《カクヨム様で50000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう

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一章 契約と回帰

二十九話

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ソラが自分の教室に戻ると、教室の空気が僅かに変わる。
まだ席につく前、数人のクラスメイトがソラに気づき、互いに顔を寄せてヒソヒソと話し始める。その視線に気づかぬふりをしながらも、ソラの胸の奥には小さなざらつきが生まれた。

──けれど、あの四人がいる。

ボッケのぶっきらぼうでも温かい言葉、ファラのカタコトの優しさ、マルコのキザではあるが人を想ってくれる言葉遣い、リンの控えめだが真っ直ぐな好意。それらを思い返すだけで、ソラは不思議と胸を張れた。

席に座り、深く息を吸う。

その後の授業は驚くほど平穏だった。教師も、クラスメイトも、特にソラに干渉してくることはなく、淡々と時間が流れていく。そしてチャイムが鳴り、午後の授業は問題なく終了した。

帰り支度をしていると、担任が教壇に立ち、手を叩いた。

「はい、みんな注目。次の休み明けから、ダンジョン実習に入るぞ。
各自、武器・防具・道具類の準備をしておくように。忘れ物のないようにすること」

クラス中がざわつく。誰もが楽しみ半分、不安半分といった顔だ。

しかしソラだけは──

(……しまった。完全に忘れてた……!)

心の中で叫んだ。
武器はギルドで買った鉄剣がある。だが、防具とダンジョン探索に必要な備品はほとんど揃えていない。
財布事情もあまり余裕がない。

(どうしよう……。あれ、使う……?)

ふと、ショーイチロー校長からもらったAランク魔石のことが頭に浮かぶ。

──しかし、すぐにソラは首を横に振った。

(ダメだダメだ! あれは今じゃない! 絶対に今じゃないっ!!)

心の中で必死に言い聞かせる。
貴重すぎるモノをこんな準備段階で使うのは、どう考えても勿体ない。戦略的にありえない。

「はぁ……」

思わず小さなため息が漏れた。教室を出ると、廊下の少し離れた場所に、見覚えのある銀髪が揺れているのが見えた。

ユナだ。

ソラは自然と早歩きになり、彼女に声をかける。

「ユナ!」

振り返ったユナが、少し驚いたように目を丸くした。

「ソラ君?」

ソラは息を整えながら彼女の前に立つ。

「この前の……その、アドバイスのおかげで課題、クリアできたよ。
直接言いたかったんだ。ありがとう」

ユナは目を丸くした後、ふんわりと微笑んだ。

「ううん。私はほんの少し話しただけ。でも……ソラ君が前に進めたなら、私も嬉しい」

その笑顔は美しい──けれどどこか影がさしていた。

ソラは気になり、少し首をかしげた。

「……ユナ、なんだか悩んでる? もしかして、ダンジョン実習の準備が大変とか?」

自分と同じような理由かも、と一瞬期待する。

しかしユナは小さく首を横に振った。

「違うの。最近、家族が体調を崩してて……。心配で、つい考え込んじゃって」

「あ……」

(そっか、自分と同じような悩みなわけないか……)

内心少しへこむソラだったが、それ以上にユナの境遇に胸が締めつけられた。

「ユナ。もし、俺にできることがあれば……なんでも言って。
前にユナが助けてくれたみたいに、今度は俺が力になりたい」

ユナの表情が揺れた。
予想外だったのか、わずかに目を見開き──そして柔らかく笑う。

「……ありがと、ソラ君。その時が来たら……お願いするかも」

「うん。いつでも言ってよ」

二人はそれだけ言葉を交わして別れた。
ユナが去っていく背中を見送りながら、ソラは静かに息を吐く。

ダンジョン実習の準備、自分の財布事情、そしてユナの家族のこと──。

問題が一気に重なってきたが、不思議と胸の奥は沈みきってはいなかった。

今日、自分の教室に戻った時のあのヒソヒソ声も、
四人がいてくれることを思えば、乗り越えられる。

ユナにも、いつか力になれるはずだ。

(よし……とりあえず、今日はギルドに行って必要な備品の確認だな……)

家に帰ったソラは、玄関で靴を脱いだ瞬間に違和感を覚えた。

――あれ? 今日、ショーイチロー校長との模擬戦で使った服……持って帰ってきたっけ?

頭の中を数秒漁ったが、嫌な確信だけが膨らんでいく。

「……あ、忘れた」

その服は汗を大量に吸っており、置きっぱなしにしておけば確実に臭う。
しかも教室に充満でもしたら原因はどう考えても自分。

「……まずい。明日の朝とかじゃ絶対ダメだ」

覚悟を決めたソラの耳元で、カバンの中から顔を出したクロが鼻で笑う。

『まったく、ソラはところどころ抜けておるな。世話を焼かせる』

「うるさいなぁ……。でも、ありがとう。行ってくる」

半分不安、半分苦笑いしながら、ソラは再び靴を履き直し学校へ向かった。

校内に戻ると、夕方のざわつきが嘘のように静まり返っている。
廊下を通り抜け自分の教室へ入ると――あった。机の横にかけられた汗まみれのシャツが入った袋が。

「よかった……」

無事回収し、帰ろうと歩いていると――

ゴリッ、ゴリッ。
こぽっ、こぽっ。

どこかの部屋から奇妙な音が聞こえてくる。
ソラは一瞬ビクッとして声を潜めた。

(誰かまだ残ってる……?)

その音は魔法薬実習室の扉の奥からしていた。
恐る恐る扉を開けると――

「あ」

そこには、魔法薬担当の先生がいた。
薬研で薬草を潰し、鍋のような大きな釜で液体を混ぜている。

「あれ、ソラ君? こんな時間にどうかしたのかい?」

「あ、いや……ちょっと、忘れ物を取りに……。先生は何してるんですか?」

先生は軽く笑いながら手元を見せた。

「来週からいよいよダンジョン実習でしょ? その前に、生徒たちに配るポーションを作ってるの。」

「へぇ……何本くらい作るんですか?」

「そうだね、だいたい五百本くらいかな?」

「ご、五百……?」

冗談のような量だ。
ソラが本気でポーションを作ろうとしても10本作るのに30分はかかる。それを500。本気で気が遠くなる。

ソラは即座に理解した。

(……これ、一人でやる作業じゃないな)

思わず口が動いていた。

「あの……自分、もし手伝えるなら手伝わせてください」

先生は目を丸くした。

「え……? ソラ君が? いや、本来は生徒にやらせるものじゃ……」

しばし考えた後、先生は苦笑しつつも頷いた。

「……ほんとうに助かるよ、お金は出せないけれど、お願いできるかい?」

「もちろんです!」

ソラは机の上の薬草の山に向かい、実習のときと同じ要領で選別し始めた。

新鮮なもの。
少し傷んでいるが使えるもの。
完全に劣化したもの。

その手際の良さを見て、先生が声を上げる。

「相変わらず手際が良いね…」

「えへへ。慣れてるので。」

選別し終えた薬草を薬研で細かく砕いていく。

ソラは手を止め、先生に確認した。

「先生、これ……効果は少し落ちた薬草なんですが、使ったほうがいいですか?」

「ああ、できれば使いたい。数がいるものだから。」

「わかりました。」

ソラは濡れ布巾を取り出し、その劣化薬草を包み込むように湿らせた。

先生は首をかしげた。

「それは…何をしているんだい?」

「劣化した薬草って、水分を少し補うと有効成分がわずかに戻るんです。
ほんの少しだけですが、効果が上がりますよ。」

先生は目を丸くしたあと、驚喜したように身を乗り出す。

「初耳だよ……! そんな方法があるのか!」

「ただの応急処置ですけどね。すぐ作るなら十分使えます。」

「十分どころじゃない。これならポーション全体の質も上がるし、無駄も減る……!」

先生は興奮気味に言い、次の瞬間、遠慮がちに尋ねた。

「……ソラ君。この方法、僕も使っていいかい?」

ソラは思わず笑った。

(別に黙って使えばいいのに……本当に真面目で律儀な人だなぁ)

「もちろんです。ぜひ使ってください」

「ありがとう!」

その後、2人は談笑しつつも集中して作業を続けた。

薬草の粉を釜に入れ、かき混ぜ、煮込み、冷やし、瓶詰めする。

コポ……コポ……
くつくつ……
と室内に規則的な音が響く。

気付けば窓の外は真っ暗で、校庭の明かりだけがぼんやり揺れていた。

先生が時計を見て、ため息まじりに笑う。

「もうこんな時間か……今日はここで終わりにしましょう。
ソラ君、本当に助かった」

ソラは肩を回しながら笑顔を返す。

「いえ、むしろ勉強になりました」

中年の男性教師――魔法薬の担当であるハーデン先生は思い出したように手を打った。

「……ああ、そうだ。ソラ君、少しだけ待っていてくれないか」

「え? はい、大丈夫です」

ソラが返事をすると、ハーデン先生は実習室を出て行った。
何を取りに行ったのだろうと思いながら、ソラは片付けを進める。
薬品の香りが漂い、外はすっかり夜になっていた。

――約十分後。

「ソラ君、待たせたね」

ハーデン先生が持ってきたのは、少し形の崩れた箱だった。
包装紙はところどころ折れ曲がり、リボンも色あせている。
だけど、大切に保管されていたのがひしひしと伝わってきた。

「これを、受け取ってほしい」

そう言って先生は箱をソラに差し出す。

「えっと……開けてもいいですか?」

「もちろんだとも」

ソラは両手で丁寧に箱を持ち、ゆっくりと蓋を開いた。

中にあったのは、革製の胸当て・籠手・脛当ての三点セットだった。
質の良い革の香りがふわりと立ち上がる。

ソラはすぐに気づく。

――これは、バトルウルフの皮だ。
――しかも、この留め具とか細かいところもかなり丁寧に作られている。

細部まで丁寧に縫い合わせられ、実用性も耐久性も申し分ない。
どう見ても高価で、学生が気軽に受け取っていい代物ではなかった。

「せ、先生……! こんなの受け取れません、絶対に高いし……!」

すぐに箱を閉じようとするソラの手を、ハーデン先生はそっと押さえた。

「違うんだ。これは……君に受け取ってほしい」

視線を落とした先生の表情は、どこか寂しげで、それでいて決意がにじんでいた。

「昔ね、私にとても懐いてくれる後輩のシーカーがいたんだよ。
 仲間想いで、明るくて、才能もあった……よく一緒に馬鹿騒ぎをしあったものだ。
 その後輩への贈り物として、内緒でこの防具を作っていたんだ」

静かな声が、実習室に落ちる。

「だけど渡す前に……そいつはダンジョンで死んでしまった…」

シーカーであれば珍しい話ではない。
それでも先生は深く息を吸い、続ける。

「私は、その防具をずっとしまい込んでいた。
 渡したかった相手が死んでしまったのに、どう扱っていいのかわからなくてね。
 でも……さっきの君を見て、決めたんだ」

ソラの胸がぎゅっと締め上げられる。

「ソラ君、君は真面目で、そそかっしくて、でも必死に前を向いている。
 薬草の見極めも、作業も丁寧で……困っていた私を助けてくれた。
 その姿がね、どことなく後輩に似ていたんだ」

ソラは息を飲む。

「私は、もう……大切な人が、目の前からいなくなるのを見たくない。
 だからこそ、君に託したいんだ。
 後輩が…あの子が守れなかった未来を……君に」

ゆっくり、しかし確かな声で。

「どうか受け取ってくれないか。
 これは……あの子の…そして私から君への願いだ」

ソラは長く黙っていた。
胸が熱くて、言葉がうまく出てこない。

だが――やがて、しっかりと顔を上げた。

「……わかりました。先生の願い、確かに受け取ります」

両手で箱を抱え、深く頭を下げる。

「俺は……最強のシーカーになるまで、絶対に死にません。
 約束します。
 先生の後輩さんの分も……絶対に、生きて強くなります」

ハーデン先生は驚いたように目を丸くし、そして静かに笑った。

「最強か、大きく出たな。でも……ありがとう、ソラ君」

すっかり外は暗くなっていた。校舎の灯りが窓へ滲むのを背にしながら、ソラは息を吐く。
魔法薬室での手伝いは思った以上に時間がかかり、時計を見た時にはギルドの訓練場が閉まる時間をとうに過ぎていた。

「……はぁ、今日はもう訓練できないな。完全にアウトだ」

肩をぐるんと回しながら家への道を歩くソラに、カバンの隙間からぬるりと黒い影が揺れる。クロだ。

「ソラ。お前……また遠回りしたな」

「うっ……クロ、それ言う?」

「言うとも。強くなりたいんだろう? なら一日たりとも無駄にはできん。
今日やったことは、わざわざ寄り道して伸びた道を歩いたようなものだ。……お前は時々、抜けている」

いつものように辛辣な言い方ではあるが、そこに温度はある。
ソラは苦笑し、頭をかく。

「分かってるよ……本当は今日も訓練したかった。
でもあの先生、明らかに困ってたし……放っとけなくてさ」

「ふん。優しいのは欠点にも美徳にもなる、面倒な気質だな。……だが――」

クロは言葉を切り、夜風に揺れる尻尾の影が細く伸びた。

「人というものは奇妙な生き物でな。
一見“無駄”に見える行いが、巡り巡って大きな結果になることがある。
今日のお前の行動がまさにそれだ。」

ソラは歩く足を少しだけ緩め、クロの言葉に耳を傾ける。

クロは静かに続けた。

「見返りを求めず手を貸したお前の行動を、あの男はしっかり見ていた。
その結果として――別の人間に託すはずだった防具を、お前に託した。
そして“生きて帰ってこい”という意思まで継がせた。」

ソラは、受け取った革製の胸当てと籠手、脛当てを思い出す。
形も、手触りも、重みも……軽々しい贈り物ではなかった。

あれは願いだった。
“どうか次こそ、生き残ってほしい”
それを託されたのだ。

クロは言う。

「覚えておけ、ソラ。
無駄なことは――この世にひとつとして無い」

その声音は、普段の皮肉屋で刺々しい悪魔のものではなく、どこか、年長者のようで。

ソラは自然と笑みを浮かべた。

「……そうだね。遠回りに見えたけど、結果的には今日やって良かったよ。
先生の役にも立てたし、防具ももらえたし……何より、また誰かの“思い”を受け取れた気がする。」

「うむ。その通りだ」

クロは満足そうに尻尾をゆらゆら揺らす。

ソラは拳を握り、胸に思いを宿した。

「ボッケたちにも、ハーデン先生にも……そしてクロにも。
期待してくれる人がいるなら、俺は……絶対に強くなる。
誰も死なせないくらいに強く。
この世界のどこでも通用するくらい強くなってみせる」

クロはにやりと牙を覗かせる。

「いい目だ。人を食い殺すぐらいの覇気がある……その調子で励めよ、ソラ」

「いや食い殺さないよ!? でも……やってやるよ」

夜の道に、ソラの決意が静かに溶ける。
今日の出来事は、確かに訓練よりも時間がかかった。
でも――遠回りではなかった。

必要な遠回りも、きっとある。

ソラは胸当てが入った袋を軽く抱え、明日からの実習と、自分の成長を強く思い描きながら家路についた。
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