もう一度、君を好きにる時間

なべぞう

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変わる未来

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海外インターンの募集要項を、何度も読み返す。

三か月間、海外の企業で働きながら研修を受けるプログラム。

語学力は必須。

生活費の一部は自己負担。

簡単な道ではない。

前の人生で応募しなかった理由ははっきりしている。

怖かったのだ。

環境が変わることも、失敗することも。

だから、安全な道を選んだ。

でも――その先に待っていたのは、幸せではなかった。

(安全な選択が、正解とは限らない)

応募用紙をカバンに入れ、講義室へ向かう。

教室に入ると、恒一が手を振った。

「おはよ」

「あ、おはよう」

前の人生なら、この何気ないやり取りが少し嬉しかった。

でも今は、ただの同級生。

それ以上でも以下でもない。

「昨日、先帰ったよな?」

「うん」

「なんか用事あった?」

「ちょっとね」

それ以上は聞いてこない。

恒一は元々、深入りしない性格だった。

それが楽でもあり、寂しくもあった。

(悪い人じゃないんだよね……)

ただ、お互いに相手を理解する努力をしなかっただけ。

授業が終わると、スマホが震えた。

三浦からだ。

『今日、空いてる?』

思わず微笑んでしまう。

前の人生では、こんな連絡を待つことはなかった。

常に自分から連絡して、予定を合わせていた。

今は違う。

誰かが、自分に会いたいと思ってくれている。

『空いてるよ』

返信すると、すぐ既読がつく。

『じゃあ、学食で待ってる』

少し胸が高鳴る。

自分でも驚くほど、足取りが軽い。

学食に着くと、三浦が手を振った。

「早いね」

「講義終わったとこだから」

トレーを持って向かいに座る。

しばらく、他愛ない話をする。

好きな映画。

バイトの愚痴。

将来の夢。

前の人生では、こういう会話をあまりしなかった。

忙しさを理由に、ちゃんと向き合わなかった。

「そういえばさ」

三浦が言う。

「インターン募集、見た?」

「え?」

「掲示板。海外のやつ」

心臓が止まりそうになる。

「俺、応募しようと思ってて」

偶然とは思えない。

前の人生では、そんな話を聞いた記憶はない。

つまり――

関わらなかった未来。

「……私も考えてた」

三浦は目を丸くする。

「マジで?」

「うん」

「じゃあ、一緒に受かったら向こうでよろしくな」

笑う。

その笑顔に、胸の奥が温かくなる。

同じ方向を向いている。

それだけで、こんなにも安心するものなのか。

だが同時に、不安も生まれる。

(もし……落ちたら?)

また何も変わらないのではないか。

未来は本当に変わるのか。

その時だった。

後ろから声がした。

「美月?」

振り向くと、恒一が立っていた。

そして三浦を見る。

「……誰?」

空気が少し張り詰める。

三浦が軽く会釈する。

「同じゼミの三浦です」

恒一は微妙な顔をする。

「ふーん……」

そして美月に言う。

「あとで、ちょっと話せる?」

前の人生では、この時すでに恒一は美月に好意を持ち始めていた。

そして自分も――。

だが今は違う。

「うん、あとでね」

軽く答える。

三浦は気にした様子もなく言った。

「じゃ、俺次の授業あるから。また連絡する」

去っていく背中を見送る。

恒一がぽつりと言う。

「……あいつと仲良かったっけ?」

「最近、話すようになっただけ」

「そっか」

どこか納得していない顔。

沈黙が流れる。

そして恒一が言った。

「さ、今度さ、二人で飯でも行かない?」

来た。

前の人生と同じ誘い。

ここで頷けば、同じ未来へ続く。

断れば、未来は変わる。

胸が強く鼓動する。

(どうする……?)

やり直しの人生。

最初の大きな分岐点。

美月は、ゆっくり口を開いた。

「……ごめん」

自然と声が出る。

恒一が少し驚く。

「最近、予定いろいろあって。二人でっていうのは、ちょっと難しいかな」

遠回しな断り。

でも、はっきりと。

恒一はしばらく黙り、苦笑した。

「……そっか」

その表情に、少し胸が痛む。

でも、それでいい。

未来は、ここで変わる。

「じゃあ、またゼミのみんなで」

「うん」

それだけ言って、その場を離れた。

背中に視線を感じながら。

廊下を歩きながら、大きく息を吐く。

(……終わった)

前の人生の始まりを、自分の手で終わらせた。

少しだけ、寂しい。

でも同時に、胸の奥が軽い。

未来を自分で選んだ実感があった。

その日の夕方。

バイト帰りにスマホを見ると、三浦からメッセージが届いていた。

『インターン応募、もう出した?』

『明日出す予定』

『俺も。なんか緊張するな』

少し笑う。

同じ方向を向いている感覚。

それが嬉しい。

『受かったら、向こうで飯おごって』

送ると、すぐ返信が来る。

『落ちたら、日本でおごって』

思わず吹き出してしまう。

自然に笑える。

こんな時間、前の人生ではなかった。

その時、スマホに着信が入る。

母だった。

少し驚きながら出る。

「もしもし?」

『あんた最近、声明るいわね』

開口一番、そう言われる。

「そう?」

『うん。なんか、安心した』

胸の奥がじんわり温かくなる。

前の人生では、母とこんな会話をすることすら減っていた。

「ねえ、今度帰っていい?」

母は少し黙ってから、嬉しそうに言った。

『いつでも帰ってきなさい』

その声を聞きながら思う。

(未来は……確実に変わってる)

恋だけじゃない。

家族との関係も。

自分の心も。

全部。

通話を終え、夜空を見上げる。

星が少しだけ見える。

前の人生では、こんな風に空を見る余裕もなかった。

スマホが震える。

三浦からだった。

『今さ、ちょっと聞きたいことあるんだけど』

『なに?』

少し間があってから返信が来る。

『美月って、彼氏いる?』

心臓が強く鳴る。

指が止まる。

前の人生にはなかった質問。

つまり――未知の未来。

(……どうする?)

画面を見つめながら、ゆっくりと息を吸う。

そして返信を打つ。

『いないよ』

送信ボタンを押した瞬間。

未来が、また少し動いた気がした。
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