優しくしないで

すずかけあおい

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優しくしないで①

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「昨日、歯医者だったんだ」

 学校に着いてすぐに友人の誠悟せいごを見つけて話しかける。これは話さずにいられない。歯医者の帰り道からずっと、早く誠悟に話したいと思っていた。

「ふうん」

 相変わらずのそっけない返事。

「いつもどおり優しくて、あの先生大好き」

 おかげで今日は気分がいい。その気分のよさを共有したかったのに、誠悟は大きなため息をつき、俺の額を指でぐりぐりと押してくる。

「またそれか」
「いいじゃん」

 額を押す指を握り、ぽいっとして離させる。

越志えつしは優しくされるとすぐ好きになるだろ」

 あきれ顔で俺を見る誠悟の目が冷たい。そんな目で見なくたっていいじゃん、と思うけれど、誠悟はいつもこうだ。

「だってすごく優しいんだよ、好きになっちゃうって」

 俺の言葉に誠悟がもう一回ため息をつく。はぁああ、とすごく大きなため息。

「それに比べて誠悟は優しくないよね。いつも厳しいことばっかり」
「現実を言ってんだよ。ついでに言えば、医者が優しいのは仕事だからだ」

 またそういう意地悪なことを言う。

「そんなのわかってるよ」
「わかってないだろ」
「……」

 それに歯医者の先生は優しいだけじゃなくて恰好いいんだから、と言おうとしてやめる。誠悟に言ったところで、「だから?」と返ってきそうだ。自分の顔で美形は見慣れている誠悟には、平凡な俺の感覚なんて理解できないだろうし。
 まるで俺の頭の中を覗いたように誠悟が冷めた目で見てくる。

「先月は風邪でかかった内科の先生が好きって言ってただろ。その前は越志が定期落としたのを拾ってくれたサラリーマン」
「よく覚えてるね。あの先生も、拾ってくれた人も優しかったんだ」

 内科の先生は丁寧に話を聞いてくれて、笑顔まで優しかった。熱が高くてつらそうだね、と声をかけられたらぽうっとなってしまった。翌日には熱が下がったから、薬よりもあの笑顔が効いたに違いない。
 定期を拾ってくれた男性はお礼を言ったら、気をつけてね、と声をかけてくれた。優しくて好きになった。

「軽すぎ」
「違うよ。ちょっと惚れっぽいだけ」
「自分でわかってんのかよ……」

 ますます手に負えない、と誠悟がまたため息をつく。ため息のつきすぎで空気が抜けてぺったんこになるんじゃないか。
 確かに優しくされたからって好きになるなんて軽いかもしれないけど、それで相手に固執するわけではないんだからいいじゃないか。ただいつでも幸せな気持ちでいたいんだ――なんて、誠悟に言っても通じないだろうけれど。

「……ずっと気になってたんだけど」

 誠悟が真剣な表情をするので、なんだ、と身構える。こういう顔をするときはなにか怖いことを言うときだ。

「な、なに?」
「優しくされたら誰でも好きになんの?」

 なんだ、そんなことか。だったら怖い顔をすることないのに。
 
「そういうわけじゃないけど、でも優しい人は好き」

 真実そのままを答える。言ってから、いつものように「頭の中お花畑」とか言われるかもしれないと思ってもう一度身構えると、誠悟が引き結んでいた唇をゆっくり開く。

「じゃあ、俺もおまえに優しくする」
「え?」

 どういうこと、と誠悟の顔をじっと見る。整った顔で真剣な表情をされると気迫がすごい。

「とことん優しくしてやるから、俺を好きになれ」


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