普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

文字の大きさ
8 / 217
1章 五人の勇者

変わり者

しおりを挟む


橘達は過ぎ去り穂花ちゃんと残念な別れ方をした俺はユリウスさんと、そして何故かマリア王女も一緒に広い室内訓練所を東側へと向かい歩いている。
マリア王女には是非お兄様の所にでも行って欲しいが……なに?俺に構って欲しいの?

そしてこの室内訓練所はかなりの広さで、西側へと向かっている穂花ちゃん達が小さく見えるくらいだ。
ぶっちゃけ何をしているのか解らないレベルで小さく見えてる。

距離がそれ程に離れた所でユリウスさんがこちらを向き話を始めた。


「いや~さっきは済まなかったね。我慢できずに吹き出してしまったんだよな、ハハッ」

いやもう忘れろや……っ!


「気にしてないですよ。なんかあっちの世界の漫画でそう言うとステータスが表示されるのを見たんで、ついそう言ってしまっただけですんで」

「そうか!気にして無いか!孝志君はさっぱりした良い性格だな」

ユリウスは感心した様に頷きながら孝志にそう言った。


「はい。なので自分が居た世界にある漫画を知らないユリウスさんから僕を見たら、さぞ滑稽だったでしょうね!ハハッ!」

「お?」

「ですので先程の事は、全然、全く、これっぽっちも、気にしてないっすよ!ワハハ」

「いや絶対気にしてるじゃないか!みみっちいなおい!笑」

ユリウスは予想外の孝志の返答に驚き声を上げるが、孝志の表情などを見て笑いながら返した。
言ってる事とは裏腹にまったく気にした様子では無かったからだ。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


      ~ユリウス視点~

さっき笑ってしまったあの時の発言や、今の返答なんかを見てユリウスは大まかにだが孝志の性格を掴んだ。
言動は兎も角、自分が思った通りさっぱりした性格の様だ。

そして、はっきり言うとその性格は自分としてはかなり相性が良い。
なんせ自分はアットホームな師弟関係を築きたいと思っているからだ。

正直、今まで訓練をつけてきた者たちは皆かなりの堅物揃いだった。
それは騎士としての教育を受けてきた彼らにしては当然だろう。加えて自分は王国最強騎士で【剣帝】と称されるユリウス・ギアートなのだ、堅物にもなるだろうな。
むしろ孝志のように来る方がどうかしている。

だからこそ、今までの教え子達は強い尊敬の念を抱き萎縮し心を開いてくれなかった。
……アリアンはいろんな意味で例外だが。


昨日はせっかくアリアンに勇者教育を丸投げできたのに、孝志が自分を指名した時には面倒だと思った。
しかし普通の人間の神経があるなら、あの時のアリアンを見て彼女に指導して欲しいとは絶対に思わない筈だ。
なので面倒だと思いはしたが『そうだよな』という気持ちの方が大きかったりもした。

あと橘雄星の妹の橘穂花もアリアンを見て凄い怯えてたな……ほんとは嫌なのだろうが、まぁ、どんまいだな!
中岸由梨と奥本美咲は雄星しか見ていないみたいだったが・・今回の勇者達は大丈夫か?

自分も彼らが呼び出されるまで他の勇者は年老いてからの前勇者しか知らず、なので彼の若い時も知らないが、流石にこんな感じにはならなかったろう。
なんか男友達と3人で来たと言ってたし(超健全)


ただ、実力はまだ解らず細かく彼を知っている訳では無いが、孝志となら上手くやっていけそうに思える。

何故なら彼からは惹きつけられる何かを感じた。
それは英雄としてのカリスマとか戦士としての勇猛さではないが、人として信頼出来そうな、話しかけ易かったり、何故かそういった魅力がある。
出会って間もないのにそう感じたのだからこの人当たりの良さも彼の才能と充分言えるだろう。



「それじゃ最初にステータスカードを見せて貰えるか?」

みみっちいと言った事を根に持ってそうな顔だが、大人しくカードを差し出してくれた。

するとさっきまで黙ってついて来ているだけだった第二王女がしれっと近付いて来る。
さっきから第二王女の様子を伺っていたが、橘穂花と彼が話してる最中に何度かこっそり覗こうとしていた。
その度に孝志が見えない様にブロックしていたんだけど。

今度は正々堂々と見る様だ。
普通に声を掛けて見せて貰えば良かったと思うが……今は普通に見ようとしている第二王女を見て、孝志は嫌そうにしている……あんたら仲悪いのか?

孝志には悪いが立場上、無下には出来ないので第二王女にも見やすい位置でステータスカードを確認する事にした。


「うぉっ、腕力と速度がFか……魔力も低いから魔術師って感じでも無いし……おっ、知力がスゲェ高いな」

孝志は小声だったので上手く聞き取れなかった様子だが、腕力と速度がFと言っている所はしっかりと聴こえていたらしくピクッと反応した……いや~分かり易くて面白いな彼。

そしてユリウスはそのままの流れで能力値の最後の項目に目を移した。


「せ、精神がSランク?!ま、まじかよっ……」

流石の自分もこれには驚愕し、一緒に見ていた第二王女も目を丸くしていた。


因みに、孝志は精神がSランクである事を『所詮は精神力』だからと軽く考えていた。

確かに、精神はステータスの中では一番評価し難い項目である事は間違いない、だが最初からランクがSとなれば話は全く別である。
加えて精神と抵抗は他の能力に比べて修練方法が限られており、上昇し難い能力だ。
他の能力値なら自分でもSランクに到達している能力はあるし、アリアンにもある。
だが精神がSというのは自分だけではなく、そもそも精神がSランクなんて聞いた事がない。
しかも一切の鍛錬なしでこれなのだ。

もしかしたらあちらの世界で彼は過酷な環境に居たのかもしれない。
とてもそうは見えないが気になったので聞いてみる事にした。


「孝志くんはあちらの世界で特殊な環境だったりしたか?」

「いえ、普通の男子高校生でしたよ。あっ、でも飲食店で接客のアルバイトをしていました。ヤバい常連客がいたりして大変だったので冷静に考えたら精神がSになってもおかしくないと思います。週5でしたし」

「特に何にも無さそうだな。そうなると君の精神が異様に高いのはこの《???》のスキル項目が原因だろうな」

俺は精神のランクを見た直後に目に付いた孝志のスキルについて語る。
恐らくはこれが精神をSランクにしている要因の一つなんだろう。


「いえ、ですからバイト……」

「…真面目に話そうか?」

「はい」

素直かよ…だったら最初から真面目に聞いて欲しいだけど…
一応、彼に聞く姿勢ができたようなので詳しく説明をする。


「スキルと能力値は比例するんだよ。狩人や槍術を得意とするスキルを所持している者は速度の能力値が高かったり、戦士や格闘家系統のスキル保持者だと腕力が元々高かったり、上がりやすかったりな」

彼も真剣に話を聞き入ってる様なので話を続ける。


「そして精神が高いと優秀な精神干渉系のスキルを覚えるからな」

「おお!マジですか!」

最後まで聴き終えると孝志は嬉しそうに言った。
《???》という表記であるという事は、初めて発現したスキルという事だ。

俺自身もどういったスキルか楽しみにしている。


──────────


「それでは修練を始めようか」

「はい…よろしくお願いします」

凄く嫌そうな顔で彼は返事をした。
全然乗り気じゃないね、はは。


「どんな武器を覚えたい?」

「う~ん、やっぱり剣ですね」

「普通だね~」

「いや、そこはいいでしょ別に」

そして武器を決めた後、ユリウスは孝志と向き合い修行を開始した。


なんか遠くから橘雄星らしき人物の叫び声が引っ切り無しに聞こえて来るんだけど……気のせいって事にしておこう!うん!


俺が孝志に基礎を教えつつ、彼の剣筋を見ながら十数回ほど剣を合わせたそんな時だった。

一人の男性が第二王女の前まで慌てた様に駆け寄ってきた。
彼の事は良く知っている……王族に仕える専属の執事だ。

彼は俺や孝志に一礼すると、第二王女になにやら耳打ちを始めた。
恐らくこちらに聞こえない様に耳打ちで話しているのは、俺に聞かれたらマズイ内容ではなく孝志に聴かれるとマズイ話だからだろう。
内容を聞いた第二王女は驚いた表情を見せた。


「!クロードが?!……わかりました、直ぐに私も向かいます」

「お願いします、既に王子殿下が軽傷のエディ様に詳しい話を伺っておりますので」

「いま伺ってるという事は、詳しい状況はまだ解ってないという訳ね」

「はい。恐縮ながら私もこうして直ぐにマリア王女の元へ駆けつけてきたもので……」

「そう……急ぎの通達ご苦労だったわ。途中からでもかまわない、私も兄様と一緒にエディの話を伺いましょう。今すぐに向かうわ」

「はっ!かしこまりました!では直ぐにご案内致します、こちらへ」

執事の男性が案内を開始したところでマリアは思い出した様にこちらに…というより孝志の元へ近づいて行った。


「孝志様、先程の約束は別の日になってしまいました。お許し願います。ユリウスも失礼しますね」

そういうとマリア王女は長いスカートをつまみ、俺と孝志に会釈をした。


「はい。ではお気をつけて」

俺は余計な詮索などせずに第二王女に礼を取った。

そして孝志は深々と頭を下げる事でそれに応えた。
なんか孝志は凄く嬉しそうな表情になったが、なんでだろう?


しかし珍しいな……第二王女が出会って間もない、しかも男性と個人的な約束を交わしていたなんて。
さっきから孝志にまとわりついて居たのはそういう事もあったのかと俺は納得した。
やはり孝志は他者を惹き付ける何かがあるな。


第二王女は孝志の嬉しそうな表情を見て、何か言いたそうだったが特に何も言わずに執事の後を付いていった。

何があったかはわからないが、恐らく余裕が無くなる何かがあったんだろう。
去り際に執事の男性も孝志に会釈し、孝志がそれに返すと二人はこの場を離れて行ったのだった。



その後は予定時刻まで孝志と訓練をし、その日の仕事は終了である。


雄星らしき人物の悲鳴が聴こえていた場所からは既に雄星の悲鳴は聴こえて来なくなっており、いつのまにかアリアンと橘穂花の二人だけが修練に励んでいた。

遠目だがアリアンも橘穂花も凄い笑顔に見えるんだが……ま、いっか。

とりあえず俺は適当に友人等と時間を潰し、充分遅い時間になってから床に就いた。
これで明日も爽やかな朝を迎えられるだろう。


────────

・・・そして次の日の朝



目が覚めた俺の耳に橘雄星がアリアンに半殺しにされたというニュースが飛び込んで来た。




マジでなにやってんの?




しおりを挟む
感想 295

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...