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2章 クレイジースキル
今すべき事
しおりを挟む俺はダイアナさんに、とある人物が寝泊まりしている部屋を教えて貰い今その人の部屋の前まで来ている。
今から一世一代の大勝負だ。
ここでこのおっさんを口説き落とせなかったら死んでしまう。
覚悟を決めた俺は部屋の扉を力強く叩いた。
ドンドンッ ドンドンッ
「ユリウスさーん!俺ですけど!開けてもらって良いですか!ユリウスさーん!ユッリウッスさーん!よっ!33歳!」
すると、俺の情熱が伝わったのか、数秒足らずでユリウスさんが顔を出してきた。
「近所迷惑にも程があるぞ?あと年齢は気にしてるから言わないでね?」
ユリウスさんはなんとも言えない顔をしていた。
年齢のことはタブーなのか…未婚みたいだし、もしかして行き遅れてること気にしてるんだろうか?
女みたいな人だな。
「すいません。用件の前にどうしても誠意を見せたくて…」
「誠意?今のがか?……まぁとりあえず中に入れ、詳しい話を聞こう」
部屋の中に通された俺は、来客用と思われるソファーへ案内された。
客室なのに来客用のソファーと言うのも可笑しな話だが……王宮の客室だけあってかなり高価そうだ。
流石に昨日ブローノ王子と対談時に通されたソファーに比べたら全然だけど。
「第一王子と対談の時に座ったソファーに比べると安っぽいですね」
「当たり前のこと言わないでくれる?それに俺の部屋じゃないからな?」
昨日見捨てられたので嫌味を込めて言ったが、確かにユリウスさんの部屋じゃないのでどこ吹く風だ。
そのまま俺はユリウスさんが案内してくれた席に静かに座る。
「紅茶とコーヒーが出せるけど、どっちにする?俺のおすすめは紅茶だぜ?マリア様から頂いた高級な茶葉があるんだ」
「コーヒーでお願いします」
「……お前、誠意見せる気ないだろ?」
実は紅茶が苦手なだけなのだが、黙っていよう。
わざわざ弱点を教える事も無いからな。
「コーヒーに角砂糖は?」
「9つお願いします」
「マジかよっ……」
角砂糖もあるのかこの世界。
本当に建物と魔法とか以外は向こうの世界と変わらんな……漫画もあるみたいだし。
コーヒーを入れてくれたユリウスさんが俺の前にカップを置き、向かいに座ったので用件を話す事にした。
「また一昨日みたいにユリウスさんに指導して貰いたいと思って、それを頼みに来たんですよ」
「なんでまた」
こいつ知ってる癖に……顔も笑ってんだよ。
ーーでも此処はとりあえず指摘せずに媚びておくか。人はみんな好きだからな媚びられるの。
「アリアンさんに指導して貰って改めて思ったんです、やっぱりユリウスさんは天才なんだなって。あ、もちろん指導だけでなく頭も天才ですよ!あれ?しかも良く見たらイケメンだ!よ!イケメン!」
「……未婚の33歳だけどな」
「うぐぅっ!」
根に持ってやがる……!
王国No.1なのに器小せえぞこの人!
「まぁ冗談は置いといて、俺もいろいろ動いては居るんだけどな?アリアンがお前は自分が見るって聞かないんだわ……かなり気に入ってるみたいだぞ」
「はぁ?!なんでまた??」
「いや──」
──この時、ユリウスは思った。
ここで、『俺が孝志の事を良く言った為、アリアンがヤル気になった』と正直に話したらどうなるだろう。
俺に対する尊敬度が下がる。
今でさえやたら低いのに、これ以上下がったらどうなるか?もう、さん付けも無くなるかも知れない。
──だから彼は正直に話す事をやめた。
「知らないぞ」
「そうですか」
なんか変な間があったが、知らないか。
何で俺あんな狂人に気に入られてるんだ?つーか気に入られても全然嬉しくないわ!
俺が頭をかかえてると、ユリウスさんはある事を疑問に思ったらしく、それを聞いてきた。
「それより良いのか?俺が指導するって事は橘雄星も一緒って事だぞ?」
この狸め……!
昨日、訓練所に居なかったのが気になり、そこらへんの兵士に聴いてみたが、どうやら橘は新しく綺麗な女性の騎士を何処かで見つけたらしく、ユリウスさんではなくその女性を指導者にしたみたいだ。
それで昨日はその女性を騙くらかし、みんなして上手いことサボった様だ。
穂花ちゃんを除いて。
あの子は訓練しないままだと実戦の時が怖いなどと言って橘を説得し、一人だけユリウスさんの所に残ったらしいのだ。
昨日あの子が訓練所に来なかったのは、穂花ちゃんは魔法適正が極めて高いので、魔法の知識に関するガイダンスを受けていたみたいなのだ。
故に、ユリウスさんと訓練になっても居るのは穂花ちゃんだけなので、何ら問題はない。
むしろ穂花ちゃんと話せてラッキーまである。
「城の兵士に聞きましたよ?橘雄星が勝手に指導者を連れて来たから、今は穂花ち……穂花さんだけの指導だって」
「お前の情報収集力すごいな!確かにそうだぞ!」
よし、いい感じだな。
そしてユリウスは少し考えたあと
「お前のその頑張りに免じて、今日はマジでアリアン説得してやるよ…期待して待ってろよな」
「ひゅうっ~!ユリウスさんひゅうーひゅうー!」
「……凄いのか、変なのか、よく解らんなほんと」
希望を見出した俺は少し冷めてしまったコーヒーを飲んだ。
「美味い!」
「味覚は凄いな」
─────────
ユリウスさんとの予定を終えた俺は、そのまま食事場へと向かう。
良い方向へと話が進みそうなので気分は明るい。
結構話に時間が掛かったので、今日は遅すぎなのが理由で橘と会わずに済みそうだ。
──それと俺は歩きながら今朝に出会ったアルマスについて考えてみた。
あの後、俺の後ろに回り込み覆い被さったかと思うと、本当に俺の中にでも入って来るかの様に消えてしまった。
あれだけあった存在感がウソの様だった。
今もまるで気配がない。
……ほ、本当に居るのだろうか?
何だかんだアテにする気満満なので、居なくなられては非常に困るんだが……
不安に感じた俺は、周囲を見渡し誰も居ないのを確認してから一度アルマスを呼んでみる事にした。
「……アルマスさ~ん」
何故か小声で……だってなんか恥ずいじゃん?
すると、すぐさま水色長髪の女性が目の前に現れた。
うおっ!本当に出やがった!
「呼ぶの早すぎだわ流石によぉ……舐めてんのか、おら」
「何いきなりオラついてんだ?あん?」
「じゃれ合いはそこまでだ……それでマスター用件は?」
「う~ん…特にねぇな…」
俺がそう言うとアルマスは唖然とした表情を見せた。
「まさか用も無いのに呼んだのですか?」
「……うん!」
「さびちかったんでちゅね~」
「え?バカにしすぎじゃね?」
「用が無いなら、あたい、もう行くね!」
用が無いと分かったアルマスはわざとらしくウインクをして消えてしまった。
なんだこの圧倒的な敗北感は……悔しいっ……!
──くそっ!もう用が無い時は絶対に呼んでやらねぇぜ!
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