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1章 五人の勇者
二重人格?
しおりを挟む~マリア視点~
私、マリア・ラクスールは兄であるブローノ・ラクスールの隣で2人の会話を聞いていた。
正直、お兄様は良くも悪くも人を選ぶ方だ。
これまで父上は色んな人物をお兄様に紹介するのだが、お兄様はその殆どの人物と仲良くしようとはしなかった。
何故なら父上が紹介してくれる人達は、決まって王族に私欲で取り繕うロクでもない者がだったからだ。
勿論、表向きでは仲良く振舞っているが、深く関わろうとしない。
だが相手も馬鹿では無いので、何年も付き合っていればお兄様に自分が好かれていないと気がつく。
故に、王宮内の権力者は心を開いてくれないお兄様を嫌っている者が多い。
お兄様を嫌っている者が多いということは、それだけこの国にロクでもない権力者が居るという事だが、権力者とはどこの国でも大抵がそういうモノでは無いだろうか?
我がラクスール王国が特別に腐ってるとは思いたくないわね…
そして、お兄様は人間性で人を判断していて、自分に取り入ろうとする者でもそれが邪でなければ邪険にせず受け入れる。
また、無能な者でも悪い人物で無ければ普通に接して相手が傷つかない様に、何が相手に足りないかを教えてあげたりする。
──要するに人の悪意にどこまでも敏感なのだ。
そしてそれは身内に対しても同じで、財政や政治の事でよく父上と反発し合っている。
とにかく、父と兄は言い争いが絶えないのだ。
勇者召喚に参加しなかったのも充分に言い争い、折り合いが付かなくなったのが原因でもある。
良く言えば人の善悪をしっかりと見極める事が出来る人物と言えるのだが、悪く言えば人付き合いの要領が悪く下衆と判断した者とはどうしても上手く付き合えない。
ただ私は、この様に悪意はしっかりと跳ね除ける芯が真っ直ぐなお兄様が大好きなのである。
──孝志は雰囲気的にも大丈夫だろうとは思っていたが、やはりお兄様が認めてくれたようで嬉しい。
そして孝志の方もやっぱりお兄様の良さがわかるみたいで、お兄様に出会った瞬間に気を引き締めた様に見えたわ。
そんな孝志と目が合った時は思わず笑い返してしまった……もっとも挑発的な笑みでだが。
─────────
「せっかく来てくれたんだ。今まで王族相手には堅苦しい挨拶ばかりだっただろ?普通の会話でもして楽しまないか?」
お兄様は嫌味の無い笑みで孝志に話しかけている。
相手が悪い人間で無ければ、お兄様はいつもこんな感じの優しい表情で話をする。
そして私はある事を気付かされた。
そ、そうか……私はそこまで考えて話をしていなかったわ。
彼の人間性やメンタル的に、堅苦しく話で気疲れするタイプでは無いと勝手に思い込んでいたけど、直接何度も話をしている以上、決め付けずちゃんと気にかけるべき事だったわ……
「はい、お気遣いありがとうございます。その様なお気遣いをして下さったのは、この世界に来てダイアナさんだけでしたので」
私をチラッと横目に見ながら嫌味のように【ダイアナ】の部分を強調して言う。
隠そうともしない嫌味に少しムッとしたが、それ以上に申し訳なく思った。
思い返せば、私がした話と言えば最初にこの世界の事に関する事務的な話と、後はイタズラやちょっかいを出していた程度。
ユリウスに至っては愚痴を言って困らせていたくらいだ……いや、私も愚痴っぽい話をしていた気がする……
確かに孝志が話しやすい空気なのもあるが、やはり立場上、気を付けるべきだったわ……
お兄様と孝志は更に話を続ける。
「そうだな……ではありきたりな話題だけど、松本孝志くん、何か趣味はあるかい?」
本当にありきたりな質問、しかし、相手を知る為には最初こういう質問が良いのだろう。
「そうですね……第一王子から見て趣味と呼べるほどか解りませんが、読書です」
それに対し答える孝志だが、出会って間もないながらも、こういうありきたりな質問に対しては、何かしらチャチャを入れるのが彼だと思う。
しかし、全くと言っていいほどふざけた様子が見られない。
加えて、読書なんてかなり保守的な回答で守りにいってるのもなんかズルい。
「そうか!僕も本を読むのは好きさ……それと良ければブローノと名前で呼んでくれないだろうか?後ろには何付けても構わないけど」
「わかりました。では是非ブローノ王子と呼ばせて下さい……それと自分の事はマリア王女もそう呼んでいる様に、孝志と呼んで頂ければ」
なんなのその応対の仕方は……いやもう別人格よ、なによそれ。
「そうか!では孝志、差し支えなければどんな本を読んでいたか聞かせてくれないかな?」
「はい。この世界で生きていくのに役立つ本を読んでいました」
いや何か凄く良い風に言ってるけど、それ只のファンタジー漫画でしょ。
前前勇者から言い伝わってるから知ってるんだけど?
「つまり漫画を読んでたんだね」
「漫画を知ってらっしゃるんですか?」
「うん。前前勇者から伝わっている書物だよ」
「え?ですが前勇者でも何十年前に召喚されたと聴いたのですが……前前勇者となると100年位前の話になるのではないでしょうか?…それほど昔になりますと私の世界に漫画などありませんよ?」
「ああ、この事はまだ聞いてなかった様だね……実はこの世界と勇者達が居た世界とでは時の流れがまったく違うんだよ」
それを聞いた孝志は一瞬だけ目を見開いたが、直ぐに何かを悟った様に頷いた。
「……つまりこちらの世界は、あちらの世界と比べて時の流れが速いと?」
相変わらずの推測力ね…お兄様もその理解力の速さに少し喜んいるみたいだわ。
「そうそう。こっちの世界に比べてあちらは非常にゆっくりと言うか……こっちの世界で10年が経過しても、あちらの世界では1年しか過ぎていないんだよ……驚いただろう?」
「驚きました……ですが、そういう感じな場所で修行する漫画があちらの世界にありましたよ」
「ハハッ、凄いな君達の世界は!」
それを聞いたお兄様は本当に愉快そうに笑った。
「実はね、僕は一度あちらの世界に行ってみたいと思ってるんだ」
「…帰る方法があるんですか?」
「……残念だけど、まだその方法は見つかって無いんだ……紛らわしい言い方ですまない」
お兄様は恐らくあちらの世界への憧れを語ったつもりだったのだろう。
私は孝志が行く方法と聞くのではなく、帰る方法と聞いたので少し申し訳ない気持ちになった。
当然帰りたいと思ってるのだろうが、勝手に呼び出しておいて我々はその術を持たないのだ。
お兄様は【まだ】見つかって無いと気を使った言い回しをしたが、実際、今まで何人かの勇者が帰る方法を探したらしいが見つかっていないのが現実だ。
そして孝志は頭が良いので、その事を理解したのだろう……逆にお兄様に対して申し訳無さそうな表情を見せた。
「あ、いえ、こちらの早とちりでした、すいません。帰りたいとは思っているのですが、それは無理だと前もって聞いておりました。こちらの世界で生きて行く覚悟はしていますよ」
「そうか……君は強いな。…そうだ、勇者に会ったら聞いてみたいことがあったんだけど──」
──目の前で会話を繰り広げてゆく二人。
私はたまに会話に混ざる程度で基本は聴きに徹している。
そしていつのまにか孝志から緊張は消えていたが、それでも礼儀正しさは損なっていない。
その光景はまるで、仲が良い上司と部下の様にも見えた。
……というより、例え数日程度の差とはいえ私のほうが付き合い長いはずなんだけど……
お兄様は流石だと思うけど、孝志に対しては何か納得いかないわねっ…!
─────────
お兄様との話が終わり廊下に出たあと、私は孝志に声を掛けようと近付いた……すると先に声を発したのは彼の方だった。
「くぅえぁ~……ゔぇっ……」
天を仰ぎ見て不気味な溜息を漏らす。
打ち解けた様に見えたが、精神力はかなり消費したらしい……精神Sなのでしょ?
そ、それより、なんなの?
どういう声なのそれ?少しきもいわよ?
「大丈夫?」
「…お兄様、ハンパないっすね」
「自慢のお兄様ですもの!」
具合悪そうにする彼を見ながら少し考える。
お兄様が彼にそうした様に、これからは私も気を使って話すべきでしょうね。
少しブレイクな所が有るとはいえ、彼が勇者であり客人なのを忘れてはいけない。
…そしてこの世界に無理矢理呼び出されてしまった立場に居るのだから。
「実は改めて思ったことがあるんですよ」
「何かしら?」
「マリア王女って王族として全然ダメだったんですね!ふはは!」
「あぁんですって!?」
いや、やっぱり今のままでいくわ。
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