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二章 黒曜麒麟
六十四話
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放課後、皆に事情を話し終えたソラは静かに校舎を歩いていた。
向かう先は魔法薬の実習室。扉の向こうから、薬草を煮詰める独特の匂いが微かに漂ってくる。
――『あの男にも声をかけておけ。』
昨夜、クロがそう言った言葉が頭をよぎる。
ソラは一度深呼吸をしてから、実習室の扉をノックした。
「どうぞ入ってください」
聞き慣れた穏やかな声。
ソラが扉を開けると、ハーデン先生は白衣姿で机に向かい、ポーションの整理をしていた。
「ソラ君。珍しいですね、この時間に」
ソラは一歩前に出ると、深く頭を下げた。
「先生。お願いがあります」
その真剣な様子に、ハーデンは手を止め、表情を改める。
「……顔を上げなさい。まずは話を聞きましょう」
ソラはゆっくりと顔を上げる。
「自分たちと一緒に、Bランクダンジョンに同行してほしいんです」
一瞬、実習室の空気が静まり返った。
ハーデンは目を細め、すぐには答えない。
「……ずいぶん大胆なお願いですね。理由を聞かせてください」
ソラは頷き、すでに何度も心の中で反芻した言葉を、噛み締めるように口にした。
「友達の家族が重い病気らしく……治療には、黒曜麒麟の角が必要なんです」
ハーデンの眉がわずかに動く。
「私は反対ですね。……Bランクダンジョンはベテランのシーカーでも細心の注意を払わなければならない場所です。学生が挑むには余りにも手が余ると思います」
「はい。分かっています。
本来なら学生が挑む相手じゃないことも、命を落とす可能性が高いことも……全部」
それでも、とソラは拳を握り締める。
「それでも、助けたいんです。
自分一人の力じゃ無理でも、仲間がいて、先生がいれば……」
言葉が途切れる。
ソラは再び頭を下げた。
「無茶なお願いだって分かっています。
断っていただいても構いません。……それでも、お願いします」
長い沈黙。
ハーデンは椅子から立ち上がり、ソラの前まで歩いてくる。
その視線は厳しいが、どこか優しさを含んでいた。
「ソラ君」
「はい」
「君は、自分が何を背負おうとしているか分かっていますか?」
「……はい」
「ダンジョンは善意だけでは生き残れません。
才能や努力があっても、運が悪ければ死ぬ」
それでもソラの視線は揺れなかった。
「それでも、行きたいんですね」
「はい」
ハーデンは小さく息を吐き、ふっと笑った。
「……まったく。君は本当に厄介な生徒だ」
ソラは息を呑む。
「理由を聞いてしまった以上、見過ごすわけにもいかない。
生徒が命を懸ける覚悟を決めたのなら、教師としてできることは一つです」
ハーデンは白衣の裾を整え、穏やかだが覚悟の滲む声で言った。
「同行しましょう。条件付きで」
ソラの顔が一気に明るくなる。
「本当ですか!?」
「ええ。ただし私が危険と判断した場合は即撤退。
それと、ダンジョン内では私が指示します。いいですね?」
「はい! ありがとうございます!」
深く頭を下げるソラを見て、ハーデンは苦笑した。
「……君のそういうところが、人を動かすんでしょうね」
実習室の窓から差し込む夕日が、二人の影を長く伸ばしていた。
向かう先は魔法薬の実習室。扉の向こうから、薬草を煮詰める独特の匂いが微かに漂ってくる。
――『あの男にも声をかけておけ。』
昨夜、クロがそう言った言葉が頭をよぎる。
ソラは一度深呼吸をしてから、実習室の扉をノックした。
「どうぞ入ってください」
聞き慣れた穏やかな声。
ソラが扉を開けると、ハーデン先生は白衣姿で机に向かい、ポーションの整理をしていた。
「ソラ君。珍しいですね、この時間に」
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「先生。お願いがあります」
その真剣な様子に、ハーデンは手を止め、表情を改める。
「……顔を上げなさい。まずは話を聞きましょう」
ソラはゆっくりと顔を上げる。
「自分たちと一緒に、Bランクダンジョンに同行してほしいんです」
一瞬、実習室の空気が静まり返った。
ハーデンは目を細め、すぐには答えない。
「……ずいぶん大胆なお願いですね。理由を聞かせてください」
ソラは頷き、すでに何度も心の中で反芻した言葉を、噛み締めるように口にした。
「友達の家族が重い病気らしく……治療には、黒曜麒麟の角が必要なんです」
ハーデンの眉がわずかに動く。
「私は反対ですね。……Bランクダンジョンはベテランのシーカーでも細心の注意を払わなければならない場所です。学生が挑むには余りにも手が余ると思います」
「はい。分かっています。
本来なら学生が挑む相手じゃないことも、命を落とす可能性が高いことも……全部」
それでも、とソラは拳を握り締める。
「それでも、助けたいんです。
自分一人の力じゃ無理でも、仲間がいて、先生がいれば……」
言葉が途切れる。
ソラは再び頭を下げた。
「無茶なお願いだって分かっています。
断っていただいても構いません。……それでも、お願いします」
長い沈黙。
ハーデンは椅子から立ち上がり、ソラの前まで歩いてくる。
その視線は厳しいが、どこか優しさを含んでいた。
「ソラ君」
「はい」
「君は、自分が何を背負おうとしているか分かっていますか?」
「……はい」
「ダンジョンは善意だけでは生き残れません。
才能や努力があっても、運が悪ければ死ぬ」
それでもソラの視線は揺れなかった。
「それでも、行きたいんですね」
「はい」
ハーデンは小さく息を吐き、ふっと笑った。
「……まったく。君は本当に厄介な生徒だ」
ソラは息を呑む。
「理由を聞いてしまった以上、見過ごすわけにもいかない。
生徒が命を懸ける覚悟を決めたのなら、教師としてできることは一つです」
ハーデンは白衣の裾を整え、穏やかだが覚悟の滲む声で言った。
「同行しましょう。条件付きで」
ソラの顔が一気に明るくなる。
「本当ですか!?」
「ええ。ただし私が危険と判断した場合は即撤退。
それと、ダンジョン内では私が指示します。いいですね?」
「はい! ありがとうございます!」
深く頭を下げるソラを見て、ハーデンは苦笑した。
「……君のそういうところが、人を動かすんでしょうね」
実習室の窓から差し込む夕日が、二人の影を長く伸ばしていた。
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