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(5)おかしな優しさ③
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◇◆◇
頭がぼーっとする。
帰宅してベッドにひとりで横になる。
侑大は遅番だから朝の六時頃までは帰ってこない。
もしかしたらもう帰ってこないかもしれない、と頭に浮かんだら色々な感覚が鈍くなった。
侑大が好きなのに。
ただ好きなだけなのに。
どうしたらいいかわからない。
フられても、自分の蒔いた種だから仕方ないのかな。
◇◆◇
「…?」
ガタガタと音がする。
侑大が帰ってきたのか。
帰ってきてくれた。
それだけでも心底ほっとした。
今後どうなるかはわからないけれど謝らないとと思って身体を起こす。
まだだるい。
視界の全てが彩を失っている。
部屋を出ると、侑大が何か大きな荷物を持ってどこかに行こうとしているのが見えた。
頭が真っ白になる。
もしかしたら、本当にまた独り置いて行かれるかもしれない。
慌てて侑大の腕を掴む。
「侑大、ごめん」
「要…?」
「本当にごめん…傷つけてごめん。疑ってごめん。ばかな事言ってごめん。なんでもするから、だから」
「…」
「俺を置いて行かないで…」
侑大を抱き締めると少し世界に彩が戻った。
俺の生きる世界には侑大が絶対必要だ。
あんなばかな事、二度と言わないから、どうか俺を捨てないで。
「要…熱あんの?」
「…知恵熱だからうつらない」
「うつるとかうつらないとかじゃなくて、え? いつから?」
「昨日から。すぐ下がる」
まだ俺の心配してくれるんだと思ったら嬉しいのに切なくなった。
侑大は優しいから笹倉さんのお願いも断れなかっただけなのに、なんでわかっているのに俺はあんな言い方しちゃったんだろう。
「…俺、ゴミ出し行こうとしただけだけど」
「ゴミ袋そんな色してたっけ」
「要…?」
「なんか見るものみんな色がおかしい…」
ほっとしたら身体に力が入らなくなった。
その場に座り込む。
「ごめん、侑大…」
目の前がぐらついて気持ち悪くて、そのまま目を閉じた。
◇◆◇
『マユ、俺と付き合わない?』
『俺も安藤と付き合いたいって思った』
バーからの帰り道。
冷たい手を握って歩いているとあっという間に駅についてしまった。
離れるのが嫌で、なんとなく改札に向かえない。
『安藤、今日早番だし…そろそろ』
『ん』
渋々ながら手を離そうと顔を見ると、マユも俺をじっと見ていた。
どちらからでもなく、唇が重なった。
マユとずっと一緒にいたい、そう思った。
◇◆◇
「……」
「要?」
「…マユ?」
「…?」
「………侑大」
「うん…」
「どうした?」
侑大の頬に触れる。
侑大は泣いている。
なんだか侑大が出て行こうとしているのを止めた覚えはあるけれど、その後どうしたんだろう。
侑大がベッドまで運んでくれたのか。
「なんで泣いてんの?」
「…要を愛してるから」
「そっか、ありがと」
そうだ。
侑大を引き留めたらほっとして目の前がぐらついて目を閉じたんだっけ。
そのまま寝ちゃったのかも。
懐かしい夢を見た。
「ごめん、侑大。いっぱい傷つけてごめん」
「もういい。俺も叩いちゃったし、要を傷つけたから…俺も、ごめん」
「…やり直してくれる?」
恐る恐る聞く。
もしかしたら拒絶されるかもしれない。
「別れてないんだから仲直りだろ」
「そっか、俺、侑大に捨てられる事ばっか考えてた」
「捨てないよ、俺が要を捨てるわけない…」
「よかった」
ほっとしたらまた眠くなって、俺は再び目を閉じた。
◇◆◇
「…」
瞼を上げる。
見回すと侑大がいない。
「侑大…?」
あの仲直りは夢だったのか。
慌てて起き上がる。
身体は軽い。
色がおかしかったのも治っている。
でも侑大がいない。
侑大の部屋のドアを開けると侑大が着替えをしていた。
「要?」
「侑大…」
「熱下がった?」
侑大が俺の額に手を置く。
確かに侑大の手と温もりだ。
逃げてしまわないように抱き締める。
「……よかった」
「え?」
「起きたら侑大がいないから、仲直りしたの、夢だったのかと」
「ごめん、着替えてた」
「うん」
ぎゅっと腕に力をこめる。
いなくなってなくて本当によかった。
「気分いいなら、なんか食べる?」
「侑大食べる」
「だめ」
キスをしようとしたら避けられた。
「なんで」
「禁欲」
「無理」
侑大がそばにいて手を出すなと。
そんなの無理に決まっている。
「俺、要に、一緒にいるのは絆されてるだけじゃないのかって言われて、かなり落ち込んだしすげー傷ついたんだけど」
「……」
「しかも無理して一緒にいなくていいとか言われたし」
「………ごめん」
「だからお預け」
「……」
無理だ。
でも傷つけたのは事実だ。
ここは禁欲を受け入れるべきか。
「上手にお預けできたら何してもいいよ」
何してもいい。
侑大は確かにそう言った。
「…………期限は?」
「んと、じゃあ再来週の、休みが重なってる日まで」
「…わかった」
「え、マジで?」
言い出したのは侑大なのに、ものすごく驚いた顔をして俺を見る。
その表情を見たらふつふつとやる気が湧き上がってきた。
「マジで。そのかわり何してもいいって言ったの後悔すんなよ」
「………」
失敗したかも、って顔してる。
でももう遅い。
言った事が取り消せないのは俺が一番、身をもってよーく知っている。
頭がぼーっとする。
帰宅してベッドにひとりで横になる。
侑大は遅番だから朝の六時頃までは帰ってこない。
もしかしたらもう帰ってこないかもしれない、と頭に浮かんだら色々な感覚が鈍くなった。
侑大が好きなのに。
ただ好きなだけなのに。
どうしたらいいかわからない。
フられても、自分の蒔いた種だから仕方ないのかな。
◇◆◇
「…?」
ガタガタと音がする。
侑大が帰ってきたのか。
帰ってきてくれた。
それだけでも心底ほっとした。
今後どうなるかはわからないけれど謝らないとと思って身体を起こす。
まだだるい。
視界の全てが彩を失っている。
部屋を出ると、侑大が何か大きな荷物を持ってどこかに行こうとしているのが見えた。
頭が真っ白になる。
もしかしたら、本当にまた独り置いて行かれるかもしれない。
慌てて侑大の腕を掴む。
「侑大、ごめん」
「要…?」
「本当にごめん…傷つけてごめん。疑ってごめん。ばかな事言ってごめん。なんでもするから、だから」
「…」
「俺を置いて行かないで…」
侑大を抱き締めると少し世界に彩が戻った。
俺の生きる世界には侑大が絶対必要だ。
あんなばかな事、二度と言わないから、どうか俺を捨てないで。
「要…熱あんの?」
「…知恵熱だからうつらない」
「うつるとかうつらないとかじゃなくて、え? いつから?」
「昨日から。すぐ下がる」
まだ俺の心配してくれるんだと思ったら嬉しいのに切なくなった。
侑大は優しいから笹倉さんのお願いも断れなかっただけなのに、なんでわかっているのに俺はあんな言い方しちゃったんだろう。
「…俺、ゴミ出し行こうとしただけだけど」
「ゴミ袋そんな色してたっけ」
「要…?」
「なんか見るものみんな色がおかしい…」
ほっとしたら身体に力が入らなくなった。
その場に座り込む。
「ごめん、侑大…」
目の前がぐらついて気持ち悪くて、そのまま目を閉じた。
◇◆◇
『マユ、俺と付き合わない?』
『俺も安藤と付き合いたいって思った』
バーからの帰り道。
冷たい手を握って歩いているとあっという間に駅についてしまった。
離れるのが嫌で、なんとなく改札に向かえない。
『安藤、今日早番だし…そろそろ』
『ん』
渋々ながら手を離そうと顔を見ると、マユも俺をじっと見ていた。
どちらからでもなく、唇が重なった。
マユとずっと一緒にいたい、そう思った。
◇◆◇
「……」
「要?」
「…マユ?」
「…?」
「………侑大」
「うん…」
「どうした?」
侑大の頬に触れる。
侑大は泣いている。
なんだか侑大が出て行こうとしているのを止めた覚えはあるけれど、その後どうしたんだろう。
侑大がベッドまで運んでくれたのか。
「なんで泣いてんの?」
「…要を愛してるから」
「そっか、ありがと」
そうだ。
侑大を引き留めたらほっとして目の前がぐらついて目を閉じたんだっけ。
そのまま寝ちゃったのかも。
懐かしい夢を見た。
「ごめん、侑大。いっぱい傷つけてごめん」
「もういい。俺も叩いちゃったし、要を傷つけたから…俺も、ごめん」
「…やり直してくれる?」
恐る恐る聞く。
もしかしたら拒絶されるかもしれない。
「別れてないんだから仲直りだろ」
「そっか、俺、侑大に捨てられる事ばっか考えてた」
「捨てないよ、俺が要を捨てるわけない…」
「よかった」
ほっとしたらまた眠くなって、俺は再び目を閉じた。
◇◆◇
「…」
瞼を上げる。
見回すと侑大がいない。
「侑大…?」
あの仲直りは夢だったのか。
慌てて起き上がる。
身体は軽い。
色がおかしかったのも治っている。
でも侑大がいない。
侑大の部屋のドアを開けると侑大が着替えをしていた。
「要?」
「侑大…」
「熱下がった?」
侑大が俺の額に手を置く。
確かに侑大の手と温もりだ。
逃げてしまわないように抱き締める。
「……よかった」
「え?」
「起きたら侑大がいないから、仲直りしたの、夢だったのかと」
「ごめん、着替えてた」
「うん」
ぎゅっと腕に力をこめる。
いなくなってなくて本当によかった。
「気分いいなら、なんか食べる?」
「侑大食べる」
「だめ」
キスをしようとしたら避けられた。
「なんで」
「禁欲」
「無理」
侑大がそばにいて手を出すなと。
そんなの無理に決まっている。
「俺、要に、一緒にいるのは絆されてるだけじゃないのかって言われて、かなり落ち込んだしすげー傷ついたんだけど」
「……」
「しかも無理して一緒にいなくていいとか言われたし」
「………ごめん」
「だからお預け」
「……」
無理だ。
でも傷つけたのは事実だ。
ここは禁欲を受け入れるべきか。
「上手にお預けできたら何してもいいよ」
何してもいい。
侑大は確かにそう言った。
「…………期限は?」
「んと、じゃあ再来週の、休みが重なってる日まで」
「…わかった」
「え、マジで?」
言い出したのは侑大なのに、ものすごく驚いた顔をして俺を見る。
その表情を見たらふつふつとやる気が湧き上がってきた。
「マジで。そのかわり何してもいいって言ったの後悔すんなよ」
「………」
失敗したかも、って顔してる。
でももう遅い。
言った事が取り消せないのは俺が一番、身をもってよーく知っている。
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