《カクヨム様で50000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう

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一章 契約と回帰

二十六話

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家に戻ったソラは、玄関に足を踏み入れた瞬間、背中のバッグがもぞりと動いた。
次の瞬間、バッグの隙間からクロが、まるで当然のようにぬるりと這い出てくる。

「今日は散々だったな、ソラ。」

ソラは制服を脱ぎながら苦笑する。

「散々ではあったけど……まあ、釣り合いは取れたよ。」

「ほう?」

「心配してくれる友達ができたし、不良に殴られそうになった時……あの瞬間、無意識に“魔力を乗せた拳”が出た。」

クロは感心したように瞳を細めた。

「なるほど。今までの様に溜めるのに時間が必要だった魔力を即座に実戦運用したのは、大きな成長だぞ。」

「だから……今日の感覚が薄れないうちに、また早くが訓練したい。」

ソラの言葉にクロは「やれやれ」と肩をすくめるが、その声にはどこか満足そうな色があった。

二人はギルドの訓練場へ向かった。

今日の夕方の訓練場は人がまばらで静かだった。
ソラはサンドバッグの前に立つと、大きく息を吐き、右の拳を握る。

――魔力を意識して右手に流す。

だが、昨日と同じだ。
魔力はじわりと溜まるが、あの時のような瞬発力はまるで出ない。

バンッ!

サンドバッグに拳を叩きつけるが、今まで変わりないという程度。

「……違う。こんなんじゃなかった。」

何度、何度繰り返しても感覚は戻らない。

ソラは拳を下ろし、黙って考えに沈む。

――何が違う?

不良の存在?
廊下?
朝の気分?

頭の中で並べた条件を、一つずつ否定していく。

そして、答えに近い何かに触れた気がして、ソラは目を伏せた。

「……あの時の俺、心が荒れてた。」

もっと正確に言えば、憂鬱と苛立ちが混ざり合い、心の中が激しく波打っていた。

その瞬間、ソラの中で何かがカチリと噛み合った。

「魔力は“水”みたいな性質……」

ならば。

感情で荒らし、波立たせれば、一気に流れが加速するんじゃないか。

ソラは静かに目を閉じ、自分の丹田へ意識を向けた。
そこにある魔力は、澄んだ水面のように静かに揺れている。

「……足りない。」

そこで、今日の朝を思い出した。

不良に絡まれ、殴られそうになったこと。
反撃した後、特別教室送りになったこと。
周囲から向けられた視線。

魔力が、少し波立つ。

「まだ……足りない。」

今度は、前の人生を思い出す。

カイトたちに雑用を押しつけられた日々。
寝る間も惜しんで作ったポーションも、当たり前のように扱われた。
役に立たなくなった途端、ゴミのように追放された。

胸の奥のどす黒い感情が、ぐつぐつと煮えたぎる。

怒り、悔しさ、虚しさ、惨めさ――。

魔力が荒れ狂い始めた。
丹田の中で、水ではなく嵐の海が渦巻くような衝撃が生まれる。

「……ッ!」

ソラはその荒れた魔力を“手に集めよう”とはしなかった。

ただ、拳を握り、構え、踏み込んだ。

「はッ!」

ドゴォッ!!!

訓練場に爆音が響き渡った。
サンドバッグが悲鳴のように揺さぶられ、天井の鎖がギシギシと軋む。

ソラは拳を下ろしながら、息を呑んだ。

「……できた。」

あの時と同じ、いや、比べものにならないほどの威力だった。

だが同時に、背筋に冷たい汗が垂れる。

「……こんなの、もし人に当たってたら……」

倒れるどころでは済まなかった。
下手をすれば命を奪っていたかもしれない。

ソラは今日聞いた教師の言葉を思い出す。

――己の力に酔ったシーカー。
――脱法シーカー。
――シーカーキラー。

彼らは、力の使い方を間違えた者たち。
ソラは拳を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。

「絶対に……間違えない。
この力は…必ず、正しく使う。」

クロが静かに頷く。

「その誓いを忘れるなよ、ソラ。」

ソラはサンドバッグを見つめ、心の中で強く誓い直した。

――自分は“間違った道”には行かない。


魔力を瞬時に右手へと集められた――その成功体験がソラの胸を熱くしていた。
だが同じ感情を高ぶらせる方法を二度、三度と繰り返すうち、拳に宿る力は目に見えて弱まっていく。

四度目。
ソラは深呼吸して魔力を右手に流そうとする。

……けれど、魔力は鈍く、重く、ゆっくりとしか動いてくれなかった。
まるで最初の頃となんら変わらない。

「……っ、なんでだよ……!」

歯を噛み締める音が訓練場に微かに響く。

サンドバッグは静かに揺れを戻し、周囲にはもう誰もいなかった。
訓練場にいるのはソラとクロだけ。天井の魔石灯の白い光が、ソラの肩に汗を反射させていた。

クロはソラの足元からぬっと姿を現わすと、尻尾を揺らしながら言った。

「成功したと思ったら、またふりだしに戻ったわけだな。
で……ソラ。なんで一回目だけうまくいったのか、ちゃんと説明してみろ。」

促されて、ソラは正直にすべてを話した。

自分の魔力は「水」のように波打つ感覚であること。
感情が揺れれば魔力の波も大きくなり、その勢いで右手へ流し込みやすくなるのではと考えたこと。
朝、不良に絡まれた怒りや苛立ち、前の人生でのカイトたちへの苦々しい記憶を思い出すことで、
“魔力の水面”が大きく荒れ、魔力が一気に集まったこと――。

ここまで話すと、ソラは吐息をついた。

「……でも、試すうちに何も感じなくなってさ。
思い出そうとしても、もう魔力の波は静かなままなんだ。」

クロはしばらく黙り、顎に前足を当てて考え込むような仕草をした。
やがて、ふっと尻尾を一度だけ揺らし、ソラに向き直る。

「……なるほど。理屈は悪くない。
お前の魔力が水の性質を持つなら、波を立てた方が流れは速くなるのも理解できる。」

「なら、なんで……」

「問題は――波を起こす“燃料”だ。」

ソラは目を瞬いた。

「燃料?」

「ああ。さっきのソラは“記憶”を薪にして、感情を燃やし、魔力の水面に波を起こした。
怒りや憤り、苦しみ……そういう刺激は、勢いよく燃え上がる。」

クロは近くに落ちていた木片を拾い、ぱきりと折ってみせた。

「だが薪には限りがある。
燃やし尽くせば火は弱まり、魔力も静かに戻っていく。
ソラが三回しかうまくいかなかったのは、その“薪”を使い切ったからだ。」

ソラは言葉を失う。
確かに、最初の一回目は感情が激しく渦巻いていて、魔力が暴れるように右手へ走った。
だが、思い返すほど感情は鈍くなり、三回目には“怒りの熱”そのものが薄くなっていた気がする。

「……つまり、俺の方法は」

「一日のうち、せいぜい三回しかできない。
それも、使い続ければ心がその痛みに慣れてしまう。
薪にも使える限界がある。」

クロの声音は厳しくも優しかった。

「だがな、ソラ。方法そのものは悪くない。
むしろ“切り札”としては上等だ。」

「切り札……?」

「お前が窮地に陥った時、
どうしても一瞬で魔力を拳にまとめたい時。
その時だけ使えばいい。
そんな“奥の手”を自分で編み出せたってのは、大したもんだ。」

ふわりと、クロはソラの肩に乗り、軽く頭を小突く。

「よく考えたな、ソラ。」

ソラは息を呑んだ。
胸の奥がじんわりと熱くなる。

「……ありがとう、クロ。」

「だが、普段の魔力操作は地道に積み上げろ。
感情に頼らず、魔力を“静かな水”のまま素早く操れるようになれ。
そして考えつくことは全て試してみろ。」

ソラは強くうなずいた。

「わかった。焦らないよ。
今日みたいに一気にできる方法があったからって、近道しようとは思わない。」

「その意気だ。」

サンドバッグが、軽く揺れた。
ソラは再び拳を握る。

あの瞬発的な“荒波”ではなく、
静かで深い水でも、意識した方向へ速く流すために。

一歩一歩、自分の力を積み上げるために。

ソラは再び、丹田へと意識を沈めた。
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