キミのすべては俺のもの

すずかけあおい

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(9)ありがとうの日②

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「安藤さん、ありがとうございます」
「何がですか?」

デシャップ前に戻ると侑大がそっと声をかけてきた。

「あの、二卓にかわりに行ってくれて…」
「ああ、黛さんは二卓の存在は忘れてください」

笑顔で告げる。

「そういうわけには…」
「忘れてください」

俺はまた笑顔で言う。

「…はい」

どこかほっとした様子の侑大。

侑大が抱えているものがどんなもので、どれだけ苦しくて辛くて哀しいものかはわからなけれど、それを一緒に持ってやりたい。

俺には何ができるだろうか。
それを考えさせられる。

「また侑大じゃねえの?」

注文の日本酒を持って行くと『久保様』はそう言う。

「私も話聞きたいから、連れてきてもらえませんか?」

俺が徳利に日本酒を注いでいると連れの女性が俺に言う。

「黛は他のお客様の対応中ですので、申し訳ございません」
「さっきもそう言ってたじゃん」
「失礼いたします」

なんとか一升瓶で殴らずに済んだ。
割れたら日本酒もったいないし。
ちょっと余裕がなくなってきているけれど。

侑大を傷つけたやつは俺の敵。

「安藤さん、どうしたんですか? 今日はものすごい鬼の形相になったりいつもの笑顔になったりしてますけど」

バイトの木村きむらさんが聞いてくる。
そうか、隠せていないのか。
まだまだ未熟だ。

「いや、色々あって」
「色々?」
「敵と戦っているので」
「はあ…」

疑問符を浮かべている木村さん。
そこに料理がリフトで上がってくる。
二卓なので俺が持って行く。
誰にも邪魔はさせない。
忙しいけれど二卓だけは俺が行く。

「お待たせいたしました。鶏軟骨つくねでございます」
「また? 侑大は?」
「失礼いたします」

無視して個室を出ようとしたところで侑大が個室の横の狭いスペースにある提供台に追いかけの料理を置いた。
なんで来たんだ。
…仕事だからか。

侑大がすぐ個室を離れようとしたところで『久保様』が侑大に気づく。

「侑大! 入って来いよ」
「………」

気づくなよ。

呼ばれた侑大は無視する事ができず、個室に入る。
唇を引き結んで、手をぐっと握っている。

「な、侑大。いつから俺が好きだったの?」
「……」
「もしかして俺をオカズにしたりした?」
「え、春臣を? それはマジでキモい」
「……」
「まさかまだ俺が好きだったりする?」
「……」

自惚れんな。
出かけた言葉を呑み込む。
侑大はただぐっと黙っている。

「侑大、答えろよ」
「……」
「だんまりかよ、情けねえやつ」
「黛さん、こんなやつ相手にしなくていいですから戻ってください」

侑大にだけ笑いかけて言う。
俺の言葉に一瞬室内が静かになった。

「は?」
「……安藤さん?」

侑大がちょっと焦った顔をしている。

「人の純粋な気持ちを笑い話にして踏みにじるようなやつのほうがよっぽど情けねえやつだと私は思いますよ」

言っちゃった。

「何それ、客に向かって言う言葉?」
「ああ、お客様でしたね。失礼しました。客なら飲んで食ってさっさと帰れ」

また言っちゃった。
笑顔は絶やさなかったから俺的にはよしとする。

『久保様』は怒って即お帰りになりました。

二度と来んな。
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