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1章 五人の勇者
駆け寄る少女
しおりを挟む昨日あれから部屋に戻った俺はすぐに眠ることが出来た。
何時に眠ったかは覚えて居ない。
環境の違いでなんだか疲れが溜まっていたのだろう。
しかもアイツらと違って俺は孤独だしな!ふはは!
目が覚めて時計を見ると、時刻は7時過ぎ。
この世界と元いた世界とは時間の概念が同じみたいだ。
それに何だかんだ習慣というのは体が覚えているみたいで、いつもの時間に目が覚めた様だ。
この世界に来てから初めて朝の目覚めを迎えたが、元いた世界で生活していた自分の部屋より10倍以上ある客室での目覚めは案外いいものでは無かった。
部屋を出るとメイドが待っていたかように出迎えてくれた。
いや、実際に待ってくれて居たんだと思う。
恐らく50歳近いであろう年季の入ったメイドさんに食事場へと案内してもらった。
────────
「雄星!このケーキ凄く美味しいよ!ティラミスみたい!」
と由梨がスプーンでそれをすくえば
「どれどれ……パクッ……うん!甘くておいしい」
その手を優しく掴み、自分の口に入れて雄星は言う。
「~~か、間接キス……」
「嫌だったかな?」
「嫌じゃないよ!全然嫌な訳ないよ!」
由梨がブンブンと頭を振りながらそう答えれば
「うん、良かった」
雄星は彼女の頭を撫でながらそう言った。
由梨は顔を真っ赤にして俯く。
すると隣の席に座る美咲は
「雄星、私からも、はいあ~ん」
と自身のケーキを差し出す。
「あ~ん……うん!おいしい!」
と差し出されたデザートを雄星は口に入れた。
「ほ~ら穂花ちゃんも、その美味しそうなアイス雄星に食べさせてあげたら?」
「え?!美咲さん?!私は良いよ!恥ずかしいし!」
「またまた照れちゃって~」
「照れなくても良いのにーねぇ雄星?」
「やれやれ全くだよ」
……
………
俺は食堂の入り口付近に居る。
ついさっき到着したばかりだ。
俺はこの位置であいつらを殺してやらんばかりに睨み付けている。ムカツクから。
時間被ってんのかよ、阿保どもが!……もっと早く起きれば良かった。
俺は嫉妬に狂った気持ちで奴らを充分睨んだ後、用意されていた椅子へと案内された。
メイドさんは、そんな俺を見て苦笑いするしか無かったと言う。
俺は朝からブルーな気分になりながらも、4人組からできるだけ離れたテーブルへと着く。
向こうは完全にこちらを意識してない様だ(特に雄星)
料理の注文はここまで案内してくれたメイドさんが、席に座ったタイミングで聞いてくる。
俺は見慣れない料理名がどんな物なのか説明を受けながら時間を掛けて注文を済ませた。
説明がわかり易かったこともあり、ある程度の料理については覚えたので次回からはこんなに時間は掛からないと思う。
注文が来るまで暇そうな俺に、メイドさんがいろいろ話をしてくれた。
昨日までの堅苦しい話ではなく、世間話や自分の子供の話。
メイドさんはダイアナという名前で、第一印象が凄く優しそうな方だ。
お子さんは女性が二人と男性が一人。
三人とも既に成人していて、王城とは別の場所にそれぞれ就職しているとの事。
昨日まで威圧感たっぷりの謁見があったり、第二王女に愚痴られたり小馬鹿にされたり散々だったが、ダイアナさんとの心温まるやり取りのおかげで少し穏やかな気分になれた。
それから出来上がった料理を持って来ると言う事でダイアナさんが一旦側を離れて行く。
そんな時だった。
パタパタッ──
誰かこっちに駆け寄ってくる足音が聞こえた。
それが雄星たちがきゃっきゃしてる場所からやって来る足音だったので、意外に思いながらも顔を上げた。
……やって来たのは、あの中で唯一面識のある人物。橘穂花だった。
「お、おはようございます!松本孝志さん!」
若干ニヤニヤしながら、加えておかしなテンションで彼女は挨拶をしてきた。
「お、おう、おはよう」
突然の事に思わずどもりながらもそう返した。
確かに橘穂花の事を俺は良く知っている……というか最近はほぼ毎日の様に弘子を訪ねて家に遊びに来ているから、もはや彼女の顔を見掛けるのは日常風景となってるくらいだ。
それでも弘子と一緒に居る時しか会ってないし、それ以前に彼女とまともに会話したのは今が初めてだった。
一応、互いに顔を合わせれば挨拶くらいは交わしてるのだが、2人きりで挨拶したりこんな面と向かったのはしない。
いつも礼儀正しく、弘子と遊ぶ時も騒いだり迷惑な事をしないので良い子だとは思うんだけど……な、なんのようだろうか?
いろいろ思考していると彼女はこう言ってきた。
「き、きょ、今日は良い天気ですねっ!」
「ん?天気?」
て、天気?!そうか!天気の話がしたいのか!……いやなんでだ?!
そう思いつつも、言われて今日はまだ外を見ていない事に気がつく。
とりあえず話を合わせる為、徐に窓から見える外に目を向けると……雨が降っていた。
………うん!まぁそうだな!良い天気だ!雨が良い天気って言う人も居るよね!
すると、まるで彼女もいま初めて外を見たかの様にアワアワし出したのだった。
「えぇ!?雨!?い、いや!これはですね!───」
「穂花、こっち来なよ、ごはん冷めちゃうよ?」
未だ落ち着かない橘穂花の声を遮るように雄星が離れた場所から彼女に声を掛ける。
「………うん!お兄ちゃんわかった今行くよ~」
なんかすごい間があった気がしたけどなんか有ったのだろうか?
雄星に返事をした後、再びこちらに顔を向けた。
そして花が咲いた様な満面の笑みを浮かべると
「それでは!」
と一つ敬礼をして去って行った。
彼女が去った後に入れ違いで届いた料理を食べながら、さっきの天気の話題は実は何か深い意味ではないかと考えてみた。
……
………
…………
何も思いつかなかった。
真面目で大人しい印象の彼女にこんな一面が有ったんだなと思い、俺は少し思い出し笑いをしながら朝食を食べ続けた。
そして雄星達の席へ戻った橘穂花はずっとニヤついているのだったが、あえて雄星達に意識を向けていない孝志がそれに気付くことはない。
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