとする雰囲気があるが、すぐに大きなため息でその雰囲気がかき消される。
 ため息の理由は、「情けない自分にうんざりしているのに、どうしても敦弥にはキスができないから」だそうだ。毎回俺は可笑しくて噴き出しそうなのを堪えるのが大変だ。

「……今日はさ」
「うん?」
「時間があるから、キス、できると思う」
「……」

 確かに早々と宿題は終わったが、それが理由だったらもうとっくにしていると俺は思う。
 楓磨が「よし」と気合いを入れている。

「敦弥」
「はい」
「キ、キスしていい?」
「どうぞ」

 瞼をおろしてみるけれど、これはだめだな、と薄目を開けてしまう。すると楓磨はなにを思ったのか押し倒してきた。

「えっ」
「だめだ。キスから先ならできるかもしれない」
「なんでそういう発想になるの!?」

 恐る恐るという様子で俺に触れてくる。首に手がまわり、うなじを撫でられたらくすぐったくて笑ってしまった。

「くすぐったい?」
「うん」
「じゃあこれは?」

 シャツの中に手を入れてきて、肌に直接触れる。温かい手の感覚にどきりとする。

「……変な感じがする」
「そう」

 どきどきしながら楓磨の頬に触れると、その手に頬ずりをされた。そっと前髪をかきあげてあげたら目を細める。整った顔も動きも美しい。

「今ならキスできるかも」
「してみて」

 肌に触れる指先が震えている。緊張が伝わってくるようで俺も身体が少し強張ってしまう。
 ゆっくりと唇が重なり、離れてまた触れる。

「できた……」
「できたね」
「敦弥、すっごく好き」

 唇を甘噛みされて、啄むようなキスだったものが徐々に深くなっていく。舌も呼吸も絡めとられ、思考がぼやけてくる。楓磨のシャツをぎゅっと掴むと、俺のシャツの中に潜り込んでいる手が肌の上を滑り始めた。くすぐったくて吐息を震わせるとその吐息を呑み込まれる。

「まだ変な感じ?」
「というかくすぐったい」

 胸や腹を撫でられ、じわじわと身体が熱くなってくる。肌をまさぐる手が胸の突起に触れておおげさに肩が跳ねてしまった。

「ほ、本当にするの……?」
「うん。今止まれない」

 キスはできなかったくせに、どうしてこういうことはできるのか。そもそもまだ早くないか。いや、こういうことはタイミングより雰囲気かも。
 ぐるぐると頭の中で思考がまわる。冷静に考えているようでいて、緊張が糸を張っているので身体が強張ってしまう。その強張りをとくように唇が繰り返し重なる。

「もう何回でもキスできる」
「ん……」

 唇を甘噛みしながら胸の突起を指で転がされる。捏ねるようにいじられたり潰されたりすると鈍い快感が腰にじんわり灯る。吐き出した息は自分で思った以上に熱い。

「待って、楓磨。やっぱり無理」
「俺も無理」
「えっ」

 シャツのボタンを外され、手際よく脱がされてしまう。恥ずかしさに身体を丸めると、腰が浮いたのを狙い目と思ったのか、ベルトを外されスラックスまでおろされてしまった。慌ててさらに身体を丸める。

「なんで脱がすの!」
「止まれないから」
「あ、だめ……」

 下着を指で引っ張られて、これは死守しなければと手で押さえる。なだめるように背中のラインをなぞられ、上から下に、下から上にと撫でられる。くすぐったいのにそれだけではなくて、身体の奥がむずむずする。
 少し身体を捩ると脇腹にキスをされ、肩にキスをされ、それから胸の突起を口に含まれた。ねっとりと熱くぬめる感覚にぞわりとする。吸われたり軽く歯を立てられたりしているうちに下半身に熱が集まってくる。

「敦弥、手どけて」
「……やだ」
「大丈夫だから」
「……」

 なにが大丈夫なのかわからないけれど、楓磨が縋るような瞳を見せるので仕方がないと下着を押さえていた手を離した。昂ぶりはすでに形を変えて存在を主張している。

「勃ってる」
「……」

 脚を閉じて隠そうとするが楓磨の動きのほうが早く、下着をするりとおろされた。両脚の間に楓磨が身体を入れたので脚を閉じられない。俺ばかり肌を晒している羞恥に涙が滲み、睨みつける。

「誘ってる?」
「なわけない」
「そうなの? すごくエロいよ」

 褒めてないだろうと視線を逸らす。頬も耳も熱い。

「……楓磨も脱いで」
「そうだな」

 昂ぶりの根元から先端に向かってなぞられ、腰が跳ねる。その刺激だけで先端からぷくりと雫が溢れた。

「脱いでよ……」
「うん」
「早く」
「うん」

 うん、と言いながら俺をいじめる手の動きはやまない。昂ぶりを握られ扱かれる。先端の窪みを指先で開かれ、あられもない声が出た。

「楓磨……っ」
「うん。脱ぐよ」

 もう一度睨みつけると、苦笑した楓磨がシャツを脱いだ。体育の着替えのときにも見ているのに、こんなに男らしい身体だっただろうかと今さらどきりとして緊張する。肌と肌が触れ合い、吐息がどんどん乱れ熱くなっていく。貪るようなキスをされ、魂まで食べ尽くされるような感覚に陥る。

「どんどん溢れてくる」
「っ……あ、あ……」
「いく?」

 扱く手の動きが速くなり、濡れた音がうるさいくらいに聞こえる。何度も頷いて楓磨の目を見る。
 熱をたたえた瞳が、なにも見逃さないというようにまっすぐに俺に向けられている。その視線が絡みついて俺の欲情を燃やす。

「あ……っ」

 駆けあがるように高められて昂ぶりが弾けた。飛沫が腹にかかり、それを楓磨が指ですくう。

「おいしいかな」
「ばっ……」

 躊躇いもなく白濁を舐めるので恥ずかしくて顔から火が出るかと思った。

「馬鹿! なんで舐めるの!」
「だめ?」
「だめだよ、馬鹿!」

 本当は今すぐ逃げ出したいくらいに恥ずかしいが身体に力が入らない。くたりとベッドに沈んでいると脚の間に手が滑った。奥まったところをくるりとなぞられ、またも身体が強張る。
 素直に「怖い」と言うと抱きしめられた。なだめるように背中から腰のラインを撫でられる。触れ合う体温にほっとして力が抜けた。

「……もう大丈夫」
「うん」
「でも、俺が『怖い』って言ったらすぐキスして」
「わかった」

 触れるだけのキスの後、もう一度入り口を指でなぞられる。深呼吸をして楓磨の指を受け入れた。そんなところをほぐされるのは変な感じがして、違和感もあるのでやはり身体が強張ってしまう。

「怖い?」
「平気……」
「怖いって言って。キスしたい」

 なんだそれ、と思いながら「怖い、かも」と言ってあげる。口元を緩めた楓磨のキスが甘くて、思考がとろんとしてきた。
 窄まりが綻んできたのか、指が増やされた。

「敦弥、怖いって言って」
「……怖くないよ」
「キスしたいんだって」
「好きなときにキスしたらいいじゃ、ん……ぁ」

 言い切らないうちに唇が重なった。指は奥へと進み、内壁を撫でる。

「どこがいい?」
「……わかんない」
「いいときは言って」
「わかった」

 指が中を探るように動き、なにかに触れた。目の前がちかちかして息が弾む。言いようのない深い快感が湧きあがり脚が突っ張る。


「あ、あ……そこ……っ」
「ここ?」
「だめ……いい……」
「ここか」

 繰り返し同じところを撫でられて身体が跳ねるのが止まらない。シーツを乱しながら喘ぐ俺を、楓磨は恍惚とした表情で見ている。見ないで欲しくて目を手で覆う。

「見えないよ」
「やっ……見ないで……っ」

 手のひらにキスをされ、それさえも快感になる。せりあがってくる熱に呑み込まれるようだ。じわじわと自分の身体がわからなくなっていく。弾けそうで達せないもどかしさに涙が滲み、揺れる視界の中に愛おしい男がいることに安堵と緊張が混在する。
 ゆっくり指が抜かれた。

「敦弥、怖くない?」
「……うん」

 本当は少し怖いけれど、でも大丈夫。楓磨にならすべて見せたい。
 楓磨を見ると、しとどに雫を零した俺の昂ぶりも視界に入った。それだけの快感にのぼせていたのだと目で見て理解し、頬が急激に熱くなる。熱い頬を撫でられ、顔を背けてしまう。

「緊張してる?」
「……平気」
「じゃあこっち見て」
「……」

 目を合わせると心が繋がるような不思議な感覚がした。
 後孔を押し開いて熱く大きいものが滑り込んでくる。髪を撫でたりキスをしたりしながら楓磨は俺の目をじっと見ている。
 こういうことに慣れているのだな、と思ってしまい、そんなことはわかっていたのに小さく胸が痛む。今までの相手が楓磨の好きな人ではなかったことも苦しい。

「楓磨、俺が好き?」

 なんとなく聞きたくなった。

「好きだよ。こんなに苦しくなる思いは初めてだ」
「うん……俺も」
「でもそれ以上に幸せだな。敦弥が俺の腕の中にいる」
「いるよ。ずっといる……」

 尻に楓磨の下腹部が触れ、すべて収まったことを知る。抱きしめられ、キスが降ってくる。

「好き、好き……」
「楓磨……」

 泣き出しそうな瞳に胸がきゅっとせつなく疼く。
 揺さぶられると大波のように快感が押し寄せ続ける。引くことを知らない波は俺を呑み込み巻き込み、もみくちゃにする。楓磨の背に腕をまわしてしがみつき、なんとか自分を保とうとするけれどすぐに溺れてしまった。追い詰められて切羽詰まった自分の声が耳に響く。

「あっ、あっ……」
「可愛い声……」

 蕩けた表情の楓磨がときどき切なげに表情を歪めるのが色っぽくて綺麗で俺まで蕩けてしまう。ベッドの軋む音さえ快感への梯子になる。一直線に絶頂に向かう俺を楓磨がさらに追い込む。

「待って、もうだめ……!」
「うん。俺も」

 腰を掴まれ、楓磨の動きが速まる。奥を知ろうと深く抉られ、身体が仰け反った。

「あ、ああ……っ」
「っく……」

 頂点に昇り、全身が弛緩する。奥に放たれる欲望をコンドーム越しに感じて目を閉じた。
 瞼や目尻に小さな温もりが触れ、呼吸までひとつにするように唇が重なった。

「……ふう、ま……」

 されるままに口内を探る舌に委ねる。甘い甘いキスに骨まで溶けるようだった。


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