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DONKAN②
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帰宅して自分の部屋でスマートフォンをいじる。とは言っても友だちなんていないから、朋春からのメッセージを読み返すだけだ。
『遊びに行っていい?』
『ごめん。今日はちょっとだめかな』
やはり幹人が高校に入ってから、遊びに行きたいと送っても拒絶されるようになっている。なにか嫌われるようなことをしただろうか。思い当たらないけれど、幹人は自分でもわかるくらい鈍いしコミュニケーションが下手だから、気がつかずになにかしたという可能性はある。このまま完全に嫌われたらどうしよう。顔も見てくれなくなったら――胸が苦しくなって、シャツの胸もとを握りしめる。
「ちゃんと謝ろう」
不安でいても立ってもいられなくなり、とにかく彼に謝らなくては、と思った。家を出て向かいに行き、インターホンを押すと、ほどなく朋春がドアを開けた。
「どうしたの?」
モニターで確認して幹人だとわかって開けたのだろう。不思議そうな顔をしている。
「おばさんは?」
いつもは朋春の母親が出るので聞いてみた。
「出かけてるけど、なにか用だった?」
「ううん。そうじゃなくて」
用があるのは朋春に、だ。実際に顔を見たら緊張してきた。それでもきちんと謝って、以前のような関係に戻りたい。
「あの、ごめんなさい」
「え?」
「僕、朋春くんが嫌なこと、なにかしちゃったんだよね?」
視線が徐々に足もとに落ちてしまう。きちんと顔を見て謝らないといけないのに、謝罪さえ拒絶されそうで怖くなった。
「幹人?」
「……嫌いにならないで」
もう修復できなかったらどうしよう、と考えると不安で涙が滲んできた。唇を噛んで涙をこらえる幹人に、朋春は慌てた声を出す。
「なに言ってるの?」
「だって、最近遊んでくれないから」
「それは……」
「僕、嫌われちゃったんだよね?」
俯くと、力強く手を取られて引っ張られた。
「そうじゃない。説明するからあがって」
「……うん」
ずんずんと階段をあがる朋春に、手を引かれるままついて行く。部屋に入ってローテーブルの前に並んで座ると、ぎゅっと手を握られた。彼の手が熱い。
「どうしたの?」
「嫌じゃない?」
「うん。朋春くんにされて嫌なことなんてないよ」
素直な気持ちを伝えると、朋春は眉を寄せて苦しそうな顔をした。
「そういうこと言うから、遊びに来ないでって言ってたんだ」
「え?」
「幹人は鈍感だから」
「なにが?」
鈍感なのは知っている。唇を引き結んだ朋春は逡巡するように目を泳がせ、口を開いては閉じている。
「どうしたの?」
「……」
「朋春くん?」
言葉を出しかけては呑み込んでいる様子に、なんだろうと首をかしげる。しばしして彼は意を決したように強い瞳で幹人を見つめた。
「俺、幹人に触りたくてしょうがないんだ」
触りたい?
「いいよ?」
「だめなの。止まらなくなるから」
「止まらなくなるって?」
よくわからなくて聞くと、朋春は苦々しい表情でため息をつく。なにかおかしいことを言っただろうか。彼は困ったように唇を引き結んで頭を小さく振る。
「そういう鈍感なところが可愛いのに憎い……」
やはり嫌われいているのだとわかり、心臓がぎゅっと掴まれたように痛む。憎まれるなんてよほどのことをしてしまったのだ。
「ごめんなさい」
声が震えるのを抑えられない。涙をこらえて俯き、唇を噛む。どうして自分はこんなに鈍いのだろう。朋春を不快にさせていることに気がつかなかった。
「そうじゃない。これは俺の都合なんだ」
朋春が緊張した声を出すので首をかしげる。先ほどから彼の言っていることがよくわからない。はっきり「嫌いだ」と言ってくれたら、もうそばに近寄らないのに。きっと気を遣ってくれているのだろうが、そういう優しさがつらくなる。
「嫌いなら嫌いって言っていいよ?」
無理やり笑顔を作って見せると、朋春は慌てたように首を横に振った。
「違う。そうじゃなくて。勘違いしないで!」
「勘違い?」
わずかに視線をずらして唇を引き結んだ朋春が、意を決したような表情でもう一度幹人を見た。
「……幹人とふたりきりでいると、ぎゅってしたりキスしたり、いろんなことしたくなるんだ」
「え?」
「だから遊びに来ないでって言ってたんだ。幹人が可愛すぎて我慢できなくなるから……。幹人が中学生のときまではまだ我慢できたけど、高校に入ったら……そろそろいいかなって勝手に箍がはずれそうで。ごめん。気持ち悪いよな」
ぎゅってしたりキスしたり――そんなの、幹人だってしてほしい。本当に朋春がそうしたいと思ってくれているなら嫌がるはずがない。
朋春は暗い表情で視線を床に落とす。しゅんとしているように見えて胸がせつなくなった。
「い、いいよ?」
ゆっくりと顔をあげた朋春は、聞いた言葉が理解できないと言いたそうにしている。だかから幹人は勇気を出した。気まぐれでも、ぎゅってされたりキスされたりしたい。
「僕、朋春くんが好きだから、ぎゅってしてもらえたら嬉しい」
「幹人……?」
「キ、キスも、恥ずかしいけど、朋春くんなら……いいよ」
羞恥に頬が熱くなって顔を隠すように俯くと、朋春の長い腕が伸びてきて、気がついたら彼の腕の中だった。心臓が暴れすぎておさまらない。シャツ越しの体温と優しいにおいを感じて、朋春に抱きしめられていることを実感する。
『遊びに行っていい?』
『ごめん。今日はちょっとだめかな』
やはり幹人が高校に入ってから、遊びに行きたいと送っても拒絶されるようになっている。なにか嫌われるようなことをしただろうか。思い当たらないけれど、幹人は自分でもわかるくらい鈍いしコミュニケーションが下手だから、気がつかずになにかしたという可能性はある。このまま完全に嫌われたらどうしよう。顔も見てくれなくなったら――胸が苦しくなって、シャツの胸もとを握りしめる。
「ちゃんと謝ろう」
不安でいても立ってもいられなくなり、とにかく彼に謝らなくては、と思った。家を出て向かいに行き、インターホンを押すと、ほどなく朋春がドアを開けた。
「どうしたの?」
モニターで確認して幹人だとわかって開けたのだろう。不思議そうな顔をしている。
「おばさんは?」
いつもは朋春の母親が出るので聞いてみた。
「出かけてるけど、なにか用だった?」
「ううん。そうじゃなくて」
用があるのは朋春に、だ。実際に顔を見たら緊張してきた。それでもきちんと謝って、以前のような関係に戻りたい。
「あの、ごめんなさい」
「え?」
「僕、朋春くんが嫌なこと、なにかしちゃったんだよね?」
視線が徐々に足もとに落ちてしまう。きちんと顔を見て謝らないといけないのに、謝罪さえ拒絶されそうで怖くなった。
「幹人?」
「……嫌いにならないで」
もう修復できなかったらどうしよう、と考えると不安で涙が滲んできた。唇を噛んで涙をこらえる幹人に、朋春は慌てた声を出す。
「なに言ってるの?」
「だって、最近遊んでくれないから」
「それは……」
「僕、嫌われちゃったんだよね?」
俯くと、力強く手を取られて引っ張られた。
「そうじゃない。説明するからあがって」
「……うん」
ずんずんと階段をあがる朋春に、手を引かれるままついて行く。部屋に入ってローテーブルの前に並んで座ると、ぎゅっと手を握られた。彼の手が熱い。
「どうしたの?」
「嫌じゃない?」
「うん。朋春くんにされて嫌なことなんてないよ」
素直な気持ちを伝えると、朋春は眉を寄せて苦しそうな顔をした。
「そういうこと言うから、遊びに来ないでって言ってたんだ」
「え?」
「幹人は鈍感だから」
「なにが?」
鈍感なのは知っている。唇を引き結んだ朋春は逡巡するように目を泳がせ、口を開いては閉じている。
「どうしたの?」
「……」
「朋春くん?」
言葉を出しかけては呑み込んでいる様子に、なんだろうと首をかしげる。しばしして彼は意を決したように強い瞳で幹人を見つめた。
「俺、幹人に触りたくてしょうがないんだ」
触りたい?
「いいよ?」
「だめなの。止まらなくなるから」
「止まらなくなるって?」
よくわからなくて聞くと、朋春は苦々しい表情でため息をつく。なにかおかしいことを言っただろうか。彼は困ったように唇を引き結んで頭を小さく振る。
「そういう鈍感なところが可愛いのに憎い……」
やはり嫌われいているのだとわかり、心臓がぎゅっと掴まれたように痛む。憎まれるなんてよほどのことをしてしまったのだ。
「ごめんなさい」
声が震えるのを抑えられない。涙をこらえて俯き、唇を噛む。どうして自分はこんなに鈍いのだろう。朋春を不快にさせていることに気がつかなかった。
「そうじゃない。これは俺の都合なんだ」
朋春が緊張した声を出すので首をかしげる。先ほどから彼の言っていることがよくわからない。はっきり「嫌いだ」と言ってくれたら、もうそばに近寄らないのに。きっと気を遣ってくれているのだろうが、そういう優しさがつらくなる。
「嫌いなら嫌いって言っていいよ?」
無理やり笑顔を作って見せると、朋春は慌てたように首を横に振った。
「違う。そうじゃなくて。勘違いしないで!」
「勘違い?」
わずかに視線をずらして唇を引き結んだ朋春が、意を決したような表情でもう一度幹人を見た。
「……幹人とふたりきりでいると、ぎゅってしたりキスしたり、いろんなことしたくなるんだ」
「え?」
「だから遊びに来ないでって言ってたんだ。幹人が可愛すぎて我慢できなくなるから……。幹人が中学生のときまではまだ我慢できたけど、高校に入ったら……そろそろいいかなって勝手に箍がはずれそうで。ごめん。気持ち悪いよな」
ぎゅってしたりキスしたり――そんなの、幹人だってしてほしい。本当に朋春がそうしたいと思ってくれているなら嫌がるはずがない。
朋春は暗い表情で視線を床に落とす。しゅんとしているように見えて胸がせつなくなった。
「い、いいよ?」
ゆっくりと顔をあげた朋春は、聞いた言葉が理解できないと言いたそうにしている。だかから幹人は勇気を出した。気まぐれでも、ぎゅってされたりキスされたりしたい。
「僕、朋春くんが好きだから、ぎゅってしてもらえたら嬉しい」
「幹人……?」
「キ、キスも、恥ずかしいけど、朋春くんなら……いいよ」
羞恥に頬が熱くなって顔を隠すように俯くと、朋春の長い腕が伸びてきて、気がついたら彼の腕の中だった。心臓が暴れすぎておさまらない。シャツ越しの体温と優しいにおいを感じて、朋春に抱きしめられていることを実感する。
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