贖罪兵器

モイツ軍人

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憤怒融解

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こんなはずじゃ無かった
全て順調に進んでいるはずだった
事前に銀行内部の情報を調べ上げた
サツ共に感づかれず慎重に武器も仕入れた
内部の警備員を片付け人質を取るのは容易かった
野次馬共を動けないようにして弾除けにする作戦も完璧だった
あとは無能なサツが来るのを待って俺の要求を通させる、それだけのはずだった...
それがどうしてこうなった?
用意した部下達はほぼ全員の首が一瞬にして切り落とされた
何をされたのかすら分からない
『奴』に向けて撃ち込まれた銃弾は一発も当たることなく空気に防がれるかのように弾かれた
そして『奴』は数十秒前に俺の居る部屋へと突っ込んで来た

『奴』はただ1人だった
この計画の為に何十という部下を用意した
武器を持たせ全員が十分に扱えるまで訓練もした
その部下達がただ1人の、その『少女』に殺された
残っていた部下達も俺の盾となって全員殺された
生き残っていたのは俺だけだった
盾になった奴らが皆倒れた時俺は己の死を確信した
だが
次の瞬間俺の目に映ったのは
俺の首を切り裂かんと輝くナイフでは無く、心の臓を刺し貫かんとする槍でも無い
手足が千切れるまで暴れ回り、今は力無くうつ伏せに倒れ込む『少女』の姿だった。
その姿を見た瞬間俺の身体は無意識のうちに動いていた
何百という時間をかけ、何億という金を注ぎそこまでして進めた計画を潰されたその怒りを込め『少女』を蹴り飛ばす
『少女』は数メートル程転がり仰向けになる
そうして俺はトドメを刺す為ライフルを持ち近づいた
ひとまず危機が去った事を確信し冷静さを取り戻す
これだけ苦労して準備した計画だったが、失敗したものはどうしようも無い。割り切るしかないだろう...
それにこのまま逃げ遅れればサツが駆けつける、そうなれば『山道』送りは確実...
だからサッサと忌々しい『少女』を撃ち殺すそして用意した逃走ルートへと向かえばいい
そんな事を頭の隅で考えていた。
『少女』の顔を覗き込むまでは...

先程まで何十という部下を殺し、今は力なく倒れ、これから殺されるというこの時に
その『バケモノ』は痛みに泣き喚く訳でもなく
「死にたくない」と命乞いをするでもなく
ただただ平然とした顔で、まるで何事も無かったかのような静かな目で
こちらを見ていただけであった。

...ふざけるな

「殺すなら殺せ」と
そう言っているかのようなその目を見た瞬間、俺の冷静さは吹き飛んだ。
怒りを剥き出し横たわるその身体を力の限り踏みつけた

「よくも俺の計画を...ッ!」

俺の計画を潰しておいて、
あれだけの人間を殺しておいて!
苦痛に呻く訳でもなく!
泣き喚く訳でもなくッ!
ただ静かな顔でこちらを見ている?!

その顔を再度見た時、俺は無意識の内にその顔に銃口を向け、感情のまま喚いた

「このッ...『バケモノ』がァァァァァッ!」

ズガァン!
いやに乾いた音が響き渡る
こちらを見ていた気味の悪い目は
機械のようにただこちらを覗きこんでいたその目は
顔の上半分と共に吹き飛び、
もはや肉片に混じり跡形も無く、
後には血溜まりと紅く染まった銀色の髪、そして力なく横たわる『バケモノ』だったモノだけが残っていた。

数秒間肩で息をしたのちハッと我に帰る

「そうだ!いますぐここから離れねぇと!モタモタしてるとじきにサツ共が──ッ!?」

扉へと目を向けた瞬間、すでに男の身体は思考を無視してその場に貼り付けられたかのように動けなくなっていた。

何故俺の身体は動かない?
早く逃げなければ何もかもお終いだと分かっているだろう?
...想定外だ
『バケモノ』を仕留めたばかりで油断していたのは間違い無いだろう。
だが
一体誰が予測できた?
まさかここに...











『バケモノ』がもう一体居るだなんて

男の眼前、扉のちょうど向こう側に一人の少女が立っていた
髪は赤く長くボサボサとしており
服も綺麗と呼べるものでは無かった。
だがそんな事には気づかなかった
いや、細かい容姿を注意する余裕が無かったと例えるのが正しいだろうか?

その少女の足元、国の中心をになう銀行にふさわしい大理石の床は黒く焼け焦げ、足裏からはおぞましい色の煙すら立ち上っていた。
赤い髪には所々から炎が上がっては消えるを繰り返し、肉体は異常なまでの熱を帯び、その肌からは黒く焼け焦げ溶け落ちた少女自身の肉体がまるで汗のように床へと垂れ落ちる。
その両眼の片方は理性なく血走り、片方の瞳は揺らめく火の如く煌々と輝いていた。

彼女のギョロリと動く両眼からは黒い重油にも似た液体がこぼれ大理石の床に焦げ跡を残す
そしてソレが一歩、こちらへと近づき、呟いた

「なァ、オまえ...イマ、だレヲころシた...」

その異質な容姿から、意外にも年相応の、しかし所々に到底ヒトの喉から発せられるとは思えない声色で語りかける

両の眼で銀色の髪をした少女を殺した...
自分と先程まで他愛無い会話をし、共に歩いた名もなき少女を...

...いや、「ヴィレア」を殺したその男へとまた一歩近づいた。
足が触れた部分はブスブスと音を立てながら煙を吹き上げ、その肉体から発せられる熱により室温は異常な数値へと上がってゆく
そして『熱塊』は男の目を
その血走った、煌々と光る双眼で凝視する

その瞳に見つめられた瞬間、かろうじて逃げる事を諦めずに思案していた男の理性は音を立てて砕け散った。
もはや肉体に込める力は無く、『バケモノ』だったモノの血溜まりの上に力なくへたり込み、まばたきすら出来ずに眼前へと迫る『熱塊』をただ眺めることしか出来なかった。

「ダまっテナいデこタエろよ...ナぁ...オまえが...オマえガおマエガおまエがオまえがオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエカオマエカオマエカオマエカオマエガァ"ァ"ァ"ァ"───ッ!!!!」

理性なく喚き散らし、その熱塊となった腕で男を掴もうとしたその瞬間、微かに...そして確実に声が聞こえた

「全く...人間の肉体が...これ程...脆いとは...想定外だった...」

その声は...先程まで当然のように聞き、そして今や二度と聞けなくなったと思っていたその声は、『熱塊』が一時でも『ザフィラ』へと戻るのには十分だった。










...イままデカらだノうちカラわキデるよウに感じテいたネつガヒいてユく...あれダけ身をコがすようニ感じてイたのに...まるで初めカら無かったよウに...今は少しモ熱くない...
どうして...?
...そうダ、声が...聞こえたんだ...確かにあの時...あの子の声が...!

「デも、ソノこハシんダンだヨ?」

「オマえノめノまえデシんダンだよ?」

「おマエがコロしタんダヨ?」

あぁ、まただ...まタ声がする...

「どウシてシんだ?」

「うタレてシんダ!」

「ドこをうタレた?」

「あたまヲうタれてハじケテた!」

「ダれノセいデ?」

「クスクス...」
「ダレノせイ?」
「だレノ?」
「ダレノ?」
「ダレノ?」
「ダレノ?」

やめろ...
いい加減にやめてくれ...

「「「 オ マ エ ノ セ イ ダ 」」」

───ッ!

またあの笑い声が木霊する、

...やめろ

俺を嘲笑う

やめろ...

また『あの人』の声で俺を嗤う

いい加減にしろ、
『あの人』は嗤わない、
絶対に嗤ったりしない...
あの人の最後の笑顔は忘れない...
忘れるものか...ッ!
だから、いい加減に...
その下卑た笑い声を...
あの人の声で嗤うのを───ッ!

「や...め......ッろォォォォォォッ!」

絶叫と共に血走った瞳が理性を取り戻す
そしてその視線の先には──











「...なんだ?突然叫びだして...どうかしたのか?」

銀細工のようにきめ細かく煌めく銀色の髪
空よりも綺麗に透き通る水色の瞳をした
きょとんとした顔で心底不思議そうに首を傾げる少女が
俺が初めて惚れたあの少女が
ずっと一緒に居たいと願ったあの少女が!

そこには「ヴィレア」が、頭を砕かれる前と変わらぬ姿で立っていた。
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