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一章 契約と回帰
二十八話
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午前の授業が終わると同時に、ソラは椅子から勢いよく立ち上がった。
特別教室での隔離生活――三日間とはいえ、心細く孤独で、そして何より居心地の悪い時間だった。だが今日の午前、ショーイチロー校長との模擬戦を経て、正式に「問題なし」と判断され、午後から元の教室へ戻れることになった。
その嬉しさは、胸の奥で圧縮されていた空気が一気に弾け飛んだようで、足取りは軽い。
――いや、軽すぎた。
気付けば廊下をスキップしていた。
「……はっ!」
ほんの数歩進んだところで、すれ違った女子生徒にクスクスと笑われる。
「い、今の……見られた……?」
女子生徒は肩を震わせながら、友人と顔を見合わせて笑いながら歩き去っていく。
「ぐぅ……っ。恥ずかしい……」
思わず頬が熱くなり、ソラはそそくさと歩調を整えた。
(いや、でも今日は仕方ないだろ……特別教室からやっと解放だし……それに――)
制服の内ポケットに指を滑り込ませると、硬い感触が指先に触れる。
――Aランク相当の魔石。
ショーイチロー校長が「ご褒美だよ」と言って笑いながら手渡してくれたものだ。
あの模擬戦……というより一方的な教育的指導のような戦闘のことを思い出し、ソラは背筋に寒気を感じつつも胸が熱くなる。
(凄かった……あれがSランク……)
魔石を握りしめ、ソラは食堂へ向かう階段を降りる。
まだ昼休み開始直後で、食堂は比較的空いている。いつもの隅の方のテーブルに座り、仲良くなったボッケ達を待つことにした。
椅子に腰掛けた途端、少しだけ肩の力が抜けた。
(今日は……なんか色々あったな……)
息をついたそのとき、ワイワイと賑やかな声が近づいてくる。
「――おっ、来たかソラ。ここだ」
振り向けば、ボッケ、ファラ、リン、マルコの四人が揃っていた。
「やあ、今日もスープは僕の美貌を反射してさらに美味しさが増している気がしないかい?」
キザったらしく前髪を払ってマルコも席につく。
「ソラ!キョウも、いっしょ タベルよ!」
ファラは元気よくソラに挨拶をし大事そうにトレイを抱えながらすんと座り、
「……お、おまたせ。」
リンは少し俯き気味に、でもちゃんとソラを見て微笑むようにしながら隣へ腰を下ろした。
この光景は、ここ数日ずっと続いていた。
別教室に飛ばされても、毎日この昼だけは同じテーブルに集まっている。
ソラは思わず笑ってしまった。
「みんな、今日もありがとう。」
ボッケは鼻を鳴らす。
「べつにいいだろ。私は好きでここに来ているのだ。」
マルコは肘をつき、ニヤリと流し目。
「そうさ。ランチタイムにソラくんがいないなんて、食堂の花が一輪消えたようなものさ。」
「……そんな大層なものじゃないよ……!」
ファラがコクリと頷く。
「ソラ!みんナデたべるとうまい? よ!ファラ はみんなでたべるのスキ。」
「そうだね、ファラ」
ファラの言葉同意して返す。
そしてソラは、みんなが揃ったのを見計らって切り出す。
「みんなに……言いたいことがあるんだ。午後から、俺……元の教室に戻れることになった!」
スプーンを落としそうになる4人。
「もう戻って来れるのだな!」
ボッケが椅子ごとガタッと前に出る。
「それは……よかったです……!」
リンは胸に手を当てて心底ほっとしたように息をつく。
「ソラがモドル!ファラはベリーウレシ!」
ファラは体ごと左右に揺れて喜び、
「ソラ君と言う光が教室に戻るわけだね?」
マルコはキザポーズで大げさに喜んだ。
4人とも本当に嬉しそうで、ソラは胸が熱くなる。
「で、どうしてなんだ? 何があった?」
ボッケが身を乗り出す。
ソラは頭を掻きながら、苦笑いで答える。
「その……ショーイチロー校長と、模擬戦をしたんだ。」
「……へ?」
一瞬、時が止まった。
次の瞬間、4人は揃って叫んだ。
「「「「えええええええええっ!!?」」」」
食堂中の視線がこちらを向く。
ソラは耳まで赤くしながら説明を続ける。
「言われて……断れなくて。でも、もちろん校長はめちゃくちゃ手加減してくれてたよ。俺は全力だったけど、全然歯が立たなかったし。」
ボッケは頭を抱えた。
「ソラ、そんなのは当たり前だ、……あの”剣聖”だぞ? 。」
「私なんて校長先生に会うだけでも恐れ多いよ……」
リンが呟く。
「ソラツヨイ!カッコイイ!」
ファラの瞳はキラキラと輝いている。
マルコは手を組み、まるで劇場の観客のようにため息をつく。
「まったく……僕たちの中でいちばんドラマチックな青春をしているのは、どうやらソラくんみたいだね。」
「青春ってほどじゃないよ……!」
そんなやりとりで笑い合っていると、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
ボッケが立ち上がり、拳を軽くソラの肩に当てる。
「……まあ、とにかく。戻ってくるなら歓迎だ私たちの教室に」
「うん。ありがとう、ボッケ」
リンは小さく手を振った。
「おかえり、ソラ君」
「ただいま」
ファラは満面の笑み。
「ソラヨカッタね!」
マルコは顎を上げ、ニッと笑う。
「第二の”おかえり”だよ、ソラくん。きみが戻れば、教室も少しは華やぐさ。」
ソラは4人をぐるりと見回し、胸の奥で小さく息を吸った。
「みんな……本当に、ただいま。」
その言葉は、自然と笑顔になったソラの顔と一緒に溶け込み、
久しぶりに心から暖かい昼休みが終わった。
特別教室での隔離生活――三日間とはいえ、心細く孤独で、そして何より居心地の悪い時間だった。だが今日の午前、ショーイチロー校長との模擬戦を経て、正式に「問題なし」と判断され、午後から元の教室へ戻れることになった。
その嬉しさは、胸の奥で圧縮されていた空気が一気に弾け飛んだようで、足取りは軽い。
――いや、軽すぎた。
気付けば廊下をスキップしていた。
「……はっ!」
ほんの数歩進んだところで、すれ違った女子生徒にクスクスと笑われる。
「い、今の……見られた……?」
女子生徒は肩を震わせながら、友人と顔を見合わせて笑いながら歩き去っていく。
「ぐぅ……っ。恥ずかしい……」
思わず頬が熱くなり、ソラはそそくさと歩調を整えた。
(いや、でも今日は仕方ないだろ……特別教室からやっと解放だし……それに――)
制服の内ポケットに指を滑り込ませると、硬い感触が指先に触れる。
――Aランク相当の魔石。
ショーイチロー校長が「ご褒美だよ」と言って笑いながら手渡してくれたものだ。
あの模擬戦……というより一方的な教育的指導のような戦闘のことを思い出し、ソラは背筋に寒気を感じつつも胸が熱くなる。
(凄かった……あれがSランク……)
魔石を握りしめ、ソラは食堂へ向かう階段を降りる。
まだ昼休み開始直後で、食堂は比較的空いている。いつもの隅の方のテーブルに座り、仲良くなったボッケ達を待つことにした。
椅子に腰掛けた途端、少しだけ肩の力が抜けた。
(今日は……なんか色々あったな……)
息をついたそのとき、ワイワイと賑やかな声が近づいてくる。
「――おっ、来たかソラ。ここだ」
振り向けば、ボッケ、ファラ、リン、マルコの四人が揃っていた。
「やあ、今日もスープは僕の美貌を反射してさらに美味しさが増している気がしないかい?」
キザったらしく前髪を払ってマルコも席につく。
「ソラ!キョウも、いっしょ タベルよ!」
ファラは元気よくソラに挨拶をし大事そうにトレイを抱えながらすんと座り、
「……お、おまたせ。」
リンは少し俯き気味に、でもちゃんとソラを見て微笑むようにしながら隣へ腰を下ろした。
この光景は、ここ数日ずっと続いていた。
別教室に飛ばされても、毎日この昼だけは同じテーブルに集まっている。
ソラは思わず笑ってしまった。
「みんな、今日もありがとう。」
ボッケは鼻を鳴らす。
「べつにいいだろ。私は好きでここに来ているのだ。」
マルコは肘をつき、ニヤリと流し目。
「そうさ。ランチタイムにソラくんがいないなんて、食堂の花が一輪消えたようなものさ。」
「……そんな大層なものじゃないよ……!」
ファラがコクリと頷く。
「ソラ!みんナデたべるとうまい? よ!ファラ はみんなでたべるのスキ。」
「そうだね、ファラ」
ファラの言葉同意して返す。
そしてソラは、みんなが揃ったのを見計らって切り出す。
「みんなに……言いたいことがあるんだ。午後から、俺……元の教室に戻れることになった!」
スプーンを落としそうになる4人。
「もう戻って来れるのだな!」
ボッケが椅子ごとガタッと前に出る。
「それは……よかったです……!」
リンは胸に手を当てて心底ほっとしたように息をつく。
「ソラがモドル!ファラはベリーウレシ!」
ファラは体ごと左右に揺れて喜び、
「ソラ君と言う光が教室に戻るわけだね?」
マルコはキザポーズで大げさに喜んだ。
4人とも本当に嬉しそうで、ソラは胸が熱くなる。
「で、どうしてなんだ? 何があった?」
ボッケが身を乗り出す。
ソラは頭を掻きながら、苦笑いで答える。
「その……ショーイチロー校長と、模擬戦をしたんだ。」
「……へ?」
一瞬、時が止まった。
次の瞬間、4人は揃って叫んだ。
「「「「えええええええええっ!!?」」」」
食堂中の視線がこちらを向く。
ソラは耳まで赤くしながら説明を続ける。
「言われて……断れなくて。でも、もちろん校長はめちゃくちゃ手加減してくれてたよ。俺は全力だったけど、全然歯が立たなかったし。」
ボッケは頭を抱えた。
「ソラ、そんなのは当たり前だ、……あの”剣聖”だぞ? 。」
「私なんて校長先生に会うだけでも恐れ多いよ……」
リンが呟く。
「ソラツヨイ!カッコイイ!」
ファラの瞳はキラキラと輝いている。
マルコは手を組み、まるで劇場の観客のようにため息をつく。
「まったく……僕たちの中でいちばんドラマチックな青春をしているのは、どうやらソラくんみたいだね。」
「青春ってほどじゃないよ……!」
そんなやりとりで笑い合っていると、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
ボッケが立ち上がり、拳を軽くソラの肩に当てる。
「……まあ、とにかく。戻ってくるなら歓迎だ私たちの教室に」
「うん。ありがとう、ボッケ」
リンは小さく手を振った。
「おかえり、ソラ君」
「ただいま」
ファラは満面の笑み。
「ソラヨカッタね!」
マルコは顎を上げ、ニッと笑う。
「第二の”おかえり”だよ、ソラくん。きみが戻れば、教室も少しは華やぐさ。」
ソラは4人をぐるりと見回し、胸の奥で小さく息を吸った。
「みんな……本当に、ただいま。」
その言葉は、自然と笑顔になったソラの顔と一緒に溶け込み、
久しぶりに心から暖かい昼休みが終わった。
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