普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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3章 フェイトエピソード

3章 プロローグ 〜嵐の前の静けさ〜

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───多分、俺は夢を見ているのだろう。

行ったことの無い場所で見覚えの無い部屋……その異様な光景に俺は夢だと確信した。

そんな夢の中で、ひとりの少女が寂しそうに鏡の前に立ち自分の姿を見ていた。

少女の頭には角が生えており、もしかしたら龍人と呼ばれる者なんだろうか?
実際に見た事は無いけど、聞いてた特徴と一致しているから可能性は高いだろう。
それ以外の特徴としては、小柄な体躯に、長い黒髪、黄金に輝く瞳……どれも独特なものだ。

……けど、そのどれを取って見ても、俺には可愛いらしいものに見えた。


──だが、彼女は鏡に映し出された自分の姿を見て泣いている様だった。
何が悲しいのか解らないけど、ただただ悲しそうな顔で自分を見つめながらずっと泣いている。

そして、夢の中で俺はその少女の可愛さに見惚れてしまっているようだった。
俺は気が付けば吸い込まれる様に少女へと歩み寄って行く。

俺の気配に気が付いた少女は振り返り、俺を見つけた途端に泣き止むと笑顔を見せてくれた。
どうして俺を見て笑って居るのかもわからない。
解らない事だらけの夢だな。

…ただ、そうして笑った少女は一際可愛いかった。



──すると突然景色が変わり、今度は真っ白な何も無い空間に俺がひとりで佇んでいる風景になってしまった。

さっきから本当におかしな夢だなと思いながらも、ただボーっと俺は突っ立て居るだけ…

そこへ何者かの声が頭に響いて来るのだった。


『どうか娘を救って下さい……貴方なら……いいえ、貴方にしか出来ないんです』

女の人の声だ。
娘?救う?さっきの少女だろうか?
彼女は何か酷い目に合っているのだろうか?


『ミカエル大草原へ……獣人国に向かう途中に通る場所……そこに大きな洞窟が存在する……そこで娘と出会う事が出来ます……』

今度は男の人の声が聴こえて来た。
獣人国?何でそんな訳の解らないところに行かなければダメなんだ?


『『どうか娘を孤独な運命からお救い下さい』』

めんどくさいな……
運命とか急に言われても重過ぎるし……けど──



──あの子に会えるんなら、行っても良いかも知れない……


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


……すごい夢を見てしまった。
可愛い女の子に笑顔を向けられる夢だと?
俺って女に飢えてんのか?そうなのか?

俺は寝ぼけ頭でいろいろと考える。
獣人国にミカエル大草原か……後でユリウスさんにでも詳しく聞いてみるか。

……頭が冴えて来たので改めて状況を確認すると、未だに俺はアルマスに抱かれている様だった。
そして左の頬には少し柔らかい感触がある。


状況を思い出した俺は躊躇なくアルマスを突き飛ばした。


「つぇいっ!」

「きゃっ♡」

何で少し嬉しそうなんだよこいつ。
……って言うか


「お前、なに人の弱っている所に付け込んで抱きしめてんだよ!?」

「お前ぇ??」

「ア、アルマス」

何でこいつお前呼ばわりすると怒るんだ?
うちの母さんかよ……反抗期でお前って言うとすげぇキレんのよオカン……って怯むな俺!アドバンテージはこっちに有るんだよ!


「おま……アルマスに抱かれながら眠った所為で変な夢観たじゃねーかよ!」

お前って言えなかった~…私ってばほんとヘタレ。


「変な夢?……っ!!も、もしかして?私とマスターがあんな感じになる夢!?」

こいつ…!クソうざい勘違いしてやがんな…!
いや、わざとだな。だと解ったら尚更腹たつな。


「違うわ!ベクトルは似てるけど、違う女の夢だから!」

「違う女ぁ?それはどう言うことです?ん?」

「べ、別にそういうつもりで見た夢じゃないから!」

なんか浮気男の言い訳みたいになってるし…
てかパーティーの時間もうすぐだろうから、そろそろマジで準備したいんだけど……ところでいま何時だ?


「私と言う者が居ながら、違う女なんて……私とは遊びだったんですね…?!」

「はっ!今頃気付いたか!バカ女め!」

「ひ、ひどい……!あの子はどうなるのよっ!」

「そんなもん知らん!」

「あ、あんまりよ~っ……!」

って乗ったらダメじゃないか!
遅れて王様に目を付けられるとか嫌だからな!
……てか何だよあの子って…


「……もう気が済んだか?」

「うぃ」

「いま何時だ?」

「パーティーまでは1時間以上の猶予がありますが……私もそろそろマスターを起こそうと思っている所でした」

「時間はあるけど、とりあえず早目に支度だけは済ませておくか…」

俺はベットから降りて準備に取り掛かろうとするが、その前に一度アルマスの方を向いた。

何だかんだ言ってさっきのアルマスを見るに、いざと言う時は本当に頼りになると解った。
彼女は自分を卑下していたが、俺はあの出来事でアルマスの事を完全な味方だと信じられる様になった。
能力以上に、信頼出来る関係であるという事は有り難い事だと俺は思う。

そして俺はアルマスに一言声を掛けた。


「まぁとりあえず、おはよう……それと、これからも宜しくお願いな」

「……ぁ……ふふ、おはようございます……こちらこそ宜しくお願いしますねマスター」

俺が目覚めの挨拶と宜しくの挨拶を交わすと、アルマスは満面の笑みでそれに返してくれた。


─────────


挨拶を交わした後、すぐにアルマスには引っ込んで貰った。
アルマスは煩いので居るとスムーズに支度が出来ないからな。

どうやらパーティ用に拵えた服は、俺が外出している間にダイアナさんが俺の部屋の分かり易い所に掛けてくれていた様だ。
さっきは弱ってて気付かなかったけど、流石はダイアナさんだ。

因みに、服の近くにはパーティ会場の場所や、時間を記した書き置きがあり、アルマスはそれで時間を把握していた様だ。

てかダイアナさんが忙しくて来れないのは仕方ないけど、他に案内してくれる様なメイドは居ないのか?

……もしくは誰かの所に集まって居るとか……なんか嫌な予感がするんだけど…流石に幾ら何でもそれはないか?

……いや、アイツならやりかねん。


そんな事を考えながらも身支度を整え、少し早めにパーティー会場へ向かう事にした。
ダイアナさんからの手紙によれば、会場には勇者を案内してくれる方が居るそうだ。



──俺が部屋を出て少し歩いていると、反対側から俺に向かって来る小さな人影が見えた。


「さっきぶりです勇者様、偶然ですね」

「おうさっきぶり」

やって来たのは今日の午前に出会ったばかりのシーラというヴァルキュリエ隊の少女。
どうやら偶然通り掛かった様だ。


…いや、偶然って言ってるけど、ここって勇者か、客人として招かれた者か、その関係者しか入れないんじゃないのか?
この子ってもしかして凄い権力者の娘だったりするんだろうか?

俺はそんな事を考えているが、ふと視線を感じたので目線を下げると、シーラはジッとこちらの顔を見ている事に気が付いた。


「な、何かな?」

「…睡眠は何時間くらいとってますか?」

「昨日は6時間くらいかな?」

そんな寝不足な顔してんのか?むしろさっきまで寝てたから眠気なんて全く無いんだけど?


「短いですよ!人間の必要睡眠時間は8時間と聞きましたよ?もう少し早く寝るように心がけましょう」

……オカンなの?
アルマスといい、このお子様といい、俺って母性本能擽ってる?


「それと、ハンカチはちゃんと持ってますか?」

「いやオカンかよ!」


あっ!ついに声に出して突っ込んでしまった……

俺が口にしてしまった突っ込みを聞くと、シーラは顔をみるみる真っ赤にしていき、少しキレ気味な口調で言い返してきた。


「オ、オカン!?別に貴方の様子を見に来た訳では有りませんからね!?何を勘違いしてるんですか!?」

「いや、それは解ってるって」

急にどうした?……さっきまでの子供とは思えない程の冷静さは何処いった?



──え?もしかしてこの子もヤバかったりする?

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