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二章 黒曜麒麟
九十四話
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ソラとボッケは同時に前へと踏み出した。
二人は言葉を交わすことなく、自然と左右に散開する。
「行くぞっ!」
ボッケが低く叫び、重い一撃を叩き込む。
棍棒が唸りを上げ、黒曜麒麟の側面へと叩きつけられた。
――ガンッ!!
鈍く、硬質な音が戦場に響く。
しかし、手応えは薄い。
黒曜麒麟の皮膚は、見た目通り黒曜石のように硬く、鋼鉄をも上回る耐久力を誇っていた。
「くっ!硬すぎる……!」
続いてソラが剣を振るう。だが――
刃は弾かれ、わずかな火花を散らすだけ。
確かに当たっている、だがほとんど傷にはなっていない。
(やっぱり……正面から削り切れる相手じゃない!)
黒曜麒麟は二人の存在を明確な敵と認識し、低く唸り声を上げる。
次の瞬間、蹄が地面を踏みしめ、巨体が大きく動こうとした。
反撃――
一撃でもまともに受ければ、ただでは済まない。
その刹那。
「――アースロック!」
ハーデンの声が響くと同時に黒曜麒麟の足元が一気に隆起する。
土が絡みつくように盛り上がり、蹄を包み込んだ。
「グォオォ……!」
黒曜麒麟の動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
拘束は完全ではない。
せいぜい五秒――いや、それ以下だろう。
だが、その一瞬が、前衛にとっては十分すぎる時間だった。
「退くぞ!」
ソラが叫ぶと同時に、二人は即座に動く。
黒曜麒麟の正面を離れ、反撃の軌道から外へと跳ぶ。
次の瞬間、土の拘束を引きちぎるように黒曜麒麟が暴れるが、
巨大な体が空を切る。
もし、あの場に留まっていたなら――
確実に致命打だった。
「ナイス!先生!」
ソラが息を切らしながら叫ぶ。
ハーデンは短く頷き、すぐに次の魔法の準備へと入る。
(通じない攻撃、短い拘束……だが、それでもいい)
削る必要はない。
倒す必要も、今はない。
時間を稼ぐこと――
それこそが、この場で自分たちに課せられた役割なのだから。
ユナは胸の奥で強い違和感を覚えていた。
(……効いていない)
先ほど放った氷の槍。
確かに黒曜麒麟を大きく吹き飛ばした。
だが、それだけだ。
当たったはずの角には――
ひび一つ、入っていない。
見た目の派手さとは裏腹に、決定打には程遠い。
その事実が、じわじわとユナの心を締めつける。
(どうして……)
どうしても、どうしても手に入れたいものがある。
母を救うために必要な、黒曜麒麟の角。
それが今、目の前にあるのに――
届かない。
焦りと黒曜麒麟の放つ圧倒的な存在感と混ざり合い、
ユナの集中力を少しずつ削っていく。
空気が重い。
呼吸が浅くなる。
黒曜麒麟に向けた手が、わずかに震え始めた。
(外せない……)
外してはいけない。
せめて、少しでも近くに――。
ユナは無意識のうちに、ほんの一歩、また一歩と前へ進んでいた。
それはハーデンですら気づかなかったほど、僅かな動きだった。
だが――
黒曜麒麟の攻撃を回避したその瞬間、ソラの視界にユナの姿が映る。
ほんの一瞬。
だが、十分だった。
(……危ない)
ユナの表情は、わずかに強張っている。
そして、これ以上前へ出れば――
黒曜麒麟の攻撃範囲に入る。
ソラの直感が、はっきりと警鐘を鳴らした。
ソラは着地と同時に体勢を立て直し、思わず声を張り上げる。
「大丈夫! 必ず上手くいく!」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
それでも、その声は確かに戦場に響いた。
その言葉は、波紋のように仲間たちへ伝わっていく。
(そうだ……)
(ここで気持ちで負けたら終わりだ)
特に黒曜麒麟と正面で対峙している者たちは、
その言葉に背中を押されるように、再び意識を奮い立たせた。
ユナもまた、ソラの声を聞いて、ふっと小さく息を吐く。
(……そうだ)
まだ、負けているわけじゃない。
一撃で決められなくてもいい。
ゆっくりでも、確実に。
攻撃を当て続ければ――
(大丈夫。必ず、上手くいく)
そう自分に言い聞かせた瞬間、
手の震えが、嘘のように止まった。
ユナの瞳に、再び静かな光が宿る。
二人は言葉を交わすことなく、自然と左右に散開する。
「行くぞっ!」
ボッケが低く叫び、重い一撃を叩き込む。
棍棒が唸りを上げ、黒曜麒麟の側面へと叩きつけられた。
――ガンッ!!
鈍く、硬質な音が戦場に響く。
しかし、手応えは薄い。
黒曜麒麟の皮膚は、見た目通り黒曜石のように硬く、鋼鉄をも上回る耐久力を誇っていた。
「くっ!硬すぎる……!」
続いてソラが剣を振るう。だが――
刃は弾かれ、わずかな火花を散らすだけ。
確かに当たっている、だがほとんど傷にはなっていない。
(やっぱり……正面から削り切れる相手じゃない!)
黒曜麒麟は二人の存在を明確な敵と認識し、低く唸り声を上げる。
次の瞬間、蹄が地面を踏みしめ、巨体が大きく動こうとした。
反撃――
一撃でもまともに受ければ、ただでは済まない。
その刹那。
「――アースロック!」
ハーデンの声が響くと同時に黒曜麒麟の足元が一気に隆起する。
土が絡みつくように盛り上がり、蹄を包み込んだ。
「グォオォ……!」
黒曜麒麟の動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
拘束は完全ではない。
せいぜい五秒――いや、それ以下だろう。
だが、その一瞬が、前衛にとっては十分すぎる時間だった。
「退くぞ!」
ソラが叫ぶと同時に、二人は即座に動く。
黒曜麒麟の正面を離れ、反撃の軌道から外へと跳ぶ。
次の瞬間、土の拘束を引きちぎるように黒曜麒麟が暴れるが、
巨大な体が空を切る。
もし、あの場に留まっていたなら――
確実に致命打だった。
「ナイス!先生!」
ソラが息を切らしながら叫ぶ。
ハーデンは短く頷き、すぐに次の魔法の準備へと入る。
(通じない攻撃、短い拘束……だが、それでもいい)
削る必要はない。
倒す必要も、今はない。
時間を稼ぐこと――
それこそが、この場で自分たちに課せられた役割なのだから。
ユナは胸の奥で強い違和感を覚えていた。
(……効いていない)
先ほど放った氷の槍。
確かに黒曜麒麟を大きく吹き飛ばした。
だが、それだけだ。
当たったはずの角には――
ひび一つ、入っていない。
見た目の派手さとは裏腹に、決定打には程遠い。
その事実が、じわじわとユナの心を締めつける。
(どうして……)
どうしても、どうしても手に入れたいものがある。
母を救うために必要な、黒曜麒麟の角。
それが今、目の前にあるのに――
届かない。
焦りと黒曜麒麟の放つ圧倒的な存在感と混ざり合い、
ユナの集中力を少しずつ削っていく。
空気が重い。
呼吸が浅くなる。
黒曜麒麟に向けた手が、わずかに震え始めた。
(外せない……)
外してはいけない。
せめて、少しでも近くに――。
ユナは無意識のうちに、ほんの一歩、また一歩と前へ進んでいた。
それはハーデンですら気づかなかったほど、僅かな動きだった。
だが――
黒曜麒麟の攻撃を回避したその瞬間、ソラの視界にユナの姿が映る。
ほんの一瞬。
だが、十分だった。
(……危ない)
ユナの表情は、わずかに強張っている。
そして、これ以上前へ出れば――
黒曜麒麟の攻撃範囲に入る。
ソラの直感が、はっきりと警鐘を鳴らした。
ソラは着地と同時に体勢を立て直し、思わず声を張り上げる。
「大丈夫! 必ず上手くいく!」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
それでも、その声は確かに戦場に響いた。
その言葉は、波紋のように仲間たちへ伝わっていく。
(そうだ……)
(ここで気持ちで負けたら終わりだ)
特に黒曜麒麟と正面で対峙している者たちは、
その言葉に背中を押されるように、再び意識を奮い立たせた。
ユナもまた、ソラの声を聞いて、ふっと小さく息を吐く。
(……そうだ)
まだ、負けているわけじゃない。
一撃で決められなくてもいい。
ゆっくりでも、確実に。
攻撃を当て続ければ――
(大丈夫。必ず、上手くいく)
そう自分に言い聞かせた瞬間、
手の震えが、嘘のように止まった。
ユナの瞳に、再び静かな光が宿る。
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