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甘美なおまじない①
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「ただいま」
絶対待っている。
「おかえり、晋」
やはり待っていた。諒平はリビングダイニングの椅子に座り、俺を見てほっとした顔をする。ただ帰ってきただけなのに。
「飲み会どうだった?」
「楽しかったよ。いろんな人いて」
「そう……」
いつものことだけれど空気が重い。
諒平は俺の幼馴染で恋人。大学卒業と同時に一緒に暮らし始めて一年になる。諒平は恰好いい、いわゆるイケメンだ。それなのに一人が好きで周囲と関わるのが苦手。でも「晋といるのは一人でいるよりもっと好き」と言うくらい俺が好き。暗いか暗くないかと言えば、暗いのほうに片足突っ込んでいる。悪いやつではないけれど愛情は少し重い。
「変な人に声かけられなかった? 飲みすぎてない? まさか触られたりしてないよね?」
「してないよ。大丈夫」
「じゃあお詫びのつもりで俺の膝に座って」
「……なんのお詫びだよ」
そう言いながらも椅子に座る諒平の膝に、諒平のほうを向いて跨ると急に雰囲気が明るくなる。
「おかえり」
「うん、ただいま」
ちゅ、と唇が重なって離れる。
「お酒くさい」
顔を顰めて、それでもまたキスをする諒平の髪を撫でる。
なんだかんだで俺も諒平に相当惚れている。こいつの暗いところも優しいところも重たいところも、全部が愛おしい。
諒平は幼い頃から俺を好きだと伝え続けてくれていたけれど、俺は大学までスルーしていた。どう受け取っていいかわからなかったからだ。
でもめげなかった諒平。それに負けたのかもしれない……絆されたのかもしれない。
――俺、なにがあっても晋しか好きになれない。
同じ言葉を何回言われただろう。重いなあと思うのだけど、それが徐々に心地よくなっていって、むしろ重くていいと思えてくるから不思議だ。当然のようにそばにいてくれて笑いかけてくれる諒平の手を取った。
「晋はもっと非社交的になって」
「なんだよ、非社交的って」
「会社の人と話さない、飲み会に誘われても出ない」
きっと諒平が望む俺はそういう人間なのだろう。
「無理。俺が急にそんなやつになったら周りが心配する」
「大丈夫だよ。彼氏のせいにすればいい」
「できるか」
額をくっつけて二人でくすくす笑う。諒平が俺の唇をぺろりと舐めるので、俺も諒平の唇を舐める。それを交互に繰り返していたら身体が熱くなってきた。
「……ベッド行く?」
「その前にシャワー……」
諒平の膝からおりようとするけれど、腰を掴まれて叶わない。もう一度唇を舐められる。
「どうせ汗かくんだから」
「そういう問題じゃない」
かぷ、と食べられるようにキスをされる。舌が滑り込もうとするのを舌で押し返す。
「晋?」
不満そうな声だけれど俺だって不満だ。
「シャワー」
強めに言ってみると、ため息をつかれた。
「五分」
「十五分」
「十分」
「努力する」
今度こそ諒平の膝からおりて浴室に向かい、シャワーを浴びる。浴室に時計なんてないから、体感十分ほどで浴室を出る。ざっと身体を拭いてタオルを巻いただけの恰好で寝室に入ると、諒平がベッドに座って待っていた。
「晋」
両手を広げるので、その手の中に収まる。ラッピングを解くようにタオルを外されて、肌を暴かれていった――。
「今度、晋の会社に行ってみようかな」
「は?」
肌を合わせた後、諒平の腕枕でうとうとしていたらそんなことを言われた。諒平の言葉は唐突で、どういう意図があるのかがわからない。
「職場見学、だめ?」
「諒平は子どもじゃないだろ」
「子どもみたいに甘えさせてくれてもいいよ?」
「ふは」
俺が笑うと諒平は機嫌がよくなる。こういうところは本当に可愛い。よしよしと髪を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。
「馬鹿なこと言うな。もう充分甘えてるだろ」
わしゃわしゃと髪をかき混ぜたら少し拗ねたような表情をして、俺の首元をつんつんとつつき、すうっと指でなぞる。ぞくりとしてしまうと、してやったりという顔で嬉しそうに俺を抱きしめる。
「足りない。もっと甘えさせて」
「や、んっ」
ちゅ、ちゅ、と首元や肩、鎖骨、胸とキスをされ、ぞくぞくと快感が背筋を駆け上がっていく。好き、好き……呟きながら諒平のキスも愛も止まらない。
「絶好調だな」
諒平の髪を撫でながらキスを受け入れると、じっとこちらを見る視線にどきりとする。真剣な表情は本当に恰好いい。見た目で好きになったわけではないけれど、この恰好よさは罪だと思う。
「ねえ晋、もう一回」
「きつい」
「優しくするから」
そう言って優しくしたことなんてないくせに。わかっていても諒平の髪に指をさし入れてしまう。
「……しょうがないな」
結局、俺は諒平に弱い。甘い口づけに、また快楽の波に溺れていく。
絶対待っている。
「おかえり、晋」
やはり待っていた。諒平はリビングダイニングの椅子に座り、俺を見てほっとした顔をする。ただ帰ってきただけなのに。
「飲み会どうだった?」
「楽しかったよ。いろんな人いて」
「そう……」
いつものことだけれど空気が重い。
諒平は俺の幼馴染で恋人。大学卒業と同時に一緒に暮らし始めて一年になる。諒平は恰好いい、いわゆるイケメンだ。それなのに一人が好きで周囲と関わるのが苦手。でも「晋といるのは一人でいるよりもっと好き」と言うくらい俺が好き。暗いか暗くないかと言えば、暗いのほうに片足突っ込んでいる。悪いやつではないけれど愛情は少し重い。
「変な人に声かけられなかった? 飲みすぎてない? まさか触られたりしてないよね?」
「してないよ。大丈夫」
「じゃあお詫びのつもりで俺の膝に座って」
「……なんのお詫びだよ」
そう言いながらも椅子に座る諒平の膝に、諒平のほうを向いて跨ると急に雰囲気が明るくなる。
「おかえり」
「うん、ただいま」
ちゅ、と唇が重なって離れる。
「お酒くさい」
顔を顰めて、それでもまたキスをする諒平の髪を撫でる。
なんだかんだで俺も諒平に相当惚れている。こいつの暗いところも優しいところも重たいところも、全部が愛おしい。
諒平は幼い頃から俺を好きだと伝え続けてくれていたけれど、俺は大学までスルーしていた。どう受け取っていいかわからなかったからだ。
でもめげなかった諒平。それに負けたのかもしれない……絆されたのかもしれない。
――俺、なにがあっても晋しか好きになれない。
同じ言葉を何回言われただろう。重いなあと思うのだけど、それが徐々に心地よくなっていって、むしろ重くていいと思えてくるから不思議だ。当然のようにそばにいてくれて笑いかけてくれる諒平の手を取った。
「晋はもっと非社交的になって」
「なんだよ、非社交的って」
「会社の人と話さない、飲み会に誘われても出ない」
きっと諒平が望む俺はそういう人間なのだろう。
「無理。俺が急にそんなやつになったら周りが心配する」
「大丈夫だよ。彼氏のせいにすればいい」
「できるか」
額をくっつけて二人でくすくす笑う。諒平が俺の唇をぺろりと舐めるので、俺も諒平の唇を舐める。それを交互に繰り返していたら身体が熱くなってきた。
「……ベッド行く?」
「その前にシャワー……」
諒平の膝からおりようとするけれど、腰を掴まれて叶わない。もう一度唇を舐められる。
「どうせ汗かくんだから」
「そういう問題じゃない」
かぷ、と食べられるようにキスをされる。舌が滑り込もうとするのを舌で押し返す。
「晋?」
不満そうな声だけれど俺だって不満だ。
「シャワー」
強めに言ってみると、ため息をつかれた。
「五分」
「十五分」
「十分」
「努力する」
今度こそ諒平の膝からおりて浴室に向かい、シャワーを浴びる。浴室に時計なんてないから、体感十分ほどで浴室を出る。ざっと身体を拭いてタオルを巻いただけの恰好で寝室に入ると、諒平がベッドに座って待っていた。
「晋」
両手を広げるので、その手の中に収まる。ラッピングを解くようにタオルを外されて、肌を暴かれていった――。
「今度、晋の会社に行ってみようかな」
「は?」
肌を合わせた後、諒平の腕枕でうとうとしていたらそんなことを言われた。諒平の言葉は唐突で、どういう意図があるのかがわからない。
「職場見学、だめ?」
「諒平は子どもじゃないだろ」
「子どもみたいに甘えさせてくれてもいいよ?」
「ふは」
俺が笑うと諒平は機嫌がよくなる。こういうところは本当に可愛い。よしよしと髪を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。
「馬鹿なこと言うな。もう充分甘えてるだろ」
わしゃわしゃと髪をかき混ぜたら少し拗ねたような表情をして、俺の首元をつんつんとつつき、すうっと指でなぞる。ぞくりとしてしまうと、してやったりという顔で嬉しそうに俺を抱きしめる。
「足りない。もっと甘えさせて」
「や、んっ」
ちゅ、ちゅ、と首元や肩、鎖骨、胸とキスをされ、ぞくぞくと快感が背筋を駆け上がっていく。好き、好き……呟きながら諒平のキスも愛も止まらない。
「絶好調だな」
諒平の髪を撫でながらキスを受け入れると、じっとこちらを見る視線にどきりとする。真剣な表情は本当に恰好いい。見た目で好きになったわけではないけれど、この恰好よさは罪だと思う。
「ねえ晋、もう一回」
「きつい」
「優しくするから」
そう言って優しくしたことなんてないくせに。わかっていても諒平の髪に指をさし入れてしまう。
「……しょうがないな」
結局、俺は諒平に弱い。甘い口づけに、また快楽の波に溺れていく。
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