となりの笑顔

すずかけあおい

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となりの笑顔⑭

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「肉まん食べようよ。極上だよ」
「そうだな、うまそう」
「う、うん」
 宇野が肉まんの包みを開くと、空井も隣で包みを開いた。ふたりで同時に肉まんにかぶりつく。
「おいしい」
「うまいな。さすが極上」
 お肉が大きくてたくさん入っている。味も普通の肉まんより濃厚で食べ応えがある。あっという間に食べ終えた空井は、味わってゆっくりと食べる宇野をじっと見てくる。
「あげないよ」
 先に牽制すると、空井は苦笑した。
「そうじゃない」
「じゃあなに?」
 長い指が伸びてきて、宇野の口の端を拭う。少し触れただけなのに、顔全体がぼうっと火照った。
「すごく幸せそうに食うなと思って」
「だっておいしくて幸せだもん」
「そこは『空井といるから幸せ』って言えよ」
 頬が熱いままの宇野を見て、空井こそ幸せそうに微笑む。優しい笑顔に見入っていたら、頬を撫でられた。先ほど拭われたのとは違う手つきで、そうっと手が滑る。甘い雰囲気に、心臓がばくばくと脈打つ。
「早く食えよ」
「なんで?」
「宇野の顔が肉まんで隠れてるから」
 甘い雰囲気なのか違うのかわからないが、空井に言われるとこれ以上ないほど甘みを含む言葉に聞こえる。
「おいしそうで、つまみ食いしたくなる」
「だめっ、これは僕のだから!」
 急いで肉まんを頬張る宇野に、空井は苦笑する。早く食べないと取られてしまう。慌てて食べているところをやはりじいっと見られ、徐々に恥ずかしくなってきた。取られないようにと急いで食べたから、大きな口を開けたり情けない顔をしたりしたかもしれない。そんなことは今まで気にしなかったのに、突然気になりはじめた。気になりはじめたら大きな口で肉まんにかぶりつけない。ちまちまと食べる宇野に、空井は不可解な顔をする。
「なんでそんな大人しく食ってるんだよ」
「だって……」
 理由を説明すると、目を丸くした空井が声をあげて笑い出した。腕が伸びてきたので逃げたのに捕まった。腕の中に閉じ込められ、心臓が大暴れする。
「そ、空井……?」
「宇野って最強」
「なにが?」
 意味がわからない宇野に対して、空井は満足そうだ。
「おいしそう」
「この肉まんは僕のだから、だ――」
 だめ、と言おうとした唇を親指の腹でなぞられる。言葉が止まり、空井の視線に囚われる。身動きが取れない宇野の唇の上を、指が何度も滑った。空井が見ているのは宇野で、「おいしそう」なのは肉まんではないのかと考えたら、ぼっと頬が熱くなった。宇野を見ながら「おいしそう」と言って、肉まんが目当てでなくてこの動きということは、空井の言いたいことはつまり――。
「だめか?」
 ふに、と唇を押され、意を決して目を閉じる。だめなわけがない。どきどきしながら待ってもなにも起こらなくて、そろりと瞼をあげた。目が合って、空井は意地悪に口角をあげ、宇野の持つ肉まんにかぶりついた。
「あー!」
「うまい」
「僕のなのに!」
 空井のひと口は大きいから、肉まんが一気に減った。せっかくの極上肉まんなのに、と恨めしく睨んでも、空井には効果がない。悔しい。唇を尖らせると、唇を指でつつかれた。
「本当にいい?」
「肉まんはもうあげない」
「肉まんじゃなければいい?」
「もうだまされないもん」
 さっきみたいにはいかない、と肉まんをゆずらない態度を表すと、空井の顔が近づいてきた。額が触れそうな距離で目を覗かれ、どきんと心臓が跳ねる。先ほどとは様子が違う。
「ち……近くない?」
「近づいてんだよ。離れてたらできないだろ」
「できないって……」
 顎を持たれ、上を向かされる。間近にある美麗な顔が真剣なものになった。ブラウンの瞳が妖しく揺れている。
「こういうことは、くっついてないとできない」
「ん、くすぐったい」
 いたずらをするように頬に唇が触れる。右の頬に触れて左の頬にも唇が押し当てられる。顔が離れ、至近距離で見つめ合った。
 異常な速度で心臓が動いている。心音が耳に響いてうるさいくらいで、頬に熱が集まる。宇野の目を見て小さく首をかしげる空井に、頷いて見せる。ゆっくりと近づいてきた顔が重なり、唇が触れ合った。ふにっと触れて離れていった感触に、どきどきしながら瞼をあげる。すぐそばに空井の顔があって、また視線が絡んだ。
「今のってキスなの? 見えないとわかんないね」
「じゃあ、目開けてするか?」
「え?」
 今度は目を閉じる間もなく、唇が押し当てられる。先ほどよりも少し強引なキスは、胸がくすぐったくなった。なにも視認できない距離でも、空井が宇野を見ているとわかる。宇野もそのまま目を開けていたら、唇が離れた。整った顔が徐々にはっきりと見えて、急にキスの実感がやってくる。
「は、恥ずかしいね」
 顔を背けて逃げようとしたら、腕の中に捕まった。背中から包むように抱きしめられ、腕が宇野の腰にまわる。ぎゅっと抱き寄せられれば激しい鼓動までばれそうで、心臓静まれ、と自分に言い聞かせる。
 背中に感じるぬくもりに身を委ねて、少し体重をかけると、抱きしめる力が強くなった。守られている安心感に、ゆったりとした気持ちで目を閉じる。
「空井、今年もよろしくね」
「おう」
「来年もよろしくね」
「当たり前だ」
 顔だけ振り向くと、空井も宇野を見ていた。
「ずっとずっと、よろしくね」
「俺も、ずっとずっとよろしくな」
 もう一度キスをして、空井の腕にもたれた。
 たしかな温かさを感じながら空井に包まれていると、なにも怖いものがない。ずっとずっといつまでも、空井の腕の中にいたい。空井にも、同じ安らぎを感じてほしい。
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