2 / 16
第一章
2. 月の宿
しおりを挟む
アースでの亜人と獣人。
亜人→見た目がほぼ人間。
獣人→頭がほぼ獣。
あれから二ヶ月後。
中央大陸に位置した『リュアーシ王国』の所有する島の一つ『レリーレイク』は、またの名を『冒険者の街』と別称され賑わっていた。
レリーレイクの周囲の島々にはダンジョンと呼ばれる魔窟が点在するほか、魔鉱石や魔獣、肉食植物など冒険者魂をくすぐられる存在がいくつもあり、他の島や国へ行き来可能な船が数々あるので多くの冒険者たちの拠点にもなっていた。
レリーレイクの人口の半分は人間、次に多い種族が亜人、その次に獣人なのだが、どちらも人間との関係はお世辞にも良好とはいえない。おそらく大勢の種族同士がいがみ合った五百年前の『世界大戦』の影響が根強く残っているのだ。
そんな冒険者街の西門から出て少し歩くと、小さな森が見えてくる。木陰でわかりずらいが、よく見ると整備された道があり、真っ直ぐ進むとソレはぽつんと建っていた。
『月の宿』
安直に宿主の名前から付けた宿屋。
外観は小さめの古びた洋館ではあるが、しっかりと清掃されている。二階建ての本館の後ろには円形屋根の旧館が建っており、前後に並び渡り廊下で繋がっていた。その他本館には八角形の展望台もあり、天気の良い日に森林浴をするのも気持ちがいいことだろう。
入り口の扉を開けるとカランコロンと涼しげなベル音が鳴ってお客様の来店を教えてくれる。
入ると吹き抜けになった開放感のあるエントランスロビーと、ラウンジ、カウンター。ほのかに木の優しい匂いが香ってくる。くつろげるラウンジには、ソファとハンモックがあり、冬はロビー全体を暖められる大きさの暖炉があった。
「おかえりなさい、師匠」
カウンターに腰掛けた状態で、扉に細い隙間を作って入ってきた黒猫に、私は笑みを浮かべた。
ああー、今日もお客様が誰も来ないな。
◆
思えばここは西洋要素の強いファンタジーな異世界。一般的な連絡手段といったら手紙ぐらい。インターネットなんてあるわけないので、「予約していた〇〇です~」という流れにはならないのである。
そして森の奥にひっそりとあるため、どうしたって人通りがない場所にそう簡単にお客様が入ってくるわけない。月の宿に泊まろうと思わない限りは本当に。
そう確信したのは、このペンション『月の宿』を開業したその日であった。いや、開業準備を進めているうちに薄々気づき始めていたんだけれど、なんせ資金に余裕があったわけじゃなかったし、冒険者街の中の物件は値段が恐ろしく高いか、条件に合わないものばかり。一括払いで済ませたかった私のお眼鏡にかなっていたのは、いつの間にか無人となっていた古い洋館だったここである。
どことなく前世に経営していたペンションと似た雰囲気があったり、ボロボロで修繕費が凄まじく十年以上前から買い手がつかず、プラスしてワケあり物件、タダ同然の破格の金額で格安だったということもあって私はすぐに決めてしまったのだ。
本館の後ろには旧館、おそらくガーデニングしていたのであろう庭園と畑もあり、薬草を育てるには打ってつけの環境だ。
だから……この場所を選んだことに後悔はない。後悔はないんだけれど、お客が来ないことにはペンションとして機能しないのである。
清々しいくらい機能、しないなぁ……。
「ちょっと薬草園見てくるから、受付番よろしくね、師匠」
「わかったわかった。相変わらず猫使いが荒いことだ」
「師匠の大好物も採ってくるから」
「ここはわしに任せろ」
ラウンジのソファにだらりと寝転がった師匠は、無駄に良い声を出して頷いている。
その反応に苦笑しつつ、重い腰をあげ、カウンターから出た私は薬草園へと向かった。
亜人→見た目がほぼ人間。
獣人→頭がほぼ獣。
あれから二ヶ月後。
中央大陸に位置した『リュアーシ王国』の所有する島の一つ『レリーレイク』は、またの名を『冒険者の街』と別称され賑わっていた。
レリーレイクの周囲の島々にはダンジョンと呼ばれる魔窟が点在するほか、魔鉱石や魔獣、肉食植物など冒険者魂をくすぐられる存在がいくつもあり、他の島や国へ行き来可能な船が数々あるので多くの冒険者たちの拠点にもなっていた。
レリーレイクの人口の半分は人間、次に多い種族が亜人、その次に獣人なのだが、どちらも人間との関係はお世辞にも良好とはいえない。おそらく大勢の種族同士がいがみ合った五百年前の『世界大戦』の影響が根強く残っているのだ。
そんな冒険者街の西門から出て少し歩くと、小さな森が見えてくる。木陰でわかりずらいが、よく見ると整備された道があり、真っ直ぐ進むとソレはぽつんと建っていた。
『月の宿』
安直に宿主の名前から付けた宿屋。
外観は小さめの古びた洋館ではあるが、しっかりと清掃されている。二階建ての本館の後ろには円形屋根の旧館が建っており、前後に並び渡り廊下で繋がっていた。その他本館には八角形の展望台もあり、天気の良い日に森林浴をするのも気持ちがいいことだろう。
入り口の扉を開けるとカランコロンと涼しげなベル音が鳴ってお客様の来店を教えてくれる。
入ると吹き抜けになった開放感のあるエントランスロビーと、ラウンジ、カウンター。ほのかに木の優しい匂いが香ってくる。くつろげるラウンジには、ソファとハンモックがあり、冬はロビー全体を暖められる大きさの暖炉があった。
「おかえりなさい、師匠」
カウンターに腰掛けた状態で、扉に細い隙間を作って入ってきた黒猫に、私は笑みを浮かべた。
ああー、今日もお客様が誰も来ないな。
◆
思えばここは西洋要素の強いファンタジーな異世界。一般的な連絡手段といったら手紙ぐらい。インターネットなんてあるわけないので、「予約していた〇〇です~」という流れにはならないのである。
そして森の奥にひっそりとあるため、どうしたって人通りがない場所にそう簡単にお客様が入ってくるわけない。月の宿に泊まろうと思わない限りは本当に。
そう確信したのは、このペンション『月の宿』を開業したその日であった。いや、開業準備を進めているうちに薄々気づき始めていたんだけれど、なんせ資金に余裕があったわけじゃなかったし、冒険者街の中の物件は値段が恐ろしく高いか、条件に合わないものばかり。一括払いで済ませたかった私のお眼鏡にかなっていたのは、いつの間にか無人となっていた古い洋館だったここである。
どことなく前世に経営していたペンションと似た雰囲気があったり、ボロボロで修繕費が凄まじく十年以上前から買い手がつかず、プラスしてワケあり物件、タダ同然の破格の金額で格安だったということもあって私はすぐに決めてしまったのだ。
本館の後ろには旧館、おそらくガーデニングしていたのであろう庭園と畑もあり、薬草を育てるには打ってつけの環境だ。
だから……この場所を選んだことに後悔はない。後悔はないんだけれど、お客が来ないことにはペンションとして機能しないのである。
清々しいくらい機能、しないなぁ……。
「ちょっと薬草園見てくるから、受付番よろしくね、師匠」
「わかったわかった。相変わらず猫使いが荒いことだ」
「師匠の大好物も採ってくるから」
「ここはわしに任せろ」
ラウンジのソファにだらりと寝転がった師匠は、無駄に良い声を出して頷いている。
その反応に苦笑しつつ、重い腰をあげ、カウンターから出た私は薬草園へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる