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2章 クレイジースキル
突撃ラブアタック!
しおりを挟む俺はアルマスに言い逃げされた後、敗北感を味わいながら食事場へ向かう。悔しいけど、お腹は減る。
直ぐに食堂まで到着するのだが、入り口付近に来た所で足を止めた。そして俺は思わず目を見開く。
穂花ちゃんが入り口の前に居たのである。
……それはいい。
だがそこに居る穂花ちゃんは、うずくまる様に身を丸めており、何か大切なモノでも無くしてしまったかの様な絶望感を漂わせていた。
只事では無いと感じ取った俺はすぐさま穂花ちゃんの元へ駆け寄った。
「穂花ちゃん!?大丈夫?どうしたの?」
俺の声を聞いた穂花ちゃんは跳ねる様に顔を上げた。
目には涙を溜めている。
「!!!……ああ、孝志さんだ~見つかった……ううっ良かったぁ…ひぐっ」
俺の顔を見た途端、穂花ちゃんは安心したかの様に泣き出してしまった。
なんか俺の顔がヤバイから泣いたみたいになってない?!
いやたぶん流石に違うとは思うけど……見つかったとか言ってたし、俺を探してたんだろうか?
「もしかして俺のこと探してた?」
「…ぐずっ、はい……昨日いろんな所探したのに全然……孝志さん居ないから…ひぐっ……もう嫌になって出て行ったんじゃないかって……」
昨日はブローノ王子に会ったり、アリアンさんに3時間残業させられたりで長いこと拘束されていたからな……ぐすん。俺も泣きそう。
一瞬、穂花ちゃんの泣いてる姿が妹の弘子と被ってしまい慰めに頭でも撫でようかと思ったが、そんなセクハラ的な勘違い行動は止めておく。橘じゃあるまいし。
けど当然ほって置く事なんて絶対に出来ないので、俺は穂花ちゃんが泣き止むのを隣で待つ事にした。
─────────
「ごめんなさい!取り乱してしまって!」
「いや、気にしないで良いさそんなの。ハンカチでもあったら貸してあげたんだけど」
生憎、そんなアイテムなど持っていなかった。
俺は和ませる様に笑いながら言う。
「いえ…隣に居てくれてただけで、どれだけ嬉しかったか」
穂花ちゃんは本当に嬉しそうにニヤニヤしている。
さっきまでとは大違いだ。
「そういえば穂花ちゃん、俺に用事ってなに?」
彼女が落ち着いたであろうタイミングを見計らって俺は用件を尋ねた。
まさか俺が原因で泣いてたという事は無いだろう。
何で急に泣き出したのかは……聞かない方がいいな。
どうせ橘関連だろうし、アイツほんとクソだな穂花ちゃん泣かすなんて。
「ふぇ……?用事、ですか?」
「いや、探してたみたいだったから、用事があるんじゃないかと思って」
「そ、そんな事より、ご飯まだですよね?!一緒にどうですか?!」
「おっ、うん。じゃあ食べようか」
彼女は何かを誤魔化す様に提案して来るが、追及はしないでおこう。俺に関する事とはいえ、あまり言いたく無さそうにしてる事をしつこく聞いて印象を悪くしたくはない。
加えて腹を空かせたていた俺は、そのまま穂花ちゃんと一緒に食事場へと入って行った。
─────────
俺が席に座ると、穂花ちゃんは何やら俺の近くに来てモジモジしている。
そして意を決したかの様に頷くと、俺の隣に座った。
それもくっ付くかという位にイスを俺の近くに寄せて。
「あ~良い匂い…幸せ…♡」
ん?料理はまだ来てないんだが?
厨房の匂いがわかるのか……だとしたら凄い嗅覚だ。
──あっ、ちょっと!なんかこの子、急に俺の太ももを撫で始めたんだけど!止めて!ひひっ!
「ちょ、ちょっと穂花ちゃん?くすぐったいよ?俺身体中が性感帯だからくすぐり凄い弱いんだよ、ぷくくっ」
「ごめんなさい、もうちょっとだけ!はぁはぁ♡」
それから穂花ちゃんのくすぐり攻撃は料理が到着するまで続いた。
凄いイタズラっ子だったんだな。知らなかった。
「──やり過ぎました、すいません……」
「いいよもう…でもくすぐり本当に弱いから、勘弁してね?」
穂花ちゃんは反省の弁を述べている。
何て言うか、この子には頭が上がらないんだよな。
そして、今の穂花ちゃんに先程までの悲愴感や慌てた感じはまったく無かった。
まるで憑き物でも落ちた様に、ニヤケ顔というか……幸せそうな表情をしている。
そしていま俺と穂花ちゃんは食事しながら話をしている。
側から観たら食べながら喋るなど、品の無いことかも知れないが、テーブルマナーなんて解らない。
それに遅い朝飯なので、俺たち以外誰も居ないから別に良いだろう。
因みにダイアナさんは、ユリウスさんの所に用事があったので、悪いと思い付き添いは断らせて貰った。
普段のダイアナさんならそれでも着いて来てくれたんだろうけど、今日は何やら夜に大規模なパーティーが行われるみたいなので、朝から忙しいらしい。
それなのに朝の世話に来てくれるんだから、本当に感謝しかない。
「それに、心配させたんですから、ちょっと罰と思って下さいね!」
心配してくれていたのか、やっぱり優しいな穂花ちゃんは……でも良く考えたら1日会わなかっただけで大袈裟な気もするんだけど。
それにしてもくすぐりが罰?可愛いなもう!
「俺の居場所が解らない時はユリウスさんに聞くと良いよ」
「ユリウスさん?」
「そう。それに俺が居ない時は、だいたいあの人の所為だからね…そう、あの人が悪い」
人を売るからなユリウスさん。
穂花ちゃんも気を付けてね。
「ユリウスさんって悪い人なんですね……そう言えば最初も孝志さんのこと笑ってましたし……良い人だと思ったのに騙されましたよ」
彼女はムッとした表情でそう言った。
ユリウスさんの好感度がかなり下がったみたいだな、ドンマイ。
まぁほっといても良いけど、少しフォローしてやるか(悪く言ったの俺だけど)
「穂花ちゃん…確かにユリウスさんは悪い人だけど、間違いなく良い人だと思うよ」
「悪い人なのに良い人何ですか?」
確かに今の俺の言い方だと意味不明だな。
「あの人は何というか、この王国内では凄く偉い人なのに、全く偉ぶらないんだ。それに悪いと言っても笑って済ませられる程度のモノだよ?」
アリアンさんの件以外は。これだけは許すまじ。
穂花ちゃんは何か聞き返す感じでも無いので更に話を続ける。
「だから俺なんか調子に乗ってふざけた態度とったりするんだけど全然怒らないんだよ。まぁ俺もそういう人って解ってるからそういう態度なんだけどさ」
でなければ俺もあんな口の利き方はしない。
「…ふふ、仲が良いんですね」
「っ!ち、違うよ?そんなんじゃないしっ」
何か俺ツンデレみたいになってんだけど!?
……けど、正直言ってあれだけ気楽にやり取り出来る大人なんて早々居ないだろうから、人としてかなり好きな部類だ。本人の前では絶対言わないけどな!
ユリウスさんのフォローも終わり、話が落ち着いた所で先程から気になってる事を聞いてみる事にした。
「そういえば橘達はどうしたんだ?」
本当に今更な気がするが一緒に居ないのが珍しいので気になっていた。
「違う話にしませんか?あの人の話なんて食事中にするものじゃ無いですよ?」
「け、結構酷いこと言うのね……」
表情もムッとしたものに変え、穂花ちゃんはそんな事を口にする。
そういえば、一昨日も何か酷いこと言ってたし、間違いなく喧嘩してるなこれは。
俺が一人で納得していると彼女はまくし立てる様に言ってきた。
「それに聞いて下さいよ!あの人、女の人の奴隷を買いに行ったんですよ?」
違う話をするのでは?……というか──
「……奴隷?」
流石の俺も絶句した。
「買いに行ったのか……?本当に?」
「はい!信じられますか?」
いや、信じられん。
橘の事はクズ野郎と解っていたけど、ここまでとは……
確かに堂々と買いに行くのだから、この国の法律では問題ないのかもしれない。
この国の人間が買うのなら別に良いだろう。
だが、俺たちは異世界人だ。日本から来たのだ。
人身売買なんて犯罪だった国から来たのである。
この国では合法でも、日本人である俺達がなんの躊躇もなく、よく平気で人を買おうと思うよな……
もちろん、奴隷だろうと他者の手助けが無ければ生きていけない状況だったなら分かる。
だがこれだけ手厚く保護された状況下では必要などまったく無い。
しかもあまり言いたくは無いが、アイツだったら奴隷なんて買いに行かなくても女性には困らないだろうに。
「孝志さんは……行かないですよね?」
「こ~ら、冗談でもやめなさい」
俺は穂花ちゃんの肩を優しくポンと叩いた。
「あ、はい!失礼なこと言ってしまいました……ごめんなさい」
穂花ちゃんはとんでもない失言をしたと思ったのだろう、ニヤケが消え、しゅんとした態度をみせる。
確かに失礼かも知れないが、俺はほんとに気にしていない。もちろん相手によっては怒るけど、穂花ちゃんなら許せる。
穂花ちゃんとしては橘が買いに行った以上、同じ男である俺も行くんじゃないかと気になったんだろう。
弘子の友達の前でカッコ悪いとこ見せたく無いし、何より人なんて死んでも買うつもりないからな、俺は。
「よし、穂花ちゃん、明るい話に替えようか」
「あ、はい!」
穂花ちゃんに笑顔が戻った。
やっぱりこの子は笑ってる顔が一番似合ってる。
「そういえばさっきアリアンさんがですね──」
「ひぃっ!アリアンさん!?」
「うわぁ、ど、どうしましたか?!」
穂花ちゃんの口から急に俺を悩ませるトラウマワードが出てきたので反射的に怯えてしまった。
いくらなんでも酷いよ穂花ちゃん!明るい話って言ったのに!
「いや、なんでもない……でも違う話にしない?アリアンさんの話なんて食事中にするもんじゃないぜ?」
「け、結構酷いこと言いますね……」
俺と穂花ちゃんがそんなやり取りをしている時だった──
「おい、ちょっといいか?」
「っっ!!」
唐突に後ろから声が聞こえ、俺は冷や汗をかく。
噂をすれば影がさす、と言う言葉がある……ま、まさかっ!俺は身体中から冷や汗をかく。
そして、恐る恐る後ろを振り返った──
──するとそこに立って居たのはユリウスさんだった。
「なんだユリウスさんかよ!ビビって損したぜ!」
「…悪かったな、俺で」
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