55 / 116
一章 契約と回帰
五十一話
しおりを挟む
一方その頃――
ソラとゴーマンが死闘を繰り広げた、街外れの放置された教会では、警備隊の隊員が二人、現場検証を行っていた。
片方は年季の入ったベテラン隊員。無精ひげに刻まれた皺が、これまでくぐってきた修羅場の数を物語っている。
もう一方はまだ若い隊員で、制服も新品に近く、周囲をきょろきょろと落ち着きなく見回していた。
教会の壁は大きく破壊され、床には乾ききらない血の跡、そして外へ続く木々の折れた痕。
明らかに、ただ事ではない戦闘があったことを示している。
若手隊員は一通り現場を見回した後、首を傾げてベテランに問いかけた。
「なあ、先輩。
ゴーマンはもう捕まってるんですよね? だったら、ここまで念入りに調べる必要ってあるんですか?
事件としてはもう終わったようなもんじゃ……」
その問いに、ベテラン隊員は手を止めず、壁の破損具合を確かめながら低い声で答えた。
「……終わった、か。
そう思えるなら、まだお前は若いな」
若手隊員はむっとしつつも、黙って続きを待つ。
ベテランは一度教会の中央を見渡し、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。
「確かにゴーマンは捕まえた。
だがな、あいつはただのチンピラじゃない」
「……学生を攫っていた誘拐犯なんじゃないんですか?」
「それだけじゃない」
ベテランは若手を一瞥し、はっきりと言い切った。
「ゴーマンは、元Bランクパーティのアタッカーだった男だ。
しかもBランクの中でも上位。腕だけならAに手が届いてもおかしくなかった」
若手隊員の目が見開かれる。
「えっ……そんなに、ですか?」
「本人の素行が最悪でな。暴力沙汰、恐喝、規約違反の常習犯。
それでギルドを追放されたが、実力そのものは本物だった」
ベテランは教会の床に残る深い衝撃痕を指差す。
「見ろ。この破壊の仕方。
武器による斬撃じゃない。
魔法の暴走でもない。
ほとんどが素手による打撃だ」
「……素手?」
若手の声が裏返る。
「あり得ませんよ。
ゴーマン相手に、素手で?」
ベテラン隊員は短く鼻で笑った。
「だから調べているんだ」
そして、ゆっくりと言葉を選ぶように付け加える。
「こんな戦い方ができるのは――
Sランク相当と見ていいだろう」
若手隊員は思わず言葉を失う。
「S……ランク……?」
「剣聖や黒影……
あるいは、新たなSランク……かもしれん」
ベテランは一度、教会の破壊された壁を見つめ、静かに続けた。
「いずれにせよ――
こんな戦い方ができるやつはな」
一拍、間を置く。
「まさに悪魔と言ってもいいだろう」
その言葉に、若手隊員の背筋に冷たいものが走った。
「……でも、そんな人物なら、なぜ名乗り出ないんです?」
「そこだ」
ベテラン隊員は頷く。
「ゴーマンを倒せる実力者がいて、
しかも学生誘拐事件の解決に関わっている。
それなのに、誰一人として名乗りを上げていない」
ベテランは静かに結論づける。
「この件はまだ終わっちゃいない。
むしろ――始まったばかりだ」
二人の警備隊員は、無言で教会を後にする。
その背後で、崩れた教会は何も語らぬまま、ただ沈黙を保っていた。
――この街のどこかに、
Sランク相当の“何か”が確かに存在していることを、誰にも知られぬまま。
ソラとゴーマンが死闘を繰り広げた、街外れの放置された教会では、警備隊の隊員が二人、現場検証を行っていた。
片方は年季の入ったベテラン隊員。無精ひげに刻まれた皺が、これまでくぐってきた修羅場の数を物語っている。
もう一方はまだ若い隊員で、制服も新品に近く、周囲をきょろきょろと落ち着きなく見回していた。
教会の壁は大きく破壊され、床には乾ききらない血の跡、そして外へ続く木々の折れた痕。
明らかに、ただ事ではない戦闘があったことを示している。
若手隊員は一通り現場を見回した後、首を傾げてベテランに問いかけた。
「なあ、先輩。
ゴーマンはもう捕まってるんですよね? だったら、ここまで念入りに調べる必要ってあるんですか?
事件としてはもう終わったようなもんじゃ……」
その問いに、ベテラン隊員は手を止めず、壁の破損具合を確かめながら低い声で答えた。
「……終わった、か。
そう思えるなら、まだお前は若いな」
若手隊員はむっとしつつも、黙って続きを待つ。
ベテランは一度教会の中央を見渡し、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。
「確かにゴーマンは捕まえた。
だがな、あいつはただのチンピラじゃない」
「……学生を攫っていた誘拐犯なんじゃないんですか?」
「それだけじゃない」
ベテランは若手を一瞥し、はっきりと言い切った。
「ゴーマンは、元Bランクパーティのアタッカーだった男だ。
しかもBランクの中でも上位。腕だけならAに手が届いてもおかしくなかった」
若手隊員の目が見開かれる。
「えっ……そんなに、ですか?」
「本人の素行が最悪でな。暴力沙汰、恐喝、規約違反の常習犯。
それでギルドを追放されたが、実力そのものは本物だった」
ベテランは教会の床に残る深い衝撃痕を指差す。
「見ろ。この破壊の仕方。
武器による斬撃じゃない。
魔法の暴走でもない。
ほとんどが素手による打撃だ」
「……素手?」
若手の声が裏返る。
「あり得ませんよ。
ゴーマン相手に、素手で?」
ベテラン隊員は短く鼻で笑った。
「だから調べているんだ」
そして、ゆっくりと言葉を選ぶように付け加える。
「こんな戦い方ができるのは――
Sランク相当と見ていいだろう」
若手隊員は思わず言葉を失う。
「S……ランク……?」
「剣聖や黒影……
あるいは、新たなSランク……かもしれん」
ベテランは一度、教会の破壊された壁を見つめ、静かに続けた。
「いずれにせよ――
こんな戦い方ができるやつはな」
一拍、間を置く。
「まさに悪魔と言ってもいいだろう」
その言葉に、若手隊員の背筋に冷たいものが走った。
「……でも、そんな人物なら、なぜ名乗り出ないんです?」
「そこだ」
ベテラン隊員は頷く。
「ゴーマンを倒せる実力者がいて、
しかも学生誘拐事件の解決に関わっている。
それなのに、誰一人として名乗りを上げていない」
ベテランは静かに結論づける。
「この件はまだ終わっちゃいない。
むしろ――始まったばかりだ」
二人の警備隊員は、無言で教会を後にする。
その背後で、崩れた教会は何も語らぬまま、ただ沈黙を保っていた。
――この街のどこかに、
Sランク相当の“何か”が確かに存在していることを、誰にも知られぬまま。
10
あなたにおすすめの小説
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する
うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。
そして、ショック死してしまう。
その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。
屋敷を逃げ出すのであった――。
ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。
スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる