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二章 黒曜麒麟
九十五話
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カイトたちを救出し終えたメンバーが、戦闘へ参加する。
もはや迷いはない。
ここは退路ではなく、決着の場だ。
テナが一歩踏み込み、腰を落とす。
「――はぁっ!」
鋭い気合とともに放たれた正拳突きが、黒曜麒麟の胴へと叩き込まれる。
重い衝撃音。硬い手応え。
それでも拳は確かに、内部へと衝撃を伝えていた。
続けざまに、ボッケとソラが左右から斬り込む。
二振りの剣が交差し、
火花を散らしながら黒曜麒麟の黒曜石の皮膚を削る。
深くはない。
だが、確実に――傷は増えていく。
ユナは精度を重視した氷魔法を連続で放つ。
氷の弾丸が黒曜麒麟の足元や側面そして角を狙って放たれる。
そして黒曜麒麟がそれらを避けようとした先でファラの手裏剣が風を切って飛ぶ。
関節、首元、視界の端――
嫌がらせのように、確実に命中していく。
どの攻撃も、一撃で決める力はない。だが――
その一つ一つが、確実に“蓄積”していた。
加えて、先ほどカイトたちのパーティと戦った際のダメージ。
黒曜麒麟の体には、もはや誤魔化せないほどの傷が浮かび始めている。
黒い皮膚の下から、僅かだが血が滲み出す。
(……面倒だ)
黒曜麒麟は本能的にそう判断した。
このまま削られ続ければ、
いずれ自分が不利になる。
ならば――一度、場をリセットする。
角に魔力が集まり始め、空気が震える。
再び、無作為の雷を放とうする。
だが――
「させません!」
ハーデンの声と同時に、大地が応える。
「アースイーター!!」
地面が隆起し、巨大な土の怪物が口を開く。
放たれた雷は、そのまま吸い込まれ――
ドンッ、と鈍い音を立てて霧散した。
二度目の不発。
完全な妨害。
黒曜麒麟の胸の奥に、
言葉にならない感情が渦巻く。
煩わしい
忌々しい
小さな存在のはずの人間たちが、なぜここまで――。
その感情が、ついに“本能”を刺激する。
(……仕方がない)
黒曜麒麟は、地を踏みしめる。
それは怒りでも焦りでもない。
純粋な判断だった。
使うつもりはなかった、自身のもう一つの切り札。
だが今は――
使う価値がある。
黒曜麒麟は、静かに魔力の流れを変えた。
それはソラだけが感じ取れるような曖昧なものではない。
この場にいる全員がはっきりと“異変”として認識できるほどの魔力が、黒曜麒麟の全身を覆い始めた。
黒い皮膚の上を、青白い光が這う。
パチ、パチ、と乾いた音が鳴り、空気が焦げたような匂いを帯びる。
「……雷を、纏ってる?」
誰かが呟いた言葉が、戦場に落ちる。
次の瞬間だった。
黒曜麒麟が、ハーデンを真正面から見据え――
地を蹴った。
「っ――速い!」
先ほどまでとは明らかに違う。
雷を纏ったことで、身体能力が跳ね上がっている。
狙いは一点。
自身の切り札の一つの雷を封じてきた存在――ハーデン。
ハーデンは狙いが自分だと即座に判断し、地面に手を叩きつける。
「アースイーター!!」
大地が隆起し、砂と土が渦を巻く。
巨大な口を持つ土の怪物が姿を現し、突進してくる黒曜麒麟を丸ごと飲み込んだ。
一瞬、安堵が走る。
――だが。
次の瞬間、内部から雷光が迸った。
ズガァンッ!!
アースイーターの胴体が内側から裂け、
黒曜麒麟が食い破るようにして飛び出してくる。
「なっ……!」
土の怪物は悲鳴を上げる暇もなく崩壊し、ただの土塊へと還る。
止まらない。
黒曜麒麟は速度を落とすことなく、そのまま突進を続ける。
「……っ!」
ハーデンは歯を食いしばり、連続で魔法を展開する。
地面が再び震え、
一枚、二枚、三枚――石の壁が連なって出現し、ハーデンの前に立ちはだかる。
だが、雷を纏った黒曜麒麟はそれらを障害物とすら認識していない。
ドンッ!
ガガガガッ!!
最初の壁が粉砕され、
次の壁も、衝撃で亀裂が走り崩れ落ちる。
石片が宙を舞い、視界が白く弾ける。
「くっ……!」
ハーデンは、紙一重で黒曜麒麟の突進をかわした。
だが、黒曜麒麟が纏った雷の余波までは避けきれなかむた。
バチッ、と乾いた音と共に衝撃がハーデンの全身を貫いた。
「……っ!」
視界が一瞬、白く弾ける。
避けた先で体勢を立て直すこともできず、ハーデンの身体はそのまま地面へと転がった。
外傷はない。
だが、体の奥深くまで雷が染み込んだような感覚が残り、まともに体が言うことをきかない。
――動けない。
「先生!」
ソラたちが駆け出そうとするが、黒曜麒麟はすでに体勢を立て直していた。
雷光をまとった巨体が向きを変え、再びハーデンへと狙いを定める。
速い。
あまりにも、速い。
誰もが理解してしまった。
――間に合わない。
その瞬間だった。
ハーデンが地に倒れたその瞬間から、
まるでこの展開を予見していたかのように、ひとりの男が静かに準備していた。
「……来い」
マルコの足元から、水が噴き上がる。
膨大な水が渦を巻き、形を成し、
やがて――人の上半身を模した“何か”が現れた。
マルコの体と繋がれた、全高三メートルほどの水の巨人。
「水の魔神――!」
次の瞬間。
水の魔神の拳が唸りを上げ、
突進してきた黒曜麒麟を横から殴りつける。
ゴォンッ!!
重く、鈍い衝撃音が響き、
黒曜麒麟の巨体が僅かに横へと吹き飛ばされた。
「――っ!?」
予想外の強襲に、黒曜麒麟の動きが止まる。
その隙を逃さず水の魔神がさらに一歩踏み込み、
追撃の拳を叩き込もうとする。
雷光と水飛沫が激しくぶつかり合い、戦場が白く染まる。
「今だ!」
ソラは叫び、迷わず駆け出した。
ハーデンのもとへ辿り着くと、その身体を抱え起こす。
「……すまない……」
かすれた声に、ソラは首を振る。
「いいから、今は下がりましょう」
ソラはハーデンを支えながら、
マルコが切り開いた一瞬の安全地帯を使い、階段へと向かって歩き出す。
その背後では――
水の魔神と黒曜麒麟が、激しく激突していた。
もはや迷いはない。
ここは退路ではなく、決着の場だ。
テナが一歩踏み込み、腰を落とす。
「――はぁっ!」
鋭い気合とともに放たれた正拳突きが、黒曜麒麟の胴へと叩き込まれる。
重い衝撃音。硬い手応え。
それでも拳は確かに、内部へと衝撃を伝えていた。
続けざまに、ボッケとソラが左右から斬り込む。
二振りの剣が交差し、
火花を散らしながら黒曜麒麟の黒曜石の皮膚を削る。
深くはない。
だが、確実に――傷は増えていく。
ユナは精度を重視した氷魔法を連続で放つ。
氷の弾丸が黒曜麒麟の足元や側面そして角を狙って放たれる。
そして黒曜麒麟がそれらを避けようとした先でファラの手裏剣が風を切って飛ぶ。
関節、首元、視界の端――
嫌がらせのように、確実に命中していく。
どの攻撃も、一撃で決める力はない。だが――
その一つ一つが、確実に“蓄積”していた。
加えて、先ほどカイトたちのパーティと戦った際のダメージ。
黒曜麒麟の体には、もはや誤魔化せないほどの傷が浮かび始めている。
黒い皮膚の下から、僅かだが血が滲み出す。
(……面倒だ)
黒曜麒麟は本能的にそう判断した。
このまま削られ続ければ、
いずれ自分が不利になる。
ならば――一度、場をリセットする。
角に魔力が集まり始め、空気が震える。
再び、無作為の雷を放とうする。
だが――
「させません!」
ハーデンの声と同時に、大地が応える。
「アースイーター!!」
地面が隆起し、巨大な土の怪物が口を開く。
放たれた雷は、そのまま吸い込まれ――
ドンッ、と鈍い音を立てて霧散した。
二度目の不発。
完全な妨害。
黒曜麒麟の胸の奥に、
言葉にならない感情が渦巻く。
煩わしい
忌々しい
小さな存在のはずの人間たちが、なぜここまで――。
その感情が、ついに“本能”を刺激する。
(……仕方がない)
黒曜麒麟は、地を踏みしめる。
それは怒りでも焦りでもない。
純粋な判断だった。
使うつもりはなかった、自身のもう一つの切り札。
だが今は――
使う価値がある。
黒曜麒麟は、静かに魔力の流れを変えた。
それはソラだけが感じ取れるような曖昧なものではない。
この場にいる全員がはっきりと“異変”として認識できるほどの魔力が、黒曜麒麟の全身を覆い始めた。
黒い皮膚の上を、青白い光が這う。
パチ、パチ、と乾いた音が鳴り、空気が焦げたような匂いを帯びる。
「……雷を、纏ってる?」
誰かが呟いた言葉が、戦場に落ちる。
次の瞬間だった。
黒曜麒麟が、ハーデンを真正面から見据え――
地を蹴った。
「っ――速い!」
先ほどまでとは明らかに違う。
雷を纏ったことで、身体能力が跳ね上がっている。
狙いは一点。
自身の切り札の一つの雷を封じてきた存在――ハーデン。
ハーデンは狙いが自分だと即座に判断し、地面に手を叩きつける。
「アースイーター!!」
大地が隆起し、砂と土が渦を巻く。
巨大な口を持つ土の怪物が姿を現し、突進してくる黒曜麒麟を丸ごと飲み込んだ。
一瞬、安堵が走る。
――だが。
次の瞬間、内部から雷光が迸った。
ズガァンッ!!
アースイーターの胴体が内側から裂け、
黒曜麒麟が食い破るようにして飛び出してくる。
「なっ……!」
土の怪物は悲鳴を上げる暇もなく崩壊し、ただの土塊へと還る。
止まらない。
黒曜麒麟は速度を落とすことなく、そのまま突進を続ける。
「……っ!」
ハーデンは歯を食いしばり、連続で魔法を展開する。
地面が再び震え、
一枚、二枚、三枚――石の壁が連なって出現し、ハーデンの前に立ちはだかる。
だが、雷を纏った黒曜麒麟はそれらを障害物とすら認識していない。
ドンッ!
ガガガガッ!!
最初の壁が粉砕され、
次の壁も、衝撃で亀裂が走り崩れ落ちる。
石片が宙を舞い、視界が白く弾ける。
「くっ……!」
ハーデンは、紙一重で黒曜麒麟の突進をかわした。
だが、黒曜麒麟が纏った雷の余波までは避けきれなかむた。
バチッ、と乾いた音と共に衝撃がハーデンの全身を貫いた。
「……っ!」
視界が一瞬、白く弾ける。
避けた先で体勢を立て直すこともできず、ハーデンの身体はそのまま地面へと転がった。
外傷はない。
だが、体の奥深くまで雷が染み込んだような感覚が残り、まともに体が言うことをきかない。
――動けない。
「先生!」
ソラたちが駆け出そうとするが、黒曜麒麟はすでに体勢を立て直していた。
雷光をまとった巨体が向きを変え、再びハーデンへと狙いを定める。
速い。
あまりにも、速い。
誰もが理解してしまった。
――間に合わない。
その瞬間だった。
ハーデンが地に倒れたその瞬間から、
まるでこの展開を予見していたかのように、ひとりの男が静かに準備していた。
「……来い」
マルコの足元から、水が噴き上がる。
膨大な水が渦を巻き、形を成し、
やがて――人の上半身を模した“何か”が現れた。
マルコの体と繋がれた、全高三メートルほどの水の巨人。
「水の魔神――!」
次の瞬間。
水の魔神の拳が唸りを上げ、
突進してきた黒曜麒麟を横から殴りつける。
ゴォンッ!!
重く、鈍い衝撃音が響き、
黒曜麒麟の巨体が僅かに横へと吹き飛ばされた。
「――っ!?」
予想外の強襲に、黒曜麒麟の動きが止まる。
その隙を逃さず水の魔神がさらに一歩踏み込み、
追撃の拳を叩き込もうとする。
雷光と水飛沫が激しくぶつかり合い、戦場が白く染まる。
「今だ!」
ソラは叫び、迷わず駆け出した。
ハーデンのもとへ辿り着くと、その身体を抱え起こす。
「……すまない……」
かすれた声に、ソラは首を振る。
「いいから、今は下がりましょう」
ソラはハーデンを支えながら、
マルコが切り開いた一瞬の安全地帯を使い、階段へと向かって歩き出す。
その背後では――
水の魔神と黒曜麒麟が、激しく激突していた。
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